(3)

 身分の高そうな女の3人連れが旅をしているのを見掛けた。

 そのような報告が魔導師達の「遠話」網でもたらされた。

 もちろん、「身分の高そうな女の3人連れが旅をしている」など普通は有り得ない。

 すぐに金目当ての山賊の犠牲になる。

 有り得るとすれば……「山賊より強い身分の高い女」ぐらいだ。

 我々は、その一行の足取りを追い……。

「殿下……このような事はこの国の官憲に任せるべきでは無いでしょうか?」

 我が国の王女の許婚いいなづけである隣国ウェイ=チャンの王子の御付きの騎士ヴィシュマはそう言った。

「その話をするのは何度目だ?」

 旅が始まって1日目の夜、この町で一番格式が上の宿屋の最も広い部屋で打ち合わせを行なおうとした途端……それだった。

「そもそも……この国の宮廷付き次席魔導師が王女を誘拐した理由は調査されましたか?」

 ヴィシュマ殿がそう言った瞬間……。

「ご……御貴台……何だ……その目は? 何故、そのような目付きで我輩を見る?」

 王女を誘拐した女魔導師の元夫である宮廷付き主席魔導師が、そう叫んだ。

「この中で犯人の人となりを一番良く御存知なのは尊公であろう。尊公の元嫁が、あのような真似をした動機に心当りが有るなら……早めに言われた方が良かろう」

 そう言ったのは……宮廷付きの主席司祭だった。

「知らん……想像も付かん……」

 だが、事態は更にややこしい事になった。

「待て……。どう云う事だ?」

「聞いておりませぬぞ。御説明頂こうか?」

 そう言ったのは、隣国の王子殿下とその御付きの騎士のヴィシュマ殿だった。

 どうやら……隣国に知られてはマズい事を、司祭があっさり言ってしまったらしい。

 「影」は部屋の隅で……自軍の全滅がほぼ確実な負け戦に動員された下級兵士の如き……いや、百年以上大きな戦争が無い今の時代に、そんなモノは見た事が無いが、喩えるならば……諦め半分、ヤケクソ半分の表情で天を仰いでいた。

「知りませぬ……。かつての妻とは……互いの一門の長老の命令で、より魔力の強い子を作る為、結婚しただけに過ぎませぬ。そして……『血筋』の相性が悪かったらしく……並の素質しか無い子供が生まれたので、離縁しました」

「誰が……そんな話、信じるか? 貴殿ら魔導師の一族は……女性にょしょうを人では無く子供を作る為の道具に過ぎぬと考えているとでも言われるのか?」

 ヴィシュマ殿の怒号。

 しかし……段々と、ヴィシュマ殿の表情が変っていった。……理解出来ぬモノを見ているような「恐怖」と「呆然」が入り混じった顔に……。

 それは、魔導師も同じだった。ぽか〜ん、とした顔。ヴィシュマ殿の怒り……おそらくは「義憤」の理由について、全く見当が付いていないらしかった。

 ヴィシュマ殿は魔導師を奇怪な習俗……例えば邪神に乙女を人身御供として捧げるが如き……を持つ蛮族でも見るような目で見て、魔導師はヴィシュマ殿を訳の判らぬ事を言う世間知らずのように思っているらしかった。

「婚姻とは色恋ではなく、己の属する一門の都合で行なわれるもの。女は子を作る為の道具。男とて、好いた女ではなく、一門を利する相手と添い遂げねばならぬ。心が通じ合わなくとも夫婦である事は出来る。それの何が……悪いのでしょうか? 畏れながら……騎士や王族も、その点は同じでは?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る