第一章:信頼無き同志達

(1)

 妹が男に生まれてくれていたなら……私は恥や外聞さえ捨てれば「家督を弟に譲って好き勝手やっているボンクラな長男」と云う、この上なく楽な立場になれたろうに……。

 陛下に命じられた旅が始まった、その日の内に、私はそう思った。正確には、その日の内に十回以上だ。

 同盟国であるウェイ=チャンの王子と、我が国の王女スザンヌ殿下の婚礼も近いある夜、王宮より3人の身分高き女性が消え去った。

 1人は王女スザンヌ殿下。

 1人は殿下の護衛であり、私の妹であるマニ。

 最後の1人は宮廷付きの魔導師の次席であるサライ。

 警固の兵士達は、ある者は魔法で、ある者は武技により意識を失なっており……王宮の警固魔法や防護魔法は完全に解除されていた。

 女魔導師サライの元夫である宮廷付きの主席魔導師は、術式の詳細を知らぬ者にしか出来ぬ方法で見事に解除された、と説明していたが……それは当然だ。

 他の状況証拠からして、王宮の警固魔法や防護魔法の術式の詳細を良く知っている者の犯行にしか思えぬのだから。

 喩えるなら、一家全員がそれぞれたった一撃で殺された上で金品を強奪された屋敷を検分しながら、どうやら、この家に入った盗賊は人殺しを何とも思っておらぬ手慣れた奴で、余罪が山程有る確率が高いと思われます、と宣うようなモノだ。極めて正しいと同時に、そんな事をわざわざ言上する意味は有るまい。

 おそらくは、サライがスザンヌ殿下を誘拐したが……動機は不明。

 私の妹であるマニは、魔法により洗脳され、サライの護衛となったのであろう。

 早速、婚礼の為に我が国に来ていたウェイ=チャン国の王子の呼び掛けで、女魔導師サライを逮捕または殺害し、王女殿下取り戻す為の言わば特務隊が結成された。……が……問題は、その「旅の同志」達の面々だった。

 そして、私は、よりにもよって、その「旅の同志」の1人に選ばれてしまった。

 理由は2つ。

 1つは、王女殿下と共に消えた女騎士の兄だった事。

 もう1つは……王都に居る無役の騎士達の中では……剣の腕は上位に入っていた事だ……。と言っても、私など、実の妹に剣の腕が劣る駄目兄である以上……他の連中が駄目過ぎたのだ。私は……駄目駄目なヤカラの中の……多少はマシなヤツに過ぎなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る