第4話 エシャスに転生しました。




何だろ? 少し薄暗いけど、ずいぶんと暖かくて居心地が良い場所だな?


あれ? なんだか明るい方に向かっているような……い、嫌だ、まだここに居たい!


ああ……ダメだ、光の方に引っ張られる!




「ほぎゃあ! ほぎゃあ!」


な、なんだ? 急に変なところに出たぞ!?


「奥様、お産まれになりましたよ!」


「ハァハァ……赤ちゃんは無事なの?」


「はい、元気なお子でございます!」


「よ、よかったわ……ハァハァ……」


なんか赤毛で綺麗な30才位の女性が、優しい目で俺の事を見てくる。


「入るぞ?」


「はい、旦那様。」


ん? 偉そうな小太りで赤毛の男が入ってきたな、その男性を部屋の中に居た数人の女性達が頭を下げて招き入れている。


「おお、ずいぶんと可愛らしい子だな!」


30半ばぐらいの男性はそう言って俺の事を嬉しそうに見てくる。

俺を見てそう言ってきたので、ああ、そうか、俺はエシャスに転生したのかっと理解……可愛らしい? ちょ、ちょっと待てよ!? 自分は生まれに容姿をいじったときに、性別を選んだか!?


俺は大切なことを忘れていたのと、可愛らしいと言われてまさかと思い真っ青になる。


「な、なんだか急に顔色が悪くなったぞ?」


「そ、そんな、先程まで男の子らしく、あんなに元気に泣いていた……あら、顔色がよくなって笑ってますね。」


おおお、よ、良かった! TS属性がないのに、転生したら性転換もしてたなんて笑えないからな!


「……なんだ、また男の子なのか、女の子だと思ったのに。」


「旦那様、何て事を言うのですか!」


「い、いや婆や、この子で5人目だからそろそろ女の子がとな?」


ガッカリとした男性が父親のようだ、今は婆やと呼んだ50代の女性が烈火のごとく怒るとジリジリと扉の方に逃げている。


「あなた、申し訳ございません、あなたが女の子を望んだのに産めなく……離縁を申し入れてくれれば、私は子供達を連れて実家に帰ります。」


ああ、それでさっきの女性が俺の母親か、愛おしそうに俺を見てくれているがとんでもないことを言っている。


「子供を全員連れていったら、ブラックウッド家の跡継ぎがいなくなるじゃないか!」


若いし、悲壮感が有るから後妻か何かだと思ったら正妻で後妻でもないのかよ!


