第11話 ブラックウッド家での日常、赤ちゃん時代4
あのパーティーから3ヶ月、家には高位貴族の当主が自ら謝罪にやって来ていた。
「……はぁ、今回はまことに申し訳なかった。」
ため息をつきながら父さんに謝罪したのは70を越えたように見えるフレッチャー伯爵、フレッチャー伯爵家の当主だった。
謝罪をしながらソファーに座り込む伯爵、爵位に差があるとはいえ他家の当主の前で許可もなく座る姿は謝罪をする姿にはとても見えなかったが、父さんや母さんにブラッドローさんも何も言えなかった。
なぜならフレッチャー伯爵、目の下に熊を作りふくよかと聞いていた姿は骨と皮だけになっていたからだ。
「は、伯爵、そのお姿はいったい何が?」
「……ザカリーがやらかした後な、その事をグローバー少将は軍経由で王家に、我が家にはザカライアから連絡が来てな……その後は王国と王家の取り調べと謝罪行脚よ……ああ、ブラックウッド男爵を軽んじたいるわけではないぞ? 単に取り調べが終わるまで王都から出られなくてな、それで近衛兵と特務に囲まれながら関係機関や王都に居た依子の貴族の元をな。」
そう言ってハハハ……と乾いた笑いをするフレッチャー伯爵、本気で疲れはてているようで目が虚ろだ。
「そ、そんなに大事になったのですか?」
「奥方、税の勝手な徴収は王権に、貴族への私的な命令は王権と王国法に対する挑戦ととらえられるのですぞ?
ましてあれはフレッチャー家の次男で、フォルタン駐留海軍の分艦隊司令官だったのです。
メンヒス公国と繋がって国内を混乱させようと画策したのではと取り調べられてな、長男のザカライアも別で取り調べられて、今は疲弊して王都で療養という監視生活をだなぁ! ザカリーのバカ息子が、許されるならワシの手で殺してやったのに!」
真っ赤になって怒り立ち上がるフレッチャー伯爵、パーティーの後に色々と聞いたのだが、ザカリーと言うのはフレッチャーの次男で海軍大佐なのだとか、そしてザカリーを捕まえて連れていったのがフォルタン駐留海軍の副司令官のグローバー少将と、フレッチャーの長男のザカライアだったのだそうだ。
あの日、海軍とフレッチャー家はあまり仲の良くないブラックウッド家と、交流するために副司令官のグローバー少将と時期当主のザカライアを送り込んできたのだそうだ。
そこで海軍はフォルタンの港の一部解放を、フレッチャー家はブラックウッド家の街道に繋がる領内の街道整備をすると宣言したかったのだそうだ。
「正直な、ザカリーが何故あんなバカなことを言い出したのか分からんのだ、メンヒス公国の者に唆されたと言われた方がワシは信じられるぞ……」
色々と説明して最後にそう言ったフレッチャー伯爵は糸が切れた人形のように椅子にまた座り込む。
「は、はぁ……ザカリー殿はなんと?」
そんな伯爵に父さんがそう聞くと、伯爵は顔を上げて背後にいる若い騎士に目を向ける、そして騎士が軽くうなづくのを見てから話し始める、ってか後ろにいる騎士は護衛じゃなく王国から派遣された監視か!
「息子は、ザカリーは自分がフレッチャー家のあとを継ぎ、エインギル王国海軍の指揮を取るときのために、海軍を強化しておきたかったと言っているんじゃ。」
その言葉に顔を見合わせる兄弟達、そして父さんは首をかしげながら聞く。
「フレッチャー家の跡継ぎはザカライア殿では?
それに海軍を指揮すると言っても大佐でどうやって?」
「それが分からんのだよ、王都に護送されるときも取り調べを受けるときも、私は次の伯爵で海軍司令官だとわめいていたそうでな……なんとか面会できた時も、近衛兵や特務に宰相から派遣された取調官を不敬罪で殺してくれとわめいてな……ちなみに取調官はパークス侯爵じゃったのだぞ?」
フレッチャー伯爵の言葉に父さんや母さんも目を見開き驚いている。
「……ザカリーは次男で家は継げんから、ザカライアとに子供が出来てからは好きなようにさせたのだ、それで船が好きだったので海軍に入ったのだが、才能があったようで海賊の討伐で手柄をたててな。
若くして大佐になれてエリートとまで言われたのだが……ふぅ。」
色々と話してますます疲れたのか、フレッチャー伯爵はソファーに沈み込むように座り目を閉じる。
「……宮廷魔導師や教会に頼んで高位司祭を複数人派遣してもらい調べたのですが、精神を支配されていたり呪われていなかったそうです。
結局、日頃の疲れから精神がやられたのだと判断して、エインギル特別管理病院に入院という措置になりました、ただ手遅れだったようで数日後に死亡しましたが。」
そんな伯爵を見て背後の騎士さんがそう付け加える。
うーん、こりゃ処分されたんだろうなぁ……なんて思っていると疲れはてた伯爵が顔を上げて言う。
「今回ワシは宰相閣下や陛下に特別に許可をもらってな、ブラックウッド男爵に謝罪に来たのだ……本当にすまなかった男爵。
それとワシはこの1件が落ち着いたら引退することにしたよ。」
「お父様、今回の1件は本当にメンヒス公国は関わっていないのでしょうか?」
「アラン、食事中になんですか。」
「お母様、そうは言いますがあまりにも異常すぎます。
ザカリー殿は自分が当主になれないことは教えられてたはずです、それにどうすればいきなり海軍を任せられると思ったのか……あまりにも不自然なことが多すぎます。」
あれから伯爵を労うために晩餐会を開こうとしたのだが、伯爵は軽い軽食だけ食べて眠ってしまい。
先ほども伯爵の背後に立っていた騎士さんが参加して夕食をとっていた。
そこでアラン兄さんがいきなり今の発言をしたのだ。
「お母様、私も今回の事はおかしいと思います、私も貴族の次男としてその手の事は習っています、そしてそれ以上にアラン兄さんへの忠誠を誓うように教えられました。
なのに歴史あるフレッチャー伯爵家でその手の教育が疎かになっていたとは思えないのです。」
「それにさ、ザカライア殿はすでに結婚していて子供がいたはずだぜ?
