(4)
「なぁ……婚姻とは……本当に、昨晩、あの魔導師が言ったようなモノなのであろうか?」
朝になって、宿屋を立った途端、隣国の王子から、そう相談された。
何故、私にそんな事を聞くのか、さっぱり判らないが……。
親や結婚した親類・知人を思い浮かべる。
「ひ……人によりまするかと……」
思えば、名門の家長か家督を継ぐ必要が有る夫婦ほどよそよそしく、そうでない夫婦は心が通じあっているような傾向が有る……ような気がする。
「なるほど……確かに……。親や一門に決められた間柄でも……心が通じ合えば、良い夫婦になれるやも知れぬな」
私が言った「人による」とは「自分が見た範囲では……一族・一門・国・領地・領民……そんなモノに対する責任が重い者ほど幸せな婚姻は難しいようだ」と云う事を、将来、一国の王となる方に言える訳が無いので、曖昧な言い方をしただけだが……殿下は別の意味に解釈されたようだ。
万が一、隣国の王子と我が国の王女が結婚した後に、夫婦仲が悪くなった時に備えて……逐電の準備をしておくか、殿下の記憶力に問題が有る事を祈るしか有るまい。
「急ぐぞ」
「我ら魔導の徒の『遠話』網を使って、行く先に有る町に、軍馬の手配をするように連絡しておきました。憐れではございますが……追い付く為に、馬を使い潰す事も可能でございます」
魔導師はそう言った。
「うむ……。可哀そうだが……仕方あるまい」
これで、魔導師は、昨晩「実は誘拐犯の元夫だった」と云う事実をバラされた事で被った疑念を払拭出来たように見えたが……。
この街道には、人間が朝から夕方まで歩いて行けるの約半分の距離ごとに宿場町が有る。
そして……。
6人の一行で二十頭を超える馬を使い潰した結果……。
「『遠話』網とやらを使って報告が有った身分の高そうな女3人の一行は歩きだと云う話だったな……」
「はぁ……」
「王都から、この町まで歩きで何日だ?」
「一週間以上はかかるかと……」
「王女の誘拐が起きてから、何日だ?」
「まだ、5日経っておりませぬ……」
「では、何故、この町でも、その『身分の高そうな女3人の一行』が目撃されておる?」
「そ……それは……」
「そもそも、犯人は、いつから王女の誘拐を計画していたのですか?」
ヴィシュマ殿がそう指摘した。
「なに?」
「かなり以前から、誘拐を計画していたのであれば……例えば、この近隣の女3人に『この日に、身分の高い女に見える格好をして、旅をしているフリをしろ』とあらかじめ頼んでいた可能性は有りませぬか? それを本当の逃走経路とは違う方向に有る様々な町でやっておけば……」
「で……では……我々は……逆の方向に誘き出されたと云う事か?」
「逆だと言い切れるのなら、まだ、結構。頭の働く者なら『明後日の方向』に我々を誘導した可能性が……」
「尊公の元嫁は、この手の事で頭は働くのか?」
昨晩に続いて、司祭が魔導師を問い詰める。
「知らん」
「はぁ?」
「だから……昨夜、言うた筈だ。あれとは『より魔力が強い子孫』を作り出すだけの関係だったと……。本当に知らんのだ……あれが……例えば、食べ物や酒は何を好むかなど……かつての妻については、魔導師としての得手・不得手や腕前以外……ほとんど何も知らん」
「それでも夫婦か?」
「いや、夫婦とは……身分の低いヤカラ以外は……このようなモノでは無いのか?」
「あの……魔導師と……その元妻の関係は……夫婦としては普通なのか? 頼む……誰か……違うと言ってくれ……。斯様な『夫婦』は、断じて『普通の夫婦』ではないと……」
隣国の王子は、青冷めた顔で、悲痛な声を上げた。
「殿下……」
「何だ?」
続いて、王子殿下の御付きの騎士であるヴィシュマ殿が、悲痛な表情と冷たい口調で告げた。
「これだから、この国の官憲に任せろ、と何度も申し上げたのです。我らのような素人が手馴れた者達の邪魔をするな、と」
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