第12話 ブラックウッド家での日常、赤ちゃん時代5




「いや、元気のいい子達ですね。

私は結婚はまだまだ先だと考えていましたが、こういうのを見ると妻をもらい家族を持つのも良いと思ってきます。」


「あら、なら練習としてアレクシスを抱っこしてみますか?」


「よろしいのですか?」


「ええ、アレクシスは大人しいですから、抱っこの練習相手として最適ですよ♪」


そう言う母さんにボートンさんは頭を下げると、喧嘩でアルバート兄さんの手から離れたボールが運良く自分の手元に転がってきて、ゲットできたのでご満悦な自分の元にやって来てしゃがみこみ、自分を抱っこしようと手を伸ばしてきた。

それを見ていた自分の目に、ボートンさんの左手首に着けられた布でできた腕輪、ミサンガのような物が目に入る。

先程まで服の裾で隠れていて分からなかったのだが、それを見たとたんに俺は身の毛もよだつような悪寒に襲われる。


「ぴぎゃあーー!」


「え!? わ、私がなにか[ドコ!]ギャアァァ! い、いてえ! 何だこの威力、これスライムボールだよな!?」


俺は手にしたボール(スライムボールと言うらしい)をボートンさんに思いっきり投げつけた、頭に当たったボートンさんは2メートルほど吹っ飛んで痛がっているが、たいしたダメージは受けなかったようで平然と立ち上がると多少ふらつきながらも俺にまた近づいてくる。


「オギャア!オギャア!(来るな!来るな!)」


「な、何でこんなに泣かれるんだ……本当に私が何かしてしまったのでしょうか?」


ボートンさんはそう言って悲しそうにしているが、こっちは腕のミサンガがますます怖くなりギャン泣きする。

認識したからかミサンガから黒い影が染み出るように出始めたからだ。


何にしろそんなものを着けて近づかれたらたまったもんじゃない、しかも圧迫感はますます強くなっているのだから、なので誰かもう一個スライムボールを!


「アラアラ、どうしたのアレクシス、何も怖いことないのよ?」


武器を求めていると母さんが抱き上げて助けてくれ「ほら、ボートンさんに抱っこしてもらいなさい。」ギャー! 母さん止めて、助けて!


母さんがボートンさんに俺を渡そうとしたので慌てて俺は暴れて泣き抵抗をする、すると母さんは俺を落としかけて慌てて抱きなおす。


「ど、どうしたのアレクシス?」


「ここまで嫌われるなんて、私がいったい何を……」


あまりのことに普段はオットリとしている母さんも驚き、ボートンさんは天井を見上げて黄昏れている。




「何事ですか!?」


「殿、ご無事ですか!?」


おお、婆やとブラッドローさんが俺の泣き声を聞いてやって来た、さぁ俺にまたペティナイフを!


「敵襲! 皆殺しに……あら? 坊っちゃんが泣いてるだけだわ。」


「私が爆死してでも敵は……あれ?」


続いて血濡れアイリスと後輩ベルタが入ってくる、皆殺しとか爆死とか物騒だなおい。

などと考えていると、後輩ベルタがボートンさんを見て真っ青になると両手にダイナマイトを持って俺達家族の前に立つ。


「貴様! それ以上ご主人様達に近づいたら、この爆弾に火をつけるぞ!」


この距離でダイナマイトを爆発させたら自分達も爆死するから止めてほしい、それかボートンさんのそばでしてほしい。


「お、おい、君まで私をそんなに嫌うのか?」


「ボートン様、申し訳ありませんが本当に近づかないでください、その腕輪、邪心への誘いを着けたままで近づくなら本当に爆発させます!」


ボートンさんはショックを受けたようにフラフラと近づきかけるが、ベルタがダイナマイトを突きつけて威嚇すると立ち止まるが顔がスッと表情を無くしてベルタを睨み付けながら問う。


「貴様、何者だ? この腕輪はザカリーが身につけていたがどんな物なのか特務にも分からず、フィッシャー伯爵の所や、フォルタンで聞き込みをしようとしてたんだが……何故この腕輪の名を知っている!」


そう言って近づこうとしたボートンさんは近づけなかった、なぜならベルタが本当に導火線に火を着けたからだ。


「バブゥー!?」


「あらあら、そんなおいたはメッよ?」


ヤバイと俺が声をあげると母さんがそう言って手を軽く振る、すると火の着いたダイナマイトは消え去ってしまった。


「感謝します奥様、それで君……確かベルタとか言ったな、これが何なのか、何故それを君が知ってるのか聞かせてもらおうか?」


そう言われたベルタは、ダイナマイトに代わり何時ものショートソードを手に威嚇していたがアイリスのゲンコツを受けてしぶしぶ説明をするのだった。




ちなみにダイナマイトは屋敷の空の上で爆発したようで、上空から結構な爆発音が聞こえた。




「これは邪心への誘いって言う、呪いのアイテムなんです。

知っての通り私は孤児で、幼い頃に才能を見いだされて暗殺教団に拾われ育てられたんです。」


おお、ベルタ後輩は波乱万丈の人生を


「まぁちゃんと衣食住を与えられていて教育も受けて、育った頃に旦那様や奥様が教団を壊滅させて助けられたんで、たいした苦労はしてないんですが……もう2年にもなるんですね。」


