第7話 ブラックウッド家での日常、赤ちゃん時代2
「バブバブ~」
「あら坊ちゃま、起きまし……」
「バブバブ~」
「坊ちゃま、お元気で……」
「「寝返りしてる!?」」
「バブバブ~」
「し、至急報告を!」
「は、はい!」
エシャスに転生して5ヶ月、俺は寝返りが出来るようになっていた。
「まったく! なんで報告してくれないんだ!」
「アラン、夜中に寝返り出来るようになったのでしょう?
なら2人を責めるのは可哀想でしょう。」
「しかしお母様、前兆等はあったはずです、それを教えてもらっていれば寝ずの番をして見守ったのに!」
「あらあら~、夜ふかしはダメよ?」
俺が寝返りを打ったと報告を受けた母さんはおっとりと、兄達は大慌てでやって来た。
そして、なんでアラン兄さんが侍女達を怒っているのかと言うと、俺が寝返りを打つのを1番に見たかったと言うしょうもない理由だった、いや、嬉しいんだけど。
そんな理由で怒られた侍女2人は怒っていないのかと言うと、オロオロしていた。
何故ならばアラン兄さんは声だけ威圧的で、実際には半泣きで話していたからだ。
「アラン兄さん、仕方ないよ、僕達だって夜に挨拶に来たときにそんな兆候に気づかなかったんだから。」
「そうだよね、僕が見たときも大人しく寝てたし、夜中に出来るようになったんじゃないかな?」
アルバートとアレックスがアランを慰めるように言うと、アルフ兄さんもウンウンとうなずきながら言う。
「ああ、俺が見た時も足と頭を器用に使って横になってたぐらいしか変化はなかったからな。」
「「「それだよ!」」」
アルフ兄さんの言葉に他の三兄弟が怒って飛びかかるのだった。
「皆居るか? アレクシスが寝返りを打ったと聞いたのだが……なんでアルフは頭にデカイたんこぶを作ってるんだ?」
部屋に父さんが入ってきたので慌てて整列する兄達だったが、アルフ兄さんは頭にデカイたんこぶを作っていた。
これは兄弟ゲンカに負けたのではなく、アルフ兄さんが俺が初めて寝返りを打つのをしっかりと確認していたのがアルバート兄さんの誘導尋問でバラされて、母さんに制裁されたからだった。
「あなた、それは良いとしてお仕事は良いのですか?」
「あ、ああ、街道の整備は思ったよりも順調でな、このままいけば冬前までに道だけなら通せるかもしれん。」
「まぁ……それならプリーズ子爵家とマッキンレイ男爵家が、我が領を通じて繋がるのですね!」
「うむ、プリーズ子爵家は優良な鉱山を幾つか持っているが石炭が出ない。
マッキンレイ男爵家は炭鉱を持っているが販路が無かった、これで2つの家を結びつければ我が領内は更に栄えるだろう。」
父さんがそう胸を張って言うと、母さんや侍女達と兄達が一斉に「おめでとうございます!」っ言って頭を下げる。
自分も「あぶぅ~」っと言いながら寝返りを打ち父さんに近づく。
「うむ、うむうむ!」
父さんは自領が栄えるのがよほど嬉しいのか俺を見ながらウンウンとうなづき……なんで抱っこをする?
抱き上げると部屋から出ていこうとする。
「ちょっと待ちなさいあなた、何処にアレクシスを連れていこうと言うの?」
「うむ、整備中の街道を見せてやろうかとな? それに作業員も可愛いアレクシスを見れば士気も上がるだろうしな!」
「何をバカなことを言っているのですか、アレクシスを下ろしなさい!」
「い、嫌だ、街道整備の陣頭指揮でろくに子供達とコミュニケーションが取れてないんだ、アレクシスだけでも連れていく!」
「それこそ何を言っているんですか、外を見てみなさい!」
母さんの言葉に外を見ると、ザァザァと雨が降っていた。
どうやら自分は日本の四季で言うと、春先の2月か3月始めに生まれたようなのだ、そして生後5ヶ月の今の時期、ブラックウッド領は雨季の終わりになっていた。
つまりこの間の訓練を見学したときは、雨季の入り口だったのだ!
