第5話 ブラックウッド家の侍女達。
「ふぅ……しかしまた男の子とはね。」
「なにあなた、坊っちゃんに文句でも有るの?」
「いえ、そんなことは無いですよ?
ただ女の子だったら伯爵様に嫁いで、当家は陞爵されて子爵になれたんですよね。
神様は残酷だなって。」
俺をベビーベットに寝かした2人の侍女さんはそんなことを話し始めた。
そう言えばさっき父さんもそんなことを言っていたなと思いだし、俺はアブアブ言いながら手足をバタつかせ、耳を傾ける。
「あなたそんな噂を真に受けてたの?」
「いや先輩、私だって本当かなぁ? っとは思ってますけど、旦那様が何時もそんなことを言ってましたから……」
「ああ……旦那様はねぇ、知ってると思うけどその話は4代前の御当主様が言い出したことなのよ、優秀な方で今のブラックウッド家の繁栄の基礎を作られた方なのだけど、結局は子爵への陞爵はならなかったの。」
「はぁ……それは聞いたことが有りますけど?」
「その後すぐにご子息に家督を譲られて引退したんだけど、それはそのご子息が優秀だったからなの。
つまり自分は無理でも息子なら子爵になれると思ったのよね……まぁ結局は知っての通り、陞爵はされずにいまだに男爵のままなの。」
「は、はぁ?」
後輩は先輩が何を言いたいのか分からずに曖昧な返事を返す。
「それでなのよ、ブラックウッド家が陞爵されないのは他の貴族との繋がりが薄いからじゃないかって考え始めたのは。」
「そ、それってまさか……」
「そう言うことよ、ブラックウッド家中興の祖とまで言われる4代前の御当主様、アール様はより濃い青い血を、高位貴族の血を入れることに執心するようになってしまったの。
そしてそれは息子、孫へと引き継がれる事になってしまったのよ。」
「そ、そんなことが……って、
先輩詳しいですね。」
後輩のメイドがふと気がつき、不思議そうに質問をする。
「あら? あなたには言ってなかったかしら、私もブラックウッド家の一門なの、実家がブラッドロー騎士爵家なのよ。」
「ゲ! 血濡れのブラッドロー!」
「あら、よく知ってるわね。
何にしろブラッドロー家はブラックウッド家の分家なのよ、つまりアール様は私のご先祖様でもあるわけ。」
どうやらブラッドロー家というのは親戚のようだ、ってか血濡れのブラッドローって怖!
そんな風に自分の家の事を聞いていると、音もなく扉が開き婆やが入ってくる。
「あなた達、もう遅いのですよ。
なのにそんなにペチャクチャと喋ってたら、坊っちゃんがお眠りになれないでしょうに、もう寝なさい。」
そう言われて2人は俺を見て、俺が起きていて2人を見ていることに気がつく。
2人は顔を見合わせるとベビーベットの脇に置かれた簡易ベッドに入ると、婆やと俺に挨拶をして眠りにつく。
そして婆やがベビーベットの中の自分を覗きこみ見て、目と目が合うとニッコリと笑い「お休みなさいませ。」っと言うと部屋を出ていった。
そして静かになった部屋で俺は考える。
確か生まれは7にしたはず、0は完全にランダムで、王侯貴族にも生まれるが高確率で奴隷か貧農になるって書いてあったから、速攻で上げたはずだ。
5で最低でも普通の農家に生まれる、6からは貴族にまぁまぁ裕福な商人か村長の所に、7だとそこそこ有力な貴族かかなり裕福な商人か村長の家に生まれ、8だとその長男、9で王族か伯爵家以上に生まれ10ならその長男だったはずだ。
つまり先程の話も会わせると、ブラックウッド家は男爵家だが有力な男爵家で自分はその五男で。
それに両親はもとより会った兄弟達は俺の事を愛してくれているということだ、これはかなり良い所に生まれる事が出来たようだ。
俺がそんなことを考えていると部屋の扉がユックリと開き、小さな影が入ってきた。
誰だろうと首を向けると、そこには長男のアランが真剣な顔をしてこちらにやって来るのが見えた、俺はそれを見てハッと前世で読んだネット小説を思い出す。
こういうときによくある話で、跡継ぎ競争に邪魔になりそうな弟を排除すると言う話を!
兄さん、さっき見せた姿は嘘だったのか、これから俺はどうなってしまうんだ!?
「良かった、ちゃんと毛布を被ってるね。
まだ夜は寒いから気を付けてねアレクシス。」
アラン兄さんはそう言うとニッコリと笑うと、少しズレてた毛布を俺にかけ直し、部屋から出ていく。
様子を見に来てくれただけか! ってかそんなに真剣な顔で見に来なくてもいいのに!