そう思っていると、婆やと呼ばれた女性が目で周りに合図を送る。

すると女性達が旦那様、父親を部屋から追い出そうとし始める。


「旦那様、奥様はお疲れです。」


「旦那様、お子様も産湯に浸けなければいけません。」


「旦那様、黙ってさっさと出ていけ。」


おい最後、何にしろ女性人に押されて部屋から追い出されかける父親だったが、最後の力を振り絞り抵抗すると。


「ま、まて! まだ大事なことが有るだろうが!」


そう言うと婆やから俺を奪い取り宣言をする。


「この子の名は………………アレクシス、アレクシス・ブラックウッドだ!」


「今、考えたわね。」


「今、考えましたね。」


今、考えたな。


部屋のなかの思いが1人を除いて一致したせいか、冷たい視線に耐えきれなくなったから、父親は俺を婆やに返すとそそくさと部屋を出ていった。




「ふぅ……婆や、アレクシスを抱かせて?」


「奥様、回復魔法を使ったからといえまだ安心できません、安静にするべきかと。」


「そうは言ってもアレクシスはまだ泣いているわ? 泣き止ませて寝かしつけないと。」


そう言われてしぶしぶと婆やは母親に俺を渡す、ってかあれが魔法か、当たり前だけど初めて見たな。


母が俺を渡すように言う前に、別の20半ばの女性が何かをもにゅもにゅと言ったかと思ってたら、母親が少し光って血色がよくなったのを目撃したのだ。


何にしろ俺は母親に渡され、口にオッパイを押し付けてくる。

美人のオッパイを押し付けられてもエッチな気持ちにはならずに、自分は必死になって乳首を探して吸い付く。


「あらあら、産まれたばかりなのに元気ですね♪」


乳首に吸い付き、必死にミルクを飲む俺を嬉しそうに見てくる女性、その女性は明るい赤毛だが、一瞬黒髪の日本人と重なる。

しかしそれは一瞬で、すぐに目の前の赤毛の女性に塗りつぶされるように消えた、それを見ながら俺はハッと理解する。


『ああ、この女性が俺の母さんだ!』


そう思った瞬間に俺は母の顔を見ながら必死に手を伸ばす。


「あーあー、あぶぅー!」


「あらあら?」


「坊っちゃんは奥様の事を母親と認識しているのですね。」


「まぁそうなのね! ふふふ、私がお母さんよ? 良い子ねぇ~」


嬉しそうに母は俺を抱き締めながら頬擦りをしてくれる、俺はそれが最高に嬉しく思いながらも徐々に意識を手放したのだった。




そして10日経ったある日、俺は新しい家族と顔を会わせていた。


「さぁ、この子がアレクシスよ、皆挨拶してあげてね?」


「「「「はい、お母様。」」」」


お腹が空いて覚め泣くと、母がイソイソとやって来てオッパイを与えてくれて、そしてお腹がいっぱいになった頃に父親が両親に似た4人の男の子を連れてやって来たのだ。


「フン、アレクシス、僕がアランだ、1番大きいお兄ちゃんだ。」


「俺の名前はアルフ、抱っこしてやろうか?」


「私はアルバート、今度本を読んであげようね。」


「僕はアレックスだよ、あとでオモチャを持ってきてあげるね!」


どうやらこの4人は自分の兄達らしい、4人それぞれが反応は

違うが興味深く俺を見てきてる。

そして発言した順から長男、次男、三男、四男のようだ、あとで知ったがこの時に長男は12才で次男が10才、三男が7才で四男が5才だったそうだ。


何にしろ兄弟は俺の誕生を嬉しく思い、歓迎してくれているようだ。

4人は代わる代わる俺の腕を取ったり足に触れたり頬を突いたりしてくる、そして俺も初めての兄弟(前世の養護施設に血の繋がらない沢山の兄弟、姉妹が居たが)なので興奮してそれぞれの手を握ろうとする。


「可愛いなぁ……アレクシス、アランお兄様が守ってやるからな?」


そして気がついたのだが、1番ぶっきら棒で俺に興味がないと思った長男のアランが俺や他の弟達も1番可愛がっていた。

何故に分かったのかと言うと、俺と母親に掛けられている布が俺が暴れる度に落ちるのを、イソイソと拾っては母親と俺に掛けてくれるからだった。


そして次男のアルフは豪快と言うか、乱雑な子だったが力が凄かった。

俺の腕を握ったときも力加減を間違えたのか、10才とは思えないほどの力で握られてしまい、あまりの痛さにギャン泣きしてしまった。

慌てて手を解いたがアランに頭を殴られ「お前はもっと力加減を覚えろ!」っと怒られていた、ただ殴られても平然としておりそれよりもギャン泣きする俺をオロオロと半泣きになって見守っていた。


次に三男のアルバートだが、この子は本当に頭が良い。


1を見て10を知るどころか100を知りそうなほどにだ、何故そんなことがわかるのかと言うと、周りに居る侍女に母親と俺の世話について明日はこの時期にしては暑くなりそうだから気をつけるようにと言ったら、本当に暑くなりアルバートの指示通り何時もとは違う少し離れた別の井戸の汲んできたら、何時ものより冷たかったからだ。