生きてなかった、まぎらわしいな。


「その時にその手のアイテムの事も教わったんですよ、それは邪心への誘いって言われるアイテムで、それを身につけた者の邪な考えを増幅させるアイテムなんです。」


「あらあら、それは怖いわね。」


母さんはそう言うと片手で俺を抱っこしたままボートンさんから一歩離れる、他の兄弟も視線で同時に下がらせ、逆に一歩前に出たアルフ兄さんをもう片手で首根っこをつかんで引っ張りながら。


「ふーむ、しかしそれなら特務や調査に参加した教会の関係者が気づくのではないのか?」


そう言う父さんにベルタはとんでもない!っと言ってこのアイテムの真の恐ろしさを説明する。


「これは鑑定を誤魔化したり、精神汚染がされてるのを分かりにくくするんですよ、しかも少しづつ進行するので気がつきにくいって言う仕様でして……つまり本人も周りの人間も気がつかないうちに精神が汚染されて、気がついた時には普通じゃなくなっているんですよね。」


ベルタの話を聞いたうちら家族はもう一歩ボートンさんから離れる、ボートンさんは慌てた腕輪を外したが、大切な証拠をそこらに放り投げるわけにもいかずに半泣きで右往左往している。


「ちなみに封印して機能を止めるには、塩と一緒に焼くか銀の物で覆ってしまえば良いそうです。

あ、坊っちゃん達に近づかないで自力で処理してくださいね?」


そう言われたボートンさんは、騒ぎを聞いてやって来た部下らしき騎士に大慌てで銀で出来た何かを持ってこい!っと怒鳴るように命じた。


「あらあら、ならこれに入れておけば良いと思うわ。

あとで代金は王家なり軍なりに請求しますから、遠慮はいりませんよ?」


母さんが投げて渡したのは銀でできた小さな宝石箱だった、宝石などは着いていないが精巧な装飾がなされていてそれなりの値段がしそうなものだが、ボートンさんはよっぽど手放したかったのだろう「感謝します!」っと叫んで受けとると中に腕輪を入れて蓋を閉め、テーブルの上に置いたのだった。




「ベルタ、お手柄です、坊っちゃん達の危険を察知して対処する、素晴らしい功績です。」


「いえ、アレクシス坊っちゃんがボートン様の腕を凝視して泣いていたので私も気がついたのです、このアイテムの正体を見抜くなんて流石はアレクシス坊っちゃんです!」


「ふん! 天真爛漫で心の清いアレクシスなら見抜いて当然だ!」


ベルタの称賛をアラン兄さんが当然だと言いながら頭を撫でてくる、他の兄さん達もよくやったっや凄いね!等と褒めてくれた。


「しかし何でボートン殿は大丈夫だったのかしら?

何年もかけて精神汚染するような呪いなのかしらね?」


「ああ、奥様、ボートン様は特務、しかも近衛騎士の特務なんじゃないですか? なら呪いなんかに対抗する物を、常に身につけているからじゃないですか?」


ベルタがそう言うと、ボートンさんは胸元を緩めて飾りのついたネックレスを見せてくる。


「真銀のネックレスね、しかもクレザ様の聖印つき。」


「これ司祭……いえ司教クラスが聖別してるやつじゃないですか?」


「よく分かりますね、王族のそばに侍る近衛で特務となるとこのような物も支給されるのです。」


「これをつけてたから影響を受けなかったのね、でも一応はクレザ様の教会でお祓いしてもらった方がいいかしらね?」


侍女コンビと母さんがしげしげと物珍しそうにネックレスを見ている、父さんは男な胸を見るのははしたないぞ、っと嫉妬して言っているとドアの方から震える声が聞こえてきた。


「……今の、今の、話しは、本当か?」


「フレッチャー伯爵……」


そこに立っていたのはフレッチャー伯爵だった、寝かせてくれて言ったときも顔色が悪かったが今は真っ青になっている。

寝てたのになんでと一瞬考えたが、さっきのダイナマイトの爆発音は結構すごい音だったのでそれで起きるのも当たり前かと納得する。


何にしろフレッチャー伯爵は自分の息子の死の真相を知ってしまった。

そして伯爵はふらつく足取りでベルタの前に行くとその肩に手を置き睨み付けるように問う。


「誰だ、誰が息子にこれを着けさせた?」


「いや、ええっと……」


ベルタは困って父さんや母さんにアイリスやボートンを見るが、伯爵のあまりの迫力に皆なにも言えない、そこで仕方なくベルタは答える。


「私がいた教団には複製品があったんですが、オリジナルはその……メンヒス公国、神聖メンヒス王国に有るって話しでした。」


「そうか……そうか! メンヒスのカス共め、息子よ仇を討ってやる、奴等を地獄に叩き込んでやるぞ!」


目をランランと輝かせ伯爵はそう叫ぶと、フラフラと外に出ていき自分の部下達を大声で呼ぶ。




そして伯爵はそのまま自分の領都に行ってしまったのだった。



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