(2)
恥ずかしながら、子供の頃から、貴族社会特有の「上下関係」が苦手だった。
異常にややこしい家格や官位や役職や経歴や人間関係を総合的・俯瞰的に判断し、誰が目上・格上で、誰がそうでないかを、瞬時に見抜かねば、良くて恥をかく羽目になり、悪ければ身の破滅だ。
その点、庶民は気楽でいい。貴族には、とりあえず頭を下げておけば問題は無いのだから。
目上・格上の相手に対して、同格や目下・格下に対する態度を取れば、喧嘩を売っているも同じだ。
逆に、目下・格下の相手に下手に礼を尽したり敬意を表せば……誰かに見られていたら、笑い物になる。
更にややこしい事に、上下関係は場や状況によって変る。同じ相手であっても、公務・武芸大会・舞踏会・宴席などの「場」が違えば目上になったり目下になったりなど良く有る事だ。
しかし、私が加わる羽目になった、この「旅の同志」達は……多分、誰が目上か目下か、あの陰湿な貴族社会を生き抜いてきた歴戦の
1人は、同盟国ウェイ=チャンの王子。身分は私より上。しかし、主従関係は……今は無いが、もし、我が国の王女とこの王子殿下が目出度く結婚あそばされれば、私と、この王子の間には主従関係が生まれるかも知れない。主従関係が、無いようで有る、有るようで無い、極めて曖昧なる間柄だ。単に「身分が上の相手」として扱えば良いやら、「将来の主君」として扱えば良いやら、判断に困る。
1人は、その王子の護衛の騎士。我が国とは官位・家格の体系が色々と違うので、私と彼のどちらが目上なのか判然としない。
宮廷付きの主席魔導師と宮廷付きの主席司祭は……同じ
最後の1人が、最大の問題だった……。ただ「影」とだけ呼ばれる男。この国の国事の「裏」を担ってきた一族の更に家臣だ。私から見れば、私が言わば王の「直臣」なのに対して、この男は「陪臣」に過ぎない。だが、一目見て判った……一行の中で、腕前が一番上なのは……こいつだ……。
更に言えば、この「影」なる男は……彼自身の立場で、ここに居るのか? それとも「彼の主君の代理」として扱うべきなのか?
耳も聞こえず……口もきけないフリでもするか? 私は……本気でそう考えた……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます