第10話 ブラックウッド家での日常、赤ちゃん時代3




「ただいま帰りました。」


「お帰りなさいませ奥様、旦那様はどうなされましたか?」


街道の視察と突発的に起きたゴブリンの討伐から帰ってきた自分達、帰りを待っていたのは婆やだった。


「主人ならゴブリンの集落の殲滅が確認するために残ったわ。」


「おや? ゴブリンの討伐は軍がするはずでわ?」


「一方向から攻めて逃げたのが私達の所に来ちゃったのよ、だから他に逃げたのがいないか調べるそうよ。」


「おやまぁ最近、軍はフヌケになりつつありますねぇ、鍛え直した方がいいのではないですか?」


「ブラッドロー将軍が鍛え直すと言ってたわよ。」


「家のバカ息子がですか、私と旦那も帰ってきたら参加しますかねぇ。」


「あらあら、たまには将軍に任せてみなさいな。」


「奥様がそうおっしゃれるのなら……」


「ところで婆や、今夜はパーティーよ。

夕飯は豪華にしてちょうだいね?」


「おや? 何かありましたか?」


「なんとね……アレクシスがゴブリンジュネラルを討伐したのよ!」


「まぁ、まぁまぁまぁ! 流石はブラックウッドのお子ですねぇ!」


「「「奥様、おめでとうございます!」」」


母さんの言葉に婆やは相好を崩して喜び、今まで壁と同化していた居残り組の侍女さん10数人が頭を下げてくる。


うん、少しは疑問に思わないのかな?


あと、婆やって何者かと思っていたけど、ブラッドロー家の者だったのか!

寝返りで柵付きベビーベッドから脱走できないか試してたときに、柵の一部が外れて行けるか!? っと思ったら気配も音も感じとれずに近くにいて捕まり、柵が外れないように補強されてしまった事から何者かと思っていたけど、血塗れ一家の人だったとは……


母さんが嬉しそうに何時もよりもニコニコとしながら俺がどうやってゴブリンジュネラルを倒したか説明をして、兄さん達はまるで自分達が褒められてるかのように胸を張る。


そんな中で―――


「これがその時にアレクシスが倒したゴブリンジュネラルだ、記念に持ってきたぞ!」


と、アルフ兄さんがゴブリンジュネラルの死体をどこからともなく取り出した、そして屋敷に響く侍女さん達の悲鳴!


「「「キャアーーー! ゴブリンの血で絨毯があぁぁぁ!」」」


あ、そっちなんですね。


新鮮なゴブリンジュネラルから滴り落ちる血で青かった絨毯はより青くなった、何でってゴブリンの血って青いからさ。

そしてそれ以上に青くなる婆やと侍女さん達、ヤバいと思ったのかアルフ兄さんはゴブリンの死体を放置して逃げようとするが。


[ゴン!]


「魔物の、特にゴブリンの血は汚れが落ちにくいから屋敷に持ち込むなと言ったでしょうに……」


母さんに頭にゲンコツを食らって悶絶している。

そして母さんはため息をつきながら少し、瞑想するように目を閉じる。


「水の精霊よ、汚れを流せ。」


そして目を開くと同時にそう言うと、どこからともなく現れた水の塊が絨毯をスウーっとなでていく、すると汚れはかなり落ちてウッスラと濃い青に見えるぐらいになった。


「あとはアルフが洗濯なさい、夕飯に間に合わなかったらご飯抜きです。」


「そ、そんな!」


母さんの話を聞いたアルフ兄さんは絨毯を侍女さんに剥がしてもらうと抱えて走っていってしまった。


「さあアレクシス、夜のパーティーまでおねむしましょうね~」


そして自分は夜のパーティーまでお昼寝することになったのだった。




「おめでとうございます、殿。」


「「「おめでとうございます!」」」


「うむ、今回はプリーズ子爵家までの街道がほぼ完成した、さらにはマッキンレイ男爵家との街道整備も順調だ、今日はそのための宴だったのだが、喜ばしいことに我が家の新しい家族のアレクシスが初めて魔物を討伐した、その事も含めて祝いの席とする。

お客様方も皆も思う存分に楽しんでくれ! 乾杯!」


「「「乾杯!」」」


父さんの挨拶と乾杯の声に出席者が声を揃えて返事をすると、立食パーティーかを始まった。

そして自分も母さんに抱っこされて参加となった。


そして自分は母さんに抱っこされ、父さんに挨拶に来た領内の村の村長や商人に、プリーズ家とマッキンレイ家から来た家臣達の話に耳を傾ける。


「いやはや、おめでたいですな。

プリーズ家との道が繋がり、整備が終われば本格的にマッキンレイ家との街道にも着手出来るでしょう。

そうなれば南部でもっとも有力な街道網になるのは間違いないありませんな。」


「これでフレッチャー伯爵家の街道も、もう少し整備がいき届いてくれればいいのですが。」


「巡回の数も増やしてほしいです、知り合いの商会は伯爵領で盗賊に襲われて、あわやと言う目に遭ったそうですよ。」


「フレッチャー家は敵国との国境に面してますからな、そちらに力を込めなければと言うのも分かりますが……」


フムフム、父さんに挨拶した商人や他の貴族の家来達の話を総合すると、ブラックウッド家はフレッチャー伯爵家とプリーズ子爵家にマッキンレイ男爵家に囲まれているようだ。


「南西の海岸もブラックウッド家に任せれば、港も使えてもっと商売もしやすくなるのに、直轄領にしておいて軍以外には使わせないのもなんとかならんのですかなぁ……」


「あそこは昔から直轄領で、重要拠点ですからなぁ。」


「お二方、今日は国軍からも来賓が来ていますから……」


「そうでしたな。」


「ふぅ……しかし本当に、フォルタンの港は解放してくれないだろうか……」


なんか商人の話に新しい情報があったな、フォルタンとか言う港が近くに有るのか?