と、心の中でずっこけていると、また扉が開き今度は次男のアルフ兄さんが入ってきた。
「お、よしよし、元気だな。
よく眠れるように睡眠香を置いてやろう。」
そう言ってアルフ兄さんは俺の枕元に何かの液体の入ったビンを置くと部屋から出ていった。
なんか変な臭いがするんだけどなんだこれ?
するとまた扉が開き今度は三男のアルバート兄さんが入ってくる。
「アレクシス、元気かい? ……ってこれ睡眠香じゃないか、さてはアルフ兄さんだな。
魔物を眠らせる睡眠香は人に効かないのに、それに赤ちゃんにこんなものを嗅がせたらどうなるか分かったもんじゃないじゃないか……回収しておこ、またね、アレクシス。」
アルバート兄さんはそう言うとビンを持って部屋から出ていった。
けっこう臭いを嗅いじゃったけどこれ大丈夫だよね!?
そしてまたまた扉が開き、今度は四男のアレックス兄さんが入ってくる。
「いたいた、アレクシス眠れないの? じゃあこれで遊んでてね、アレクシス嬉しいかい? また持ってきてあげるね!」
アレックス兄さんは俺の横にクマのぬいぐるみを置くと、手を振りながら部屋から出ていく。
おおお、なんていい兄達なんだ!
特にアラン兄さん、自分を殺しに来たと疑って申し訳ありません!
そんなことを考えていると、寝ていたはずの侍女2人がムクリと起き上がり扉を見る。
「やっぱり来たわね。」
「来ましたね、坊ちゃま~うるさくて眠れませんでしたか~?」
侍女達は俺を覗きこみながらそう言ってくる、そんな2人に俺はうとうとしながら手を振ると、2人は顔を見合せて再度ベッドにもぐり込んだ。
「坊ちゃまって私達が何を言っているのかわかってるのかしら?」
「やだな先輩、偶然に決まってあるじゃないですか。」
「……そうよね、偶然に手を振っているように見えたのよね。
あ、また来たわよ!」
血濡れの侍女(違う)がそう言うと、後輩侍女は慌てて布団を被った。
そして―――
「……よし、元気だな。」
「あれ? 睡眠香がないぞ、まぁ予備が有るから大丈夫だけどな。」
「な、なんで睡眠香がまた!? ア、アルフ兄さんさっき注意したのに!」
「ほ~ら、ウサちゃんのぬいぐるみだよ?」
兄達が代わる代わるまたやって来た、いやもう自分は眠いんだってば!
ま、まぁもう来ない……って侍女さん達がまた起きた!
「せ、先輩……」
「……報告してきなさい。」
血濡れ侍女に命じられて後輩さんは部屋から出ていく、そして10分もしないうちに婆やと母さんを連れて戻ってきた。
そして眠くて半泣きでグズリ始めた俺を抱き上げ。
「よしよし、おねむでちゅか? でも先にオッパイにしましょうね~」
そう言うと胸をさらけ出して俺の口元に持ってくる、自分は眠くてしょうがなかったがオッパイから匂ってくるミルクの匂いに、何とか乳首に吸い付くと半分寝ながらミルクを飲み始める。
母親と言うもっとも信頼し安心できる相手に抱かれて、ミルクで満ちていくのを感じながら8割方寝ていると、突然に[ゴン!]っという音で飛び起きる。
何の音だと出来る範囲で辺りを見ると、母さんの隣でアラン兄さんが頭を押さえてうずくまっていた。
「アラン、アレクシスは大丈夫だからと言いませんでしたか?」
「お、お母様、まだ産まれたばかりのアレクシスが心配だったのです!」
「お黙りなさい、そのために乳の出るアイリスとベルタの2人を側に使えさせたのでしょ!」
い、一体何があったんだ!?
俺は眠気も吹き飛び目を見開きその光景を見ていると、また扉が開き。
「アレクシス、睡眠香をいっぱい持ってきたぞ!」
[ゴン!]
「アルフ兄さん、睡眠香はダメだって言ってるのに!」
[ゴン!]
「アレクシス~ぬいぐるみを持てるだけ持って[ゴン!]痛い!?」
「全員そこに座りなさい!」
入ってきた兄弟達に母さんはゲンコツをおみまいする。
特に四男のアレックス兄さんなんかは、話ながら部屋に入ってきたとたんに殴られていた。
兄さん達に俺を抱っこしながらゲンコツを食らわせ、ニコニコと笑いながらも怒りのオーラを放つアデライド母さん。
こりゃお説教かな?
そう思っていたが、また扉が開き誰だ!? っと全員で扉を見ると……。
「アレクシス、父様だぞ? いっぱい抱っこをしてやる……」
アントニー父さんが入ってきた。
こうして、母さんと婆やのお説教は俺があまりの眠さにギャン泣きするまで続いたのだった。
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