(5)
「王都に戻りますか?」
「……」
「それとも、この町で少し休んでいきますか?」
「……」
「そもそも、捜索を続けますか? それとも、この国に官憲に任せますか?」
「……」
「殿下……。畏れながら……我が一族の家訓の中に、このようなモノがございます。『選択や決断には責任が伴なう。そして、何の決断も選択もせず、状況に流される事もまた、責任が伴なう決断や選択である』。殿下、御決断を」
「うるさいっ‼」
この町で目撃された「旅をしている身分の高そうな3人連れの女」の正体は……その日の内に判明した。
我々の手ではなく、この町の役人達の調査によって。
「身分の高そうな3人連れの女」の正体は……町の近くの……十年ほど前に新しい商売に手を出した結果大損して没落した地主の一族の女達だった。
数ヶ月前に、本当に身分の高そうな何者かに、この日に「身分の高そうな女3人連れが旅をしているフリをしろ」と言われて、売れば庶民一家族の一ヶ月分の生活費を超える額になる変装用の服を渡されたらしい。
そして、迂闊にも、「旅をしている身分の高そうな女3人連れ」のフリをした今日の内に、変装用の服を古着屋に売ろうとしたのだ。
だが、古着屋は不審に感じた……。十年ほど前に没落した一族の者が……明らかに最近作られた
「どうだった?」
殿下は……そう
順調に行っていると思わせておいた上で、それまでの「攻め」が全て空振りだったと気付かせて、相手の戦意を削ぐ。まるで……腕前では並の男より上だが、膂力では流石に男に劣る我が妹の得意手のようだ。……後にして思えば……この時に「何かおかしい」と気付くべきだった。
本日も、泊まるのは、この宿場町で一番の格式の宿屋。
そこに魔導師と司祭が戻って来た。
「あの者達には軽い『精神支配』の魔法がかけられていたようです……。『約束は守らねばならない』と云う程度の……」
魔導師と司祭は、逮捕された「身分の高そうな3人連れの女」のフリをした没落した地主の一族の女3人を調べに行っていた。
「『軽い』とは、どう云う事ですかな?」
ヴィシュマ殿がそう訪ねた。
「『精神支配』の魔法で『常識的な事をしろ』『お前が正しいと思う事をしろ』『世間で正しいとされている事をしろ』『誰でもやっているような事をしろ』と命ずる場合は……軽いもので十分な場合が多いのです。そして……軽い魔法であるが故に、余程、注意せねば、魔法がかけられている事を見落してしまう」
「なるほど……。そのせいで『約束を果たさずに、服だけを古着屋に売る』ような真似をしなかった訳ですな」
「左様で」
「つまり……使った魔法は『軽い』ものだが、使った手は巧妙だった、と云う事でしょうか?」
「はい……左様で」
「では……その魔法をかけた者は何者か判りますかな?」
「残留魔力だけでは判りませぬ。そして……『軽い魔法』であるが故に、未熟な魔導師でもかけるだけは可能ですが……手口を考えた者は……『精神支配』の魔法の性質を良く判っている者です」
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