前に王都の騎士学校の有るしさ。
なのに自分が次の伯爵になれるって思うのは変じゃないか?」
「あの時に、ザカリーさんや他の人達は目が正気だった、狂気に染まってたり何かを夢見ているんではなく普通の目をしてた、だからこそ後ろ楯か何かがあると思ったんだけど。」
「メンヒス公国、神聖メンヒス王国を名乗ってるけど、なんの神を祭っているのやら……そう言えば変な術を使って人を操るって噂があるけど、どうなんだろ?」
食事を止めて次々に発言をする兄さん達、それを聞いていた王国から来た騎士さんは驚がくの表情になっている。
そんな騎士さんに父さんが目礼をしてから兄さん達をたしなめてから言う。
「お前達、王国の調査がそんなに弛いわけがなかろうに、しかも取調官がパークス侯爵と言っていただろ?
パークス侯爵家と言えば鑑定のスキル持ちが多く生まれ、長年王国の、王家の査察官や取調官を排出してきたその道の権威だ、しかも現当主は鑑定以外に何らかの魔眼を持っていて嘘や誤魔化しが一切通じないと言われているんだ。
侯爵も自分に何ら引っ掛からなかったとなれば一族から他のスキル持ちや、知識や経験がある者を連れてきて調べただろう……あの方はその手の事は手は絶対に抜かんだろうからな。」
父さんの言葉に兄さん達は顔を見合わせて、納得がいかないが納得するしかないと食事を再開する。
「……噂には聞いていましたがたいしたご兄弟ですね、これだけの見識や知識、またそれを考察する知恵といいこの歳でたいしたものです。」
居間に移って食後の飲み物を飲んでいると、騎士さんがそう言って兄さん達を褒めてくる、そうだろうそうだろう、兄さん達は優秀だろう!
「正直な話し、近衛騎士団や特務も今回の一件に納得していない者が多いのです。
フレッチャー伯爵だけでなく、その家宰や親族に確認してもザカリー殿にしっかりと教育をしていたのだそうですよ、以前にはザカライア兄上を助けて家をもりたてる、と口癖のように言っていたそうなのです。」
「ボートン殿、よろしいのですか?」
「陛下からもある程度は話していいと言われています、今回のことでの一番の被害者はフレッチャー伯爵だとも言えますが、ブラックウッド男爵も迷惑を被ってないとは言えないからと。」
そう言うとソファーに座り直し、他のソファーに座る両親とフカフカの絨毯に座って自分をあやしている兄達を見回す騎士さん改めボートンさん。
この方、子爵家の嫡男で近衛騎士団で若くして小隊を任せられている俊英なんだとか。
「ザカリー殿の同期にも話を聞いたのですが、あのザカリーがそんなことをするなんて信じられない、誰かが出世頭のザカリーを妬んで悪い噂を流したと、調査が入るまで信じていたそうです。」
ボートンさんの噺を聞いて俺をあやす手を止める兄達、アルフ兄さん、その手に有るボールだけでも自分に!
自分の周りに転がしていたボールを奪い取ろうと、アルフ兄さんの元になんとか近づこうと手足をバタつかせる、するとアラン兄さんが突然に声をあげる。
「あああ! アレクシスが……アレクシスがハイハイしてる!」
「「「なんだと!?」」」
「あらあら、凄いわねアレクシス♪」
な、なんだってぇ!? ……あ、本当に自分はハイハイしてるわ。
腕と足とでハイハイしながらアルフ兄さんに必死に近づく自分、そんな自分にアルフ兄さんは満面の笑みで腕を広げて俺を待つ。
「そうかそうか、アレクシスはそんなに俺のことが好きか、ほら、ここまで来たら抱っこしてやるぞ!」
そう言ってニヤニヤ笑いながら他の兄弟を見るアルフ兄さん、そんな兄さんにアルフ兄さんとアレックス兄さんが睨むがアルバート兄さんは目を細めると、アルフ兄さんに近づきボールを奪い少し横にずれる。
うん、ボールをくれ。
そして自分はアルバート兄さん、ボールを追ってそちらに向きを変える。
「アルフ兄さんじゃなくってボールを追ってたのか!」
「ハハハ、アルフ、ボールに負けるだなんて惨めだな。」
「兄貴、ボールに負けたのはみんなもだろう!」
「なんだと!」
始まる兄弟喧嘩、アルフ兄さんは一番強いがアラン兄さんもつよいしアルバート兄さんやアレックス兄さんも充分強い、それに3対1のためにあっという間に組伏せられるアルフ兄さん、父さんはお客様の前だと怒り母さんはアラアラっと微笑んでいるのだった。
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