第9話 初めての戦闘の終わり
「うーん、今のゴブリンロードでしたよね?」
「この色でこの魔石の大きさなら間違いないわね。」
「なら軍が討伐予定だった例の集落のやつじゃないですか?」
母さんが燃やしたゴブリンロードの魔石をベルタさんとアイリスさんが撫でたり叩いたりしてそんなことを言っている、どうやら別の地域からかなり大きなゴブリンの集落が移動してきたようで、その討伐のためにブラックウッド家の私設軍が討伐しようとしていたようだ。
「あらあら~なら逃げてきたゴブリンがいたのかしらねぇ?」
「何にしろ奥様、旦那様達が向かった方に行ってみますか?」
「まだゴブリンロードがいるかもしれませんしね!」
「そうね、行ってみましょうか。」
母さんはそう言うと、兄さん達に侍女さん達を連れて歩き始める、自分も抱っこされたまま連れていかれる。
「そうだお母様、こんなものを手に入れていたんです、使ってみてください。」
アレックス兄さんがそう言って母さんに渡したのは腰ベルトタイプの抱っこ紐だった。
「なんでも南方の海を越えた所で開発されたとかで、赤ちゃんを長時間抱っこするのに良いらしいですよ。」
いやこれ、地球にあった抱っこ紐そのものじゃん、開発されたって本当か? 誰か自分以外に転生者か転移した人がいるんじゃないか?
そんなことを考えていると草むらが無くなってきた、兵士に踏み潰されたり魔法で焼かれたりして辺りがよく見えるようになってきたのだ。
「アブゥ~?」
「あらあら、死屍累々ね♪」
そして辺りに散らばるゴブリンの死体の山々、一体何があったのか……って父さん達だよな、これやったの。
ってか母さんは何でそんなに嬉しそうなんだ?
「……奥様、向こうから戦闘の音が聞こえます。」
「あら、まだ戦闘が続いているなんて、意外だわ。」
ベルタさんの指差す方に向かうと、小高い丘にがあり登ると父さん達が戦っていた、っと言うか蹂躙していた。
「アブゥア『なんだあれ』!?」
そこはどうやら移動してきたゴブリン達が作った集落のようだった、だが今は凄惨な殺戮現場になっている。
父さんやブラッドローさんに兄さん達、それだけでなく護衛の兵士達まで強かった。
父さんの大剣が振るわれるたびにゴブリン10数匹がバラバラになる、アラン兄さんやアルフ兄さんにブラッドローさんも同じように蹂躙しているのだが、兵士もゴブリンリーダーなどだけでなくゴブリンジュネラルさえ連携して倒していた。
「さ、流石はブラックウッドの精鋭ですね。」
「この程度ではブラックウッドの精鋭とは言えません、ゴブリンジュネラルごとき1対1で倒せないでどうするのですか。」
「いや先輩、ゴブリンジュネラルをソロで倒せるなら冒険者ランクがすぐにCになりますよ……」
アイリスさんの言葉にベルタさんは呆れて言う。
うーん、しかしやっぱり冒険者がいてランク制もあるのか、やっぱり冒険者ギルドがあって取り仕切っているのかな? ……ってなんか凄いのがこっちに来た。
ゴブリンを蹂躙して集落を破壊する父さん達、ゴブリン側からしてみれば恐ろしい悪魔が平和な集落に突然攻めていたような気持ちだろうが、一般人からみればゴブリンは女子供を拐い食い、苗床にする恐ろしい悪鬼なので見つけたら即殲滅がいいのだそうだ。
何にしろそんな悪魔に攻め込まれていたゴブリン達に救いの主が現れたのだ!
自分は驚き見るその相手は体長5メートルはあるゴブリンだった、思わず鑑定すると。
[ゴブリンキング ゴブリンの王様、ゴブリンのクセにかなり強い。
お前の体格でモンスター界のアイドルと言うのは無理があるだろ、っと有識者の意見は一致している。]
やっぱりこの鑑定はおかしくないか?
「あら~? やっぱりアレクシスが鑑定を使っているような?」
「アブゥ~!」
母さんが訝しげに俺を見てくる、なので俺は慌ててゴブリンキングに向けて手足をバタつかせる。
「ああ、あのゴブリンが怖いのね、でもほら見なさい?」
母さんは俺を安心させるようにそう言うと指を指す、そこにはゴブリンの救世主に向かって突っ込むとうさんが!