でも王家と言うか、国軍が使ってて一般には解放されてないみたいだな、位置なんかも詳しく知りたかったっけど商人達は話し終わったあとに、チラリとうちの軍人とは違う制服を着た数人の塊に視線を送ってから、それぞれ別の方向に散っていった。




やっぱり地図が見たいよな、今日出掛けた時に馬車だったんでチラリとしか町の風景がが見れなかったけど、地球の中世みたいな町並みだったし、家の中は貴族とはいえ色々と揃っているから地図ぐらい有ってもおかしくないんだけど、それらしきものは一切見たことがないんだよなぁ。


地図が見たいと考えていると、先ほどのうち以外の軍人さん達が父さんの所にやって来る。

挨拶だと思っていたが周りの人の雰囲気がちょっと変わる、他の貴族の家来なんか露骨に顔をしかめてる人もいるし、なんだ?


「ブラックウッド卿、街道の整備、おめでとう。」


おお、父さんの隣にいるブラッドローさんが悪鬼のような顔に!

他の参加者達も驚いたり睨み付けたりしてる。

まぁ、卿って君主が部下を呼ぶときにつけるものみたいだから、この軍人さんにそう呼ばれる事はないよな?


「それではブラックウッド卿、卿には資金と食料の提出、さらにプリーズ家とマッキンレイ家からは鉄と石炭を提出するように命じる、期限は今年までだ、いいな?」


その言葉にパーティー会場は凍りついた、商人や家の家臣に村長達、プリーズ家とマッキンレイ家の家臣達も凍りついている。


「……ザカリー大佐、それは王国としての命令と取ってよろしいのですかな?」


父さんはそんな相手をザカリーと呼び冷めた目で見ている、そんな父さんの態度が気に入らないのかザカリーは怒鳴り付けるように言う。


「そんなことはどうでいい!

貴様は私の命令に従っていればいいのだ!」


な、なんだコイツ!? 周りの人達もあ然としているけど、商人やプリーズ家とマッキンレイ家の家臣達はあ然を通り越して呆然としている。


「そういうわけにはいきませんな、私はあなたの家臣でなければ部下でもない。

なのになぜあなたの命令に従わなければいけないのか? 今回のことが王家の、王国の命令と言うならば従うが、違うと言うなら従ういわれはない。

ブラッドロー、至急伝令を王都とフォルタンの軍司令部に出せ、そしてザカリー大佐の命令はどう言うことなのか確認しろ。」


「ハッ!」


父さんに命令されたブラッドローさんが部下に命令を出そうとすると、ザカリー大佐の取り巻きがその前に立ち妨害する。




「貴様、ただの私設軍の将軍ごときが、ザカリー大佐に逆らうか!」


「当たり前だ、私はブラックウッド家の私設軍を率いているのだ、殿の命令に従うのが当たり前だろうが!」


「ブラックウッド、貴様は謀反を考えているのか、この反逆者め!」


「王国に、王家に弓を引くわけではないがこの命令は確認させていただく、その権利はあるはずだ!」


おおお、父さんとザカリー大佐だけでなく、その取り巻きとブラッドローさんや警備に立っていた家の兵士に、他の貴族の部下達が加わって一触即発の事態に!


乱戦になったらまずい、誰か俺にペティナイフを!


「この騒ぎはなんだ!」


戦闘になったら真っ先にザカリー大佐の頭にナイフを投げつけてやろうと考えていると、広間の扉が開き40代の細身の男が30位のザカリーに似た男を連れてやって来た。

さらにその背後には複数の騎士がついてきている。


その声を聞いたザカリーは喜色満面になると、将軍、兄上! っと叫んでそちらに走っていく、そして何があったのかを説明してブラックウッドやその他の者達も反逆者として捕まえましょう! 等と言っている。


だがザカリーの噺を聞いていた将軍と兄上はどんどん顔色を悪くする、最初は青かったのが今では蒼白になっていて白粉でも塗ったのかな? 位に白くなっている。


「ブ、ブラックウッド男爵、失礼しました!」


「全員このバカ共を捕まえろ!」


兄上は父さんの元に全力で駆けてくると、頭が床につかんばかりに下げて、将軍は騎士に命じてザカリーとその取り巻きを捕まえている。


将軍の背後で呆然としていた騎士達に取り押さえられたザカリーは、下郎、何をするか! 等と叫んで暴れていたが10数人の騎士に勝てるはずもなく取り押さえられ、将軍やペコペコと頭を下げていた兄上に連れられて去っていったのだった。



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