(6)
「あやつの言う事は絶対に聞くな。貴公とて薄々は感付いておろう」
結局、我々は王都に戻る事になった。
誘拐された王女の行方の捜索は……我々と官憲の両方で行なう事になった。
……いや……成人以来、無役だった私でさえ「指揮系統の混乱」その他の不吉な言葉が脳裏に浮かんだが……。
そして、王都に戻る旅路の途中の小休止の際に、王子は「旅の同志」達に、個別にその事を告げているらしく……何度目かの小休止の際に、私の番が回って来た。
「あやつの一族は……百年以上前の戦乱の時代においては名門とされていたが……今では没落しておる。……たまたま、あやつの母親が私の乳母だっただけで、兄弟のように育ったが……あやつは……庶民どもと大して変らぬ卑しき性根の持ち主よ」
……たしかに……魔導師が口にしたほど、あからさまでは無いが、我々、貴族や騎士も……あの魔導師と似たような「結婚」観を持っている。
「女は子供を生む道具」
「男とて、好いた相手と結婚出来る訳ではなく、嫁は自分が属する一門の都合で決められる」
「そして、その傾向は……名門であればあるほど、更に、一門の中で『本家筋』に近ければ近いほど、あるいは『名門の本家筋』から外れていたとしても、何かの重大な役職にあったならば、強まることになる」
「名門の本家筋の当主本人だとしても、五月蝿い事を言ってくる親類や代々の家臣の意見を無視して結婚相手を決めるのは事実上不可能」
その事を認識していない「騎士・貴族・王族」が要るとすれば……。
お互いに気付いていないだけで……殿下とヴィシュマ殿は、似た結婚観をお持ちらしかった。
ただし……殿下は……「騎士・貴族・王族」の中でも別格の御身分ゆえの「世間知らず」のせいで……。
そして……ヴィシュマ殿は……騎士・貴族の中とは言っても、限りなく、庶民に近い身分のせいで……どうやら「感覚」「常識」が庶民に近いモノらしかった。
いや……私だって……そうだ……。
もし……私より有能な妹が男であってくれたならば……。
面倒な一門の家長の座を明け渡し……惚れた女と心の通じ合った夫婦になれたかも知れぬのに……。
とうの昔に諦めていた筈の……親に間を引き裂かれたかつての恋人……。
彼女の顔が急に脳裏に浮かんだ。それも……私と彼女が、一番幸せだった頃の笑顔が……。
今頃……彼女は……私よりマシな男と結婚し、幸せになっているのだろうか? せめて……そうであってくれ。
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