「ヌウン!」
「ガアァァ!?」
そしてアッサリと真っ二つにされるゴブリンキング、見所も何も無し、アッと言う間に討伐されてしまった。
しかも引き連れていたゴブリンロードやゴブリンシャーマン等々の高位個体も、アラン兄さんとアルフ兄さんにブラッドローさんにアッと言う間に倒されてしまった、
見所もいい所も全く無し、逆に可哀想!
だがゴブリン達は可哀想どころではないようで、自分達の王とその精鋭の取り巻きがアッサリと殲滅されたのを見て恐慌状態になって逃げ惑う。
そこに馬蹄の響きが聞こえたかと思うと、騎兵が一気になだれ込みゴブリン達を倒し始めたのだった。
「バカ者どもが! ゴブリンに集落を攻める時は包囲殲滅が鉄則だ、だから殿やそのご家族の所にゴブリンが逃げやって来たのだ!」
「「「も、申し訳ありませんでした!」」」
ブラッドローさんの怒鳴り声の後に揃って頭を下げる軍人さん達、彼等はブラックウッド家の私設軍隊の隊長達だった、騎士団との違いは騎士団は常時ブラックウッド家の護衛をしているか、つまりSP的な役割をしているかどうかとの事のようだ。
ただブラッドローさんは軍の指揮官でもあるようで、隊長達は土下座をしそうな勢いで謝っている。
何故こんなことになっているのかと言うと、やって来た軍隊は家の家族やブラッドローさんを見て驚き、隊長達が慌ててやって来て今回のことを説明し始めたのだ。
ブラックウッド私設軍は斥候を出してゴブリンの集落を偵察した、その結果はゴブリンロードにゴブリンキングまでいると分かり、ゴブリンの集落を討伐するときの鉄則である包囲殲滅を止めて、一方面から攻めて追撃しながら殲滅することにしたそうだ。
そして真っ先に逃げ出したゴブリンロードの率いる1群が、街道を見に来ていた自分達家族の所に来てしまったと言うことであった。
「愚か者共が! たまたまワシや殿のところに来たから良かったものの、万が一にでも旅人や商隊等にでも鉢合わせていたらどうする気だったのだ!」
「し、しかし今回の討伐のために1ヶ月前から先触れを出して外出禁止にしていまして……ブラッドロー将軍にも連絡していましたが……」
「……そうだったか?」
こいつ忘れてたな。
皆の心が自分が生まれたときのように1つになったのを感じ、ブラッドローさんは娘のアイリスさんに凍えるような冷たい声で罵られる中で、母さんがノホホンと言う。
「そんなことよりもあなた、今夜はお祝いですよ? なんと言ってもアレクシスが初めて魔物を討伐したのだから!」
「なんと、それは本当か!?」
「ええ、現れた3体のゴブリンジュネラルのうち、1番大きな個体を倒しましたのよ!」
「「「凄いぞアレクシス!」」」
「「「嘘ですよね!?」」」
母さんの言葉に2つの反応が返ってくる、前半は家族のもので後半は隊長達のものだった。
「なんだ貴様等! 奥様がウソを言ったとでも言うのか!?」
ブラッドローさんが今にも剣を抜いて斬りかからんばかりに怒るが、母さんはそんなブラッドローさんを遮るように前に出ると、アイリスさんに向かって言う。
「アイリス、例のものを。」
「はい奥様。」
そしてアイリスさんが俺に差し出してきたのはペティナイフだった。
「アブゥ~?」
「お、奥様、赤子にその様なものを持たせて「プァ!」……マジだった!」
俺はペティナイフを持つと振り回す、そんな俺を見て隊長が危ないと言おうとした瞬間に、俺は草に隠れて逃げようとしていたゴブリンリーダーに投げつけて見事に頭に当てて倒した。
「おお、流石はブラックウッドの子だ、見事だぞアレクシス!」
「よくやったぞ、兄さんも鼻が高い!」
「くっそ~、俺の魔物討伐最年少記録が破られたか!」
「凄いよアレクシス!」
「今度投擲用のナイフセットを買ってあげるね!」
「これでブラックウッド家はますます安泰ですな!」
「「「いや、普通は驚くことでしょう!!」」」
家族の称賛と、隊長達の叫びが響くなかで自分は倒したゴブリンが前のよりも小物だったと不満に思いながら、アレックス兄さんに出来たら何度も投げられるものがいいです! っと念を送ったのだった。
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