……まぁどうでもいい話か、ってかなんか冷たいな?
「クチュン! あ~?」
俺は急に寒くなりくしゃみをすると、鼻が出てしまいどうすればいいか分からずに手足をバタつかせる。
「父様、まさか雨のなかやって来て服を着替えずにアレクシスを抱っこしたんじゃ……?」
「な、何を……!?」
アランの言葉に父さんは反論しようとしたが、かぶっていた帽子の端から水滴が滴り落ちるのを皆に見られてしまう。
「……あなた、もう一度言います、アレクシスを、下ろしなさい。」
母さんは先ほどと違って恐ろしく平坦で、クギリクギリ言う。
その迫力に父さんが数歩引くが、背後からの声に立ち止まる。
「……旦那様、坊ちゃまを渡しなさい。」
「ば、婆や……いつの間に!?」
背後を婆やに塞がれた父さんは驚き振り向こうとして、左右をアイリスとベルタの侍女コンビにはさまれていることに気がつき、愕然となる。
「はいはい、いい子でちゅねぇ~ 濡れたお洋服を着替えましょうねぇ~」
「な! いつの間に!?」
そして俺は俺も気がつかないうちに母さんに回収されていて、さらに父さんは驚いている間に婆やと侍女達に連行されていったのだった。
「見なさい、これが新たな街道のプリーズ街道だ。
これがブラックウッドの街に繋がり、建設中のマッキンレイ街道にも繋がるのだ。」
次の日、自分と兄達に母さんや侍女達は雨が止んだからと父さんに連れられて新しい街道に来ていた。
自分は雨の次の日だがらきついと思っていたが街道は排水なども対策されていたようでほとんど濡れておらず、馬車に揺られて町の外の街道を見に来ていた。
屋敷から馬車に乗り1時間ぐらいで門に着き、そこからさらに30分ぐらい走った所で分岐があり東方に向かう方を見ながら父さんは色々と説明を兄達にしている。
馬車の中でも聞いたのだがブラックウッド家は街道を整備することで繁栄した家だった。
もともと、王国の騎士として活躍して領地をもらった家だった、そして王国からもらった土地は伯爵家並みに広い土地だったが、森と荒れ地しかない完全な荒野だった。
だがブラックウッド家は諦めずに少しずつ畑を作り人を増やしていき、そこそこ開発できたところで男爵に陞爵されたとのことだった。
そして4代前の当主、アール様が当主になると街道整備に力を入れ始めた。
これはその頃にブラックウッド家の食料生産が、完全に消費を上回り外に売り出すようになったのと、食料を目当てにやって来た商人からの要望と支援もあり、アール様は王都に続く街道を持つ伯爵家にまで街道を整備することにしたのだ。
だがこの街道整備は難関を極めた、王国や伯爵家からの支援や協力が無かったからだ。
王国や王家は地方の街道整備に興味はなく、伯爵家は隣とはいえつきあいのない男爵家がやることにつきあえないという理由だった。
そして王国も伯爵家も許可は出すから勝手にやれという態度で、男爵家程度が成功するとは微塵にも思わなかった。
だがアール様は頑張った、自分達の生活費や交流費をケチり、自らも作業に加わることによって領民を率い、30代に始めた街道整備を56になったときに成し遂げた。
その頃には伯爵家も利権に絡めないと慌てて支援をしようとしたが、民からは愚かな伯爵が強欲にも男爵の成功を盗もうとしていると非難され、指をくわえて見ているしか出来なくなった。
なんにしろ街道整備を成し遂げたアール様は中興の祖と言われ、ブラックウッド家の繁栄の基礎を作ったのだ。
そしてブラックウッド家のお家芸は街道整備と戦いになった。
……なんで戦い? 伯爵家までの街道が出来たことと税収がよくなり常備戦力を増やせたことから、仲の悪い隣国と領地を接してる例の伯爵家への援軍や魔物の討伐に駆り出されたのと、もともと魔物の討伐で騎士として取り立てられたので戦いは得意なのだそうだ。
何にしろ自分は父さんの話を聞きながら初めての外の異世界に興奮して、周りをキョロキョロと見回すのだった。
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