つまりどこの井戸水がより冷たいかを知っていて、それをどんなときに使えば良いのかを判断できる知識と知恵がこの歳であると言うことだ。


そして四男なんだが、この子は数字に異様に強い。

このアレックス君、5才なんだが約束通りにオモチャを持ってきたのだが、そのオモチャが数字の積み木だった、そしてその積み木を使って四則演算をやっていたのだ。


5才で掛け算、割り算まで出来るとは末恐ろしいものである。


そんな兄弟達もひとしきり俺にかまって、自分がうとうとし始めると母にうながされて部屋から出ていった。




「あなた、本当にごめんないね。」


「何を言う、お前には無理をさせた、もうワシも諦めるよ。

娘が産まれたら伯爵様の子か孫に嫁がせて、力をお借りしてブラックウッド家を陞爵させる。

曾曾祖父さんが考えた策だそうだが、よくよく考えればそんな可哀想なことはできんし、どうせ陞爵するなら我らの実力でなるべきだ、そうだろう?」


「アントニー……あなた。」


「はは、久しぶりに名前を呼ばれたね、アデライド。」


おお、2人がドンドン引き寄せあって……ってかなんなんだ? うちの一族には、名前の最初にアがついてないといけないと言う家訓が有るのか呪われてでもいるのか?

何にしろ俺と言う子供がいるんだし、産後におっ始めるなよ……仕方ないここは一発!


「あぁぁー、ほんぎゃあ! ほんぎゃぁ!」


「あらあら、どうしたんでちゅか~?」


「アデライド……」


よし、俺が泣いたことにより母さんは父さんを回避してこっちに来てくれた。

父さんは誰もいなくなったベッドに倒れこんでいる。


「おしめは大丈夫ね? オッパイかしら?」


母さんがそう言いながら俺をあやしてると、父さんが近くまでやって来て俺を恨めしそうに見てくる、乳飲み子に妬みの視線を向けるな。


「……そう言えばあなた、まだちゃんと抱っこしてなかったわね、今してみる?」


「いや、わしは……」


「あなたの息子なのよ、抱っこしてあげて。」


「……分かった。」


自分は母さんから父さんに渡されると、さすがに4人の子供がいるから経験豊富なのか結構上手に俺を片手で抱き、残った右手で俺の頬を恐る恐る突っついてきた。


その父さんの指、手は荒れてガサガサだった。

だが俺はこの手の感触を知っている、覚えている!

この手は前世の院長夫妻や、先に院を出ていった兄や姉に仕事場の先輩達の、働き者達の手だった。


荒れてガサガサの指で触られると赤ちゃんの自分には少し痛かった、だがその働き者の手に触れられて前世の院長夫妻や養護施設から卒業してクリスマス等にたまに来ていた兄や姉達の手と一緒だった、その手に触れられた俺は痛いが懐かしくもあり嬉しくなり。




「うきゃーう! あー♪」




「あら? あらあら? アレクシスが喜んでますよ?」


「ほ、本当か! アレクシス、嬉しいのか?」


「あぶぅー! うきゃーい!」


俺は父さんの手と指を追うように手を伸ばす、父さんがまた指を近づけたので掴むと口に持っていって噛みながら大喜びする、本当に働き者の手だと。


「あらあら、気に入ったみたいですね。」


「ハハハ……他の兄弟達はザラザラしてて痛いと逃げたのに、変わった子だ……」


「あらあら、あなたったら本当に嬉しそうね。

何にしろアレクシスもお寝んねの時間よ、婆や達に任せて私達も寝ましょう。」


そう言って母さんがハンドベルを鳴らすと、出産の時に居た婆やと女性1人が部屋の中に入ってきて俺を母さんから受けとると、別な部屋に連れていきベビーベットに寝かせたのだった。


「それではアレクシス様を頼みましたよ。」


「「はい、侍女長。」」


こうして自分はエシャスに転生して、家族を持ち新たな人生を歩み始めたのだ。



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