第3話 異世界の神様




「俺がお前の転生先の神の1柱であるティニボスだ、戦いの神で武芸や戦争を司っている。」


筋骨粒々で赤い髪の厳格そうな男性神がティニボスと名乗る。


「私の名前はアムテル、大地と生命を司っています、よろしくお願いします。」


続けて萩の花のような紫みの明るい紅色の髪を持つ、スタイルのいい女性が一応礼儀正しく挨拶をする、嫌そうな気配がにじみ出ているが。


2人とも嫌そうだが男性神のティニボス様は慇懃無礼に、女性神のアムテル様は丁寧に挨拶してきた。


「ハッキリと言う、俺は貴様などに加護を与えたくない、たがそちらの方が言うので仕方ないからくれてやる!」


そう言われて自分は困ってしまい、ドライトやアムテルを見るとドライトは「ほぅほぅ、そうですか。」っとうなづいていて、アムテルは困った同僚だという感じで見ていたが、同じ思いなのかそれを諌めたりはしなかった。


「うーん、慎一さんの転生先の神様に加護を貰おうかと思ったのですが……嫌ならしょうがないですね。

加護は結構です、お帰りください。」


それを見たドライトがそう言うと、オフィスの扉を指差し帰って良いと言う。


「慎一さんには申し訳ありませんね、別の神を呼びますので少しお待ちください。」


そして俺に向かってそう言ってくるので慌てて首を振る。


「い、いえそんな! 自分は加護なんて要りませんよ、普通に農業をしながら家庭を持って生活していければいいので!」


自分がそう言って断ると、ドライトは困ったように言ってくる。


「いえ、あなたが転生する先のエシャスは発展途上でして……加護が有った方が良いんですよ。

それに私は貴方を転生させた後はお会いできなくなるでしょう、ですから私からのプレゼントとしてお渡ししたいのです。」


そう言われ自分は困ってしまったが、もっと困っているのは2柱の神だった、ティニボス様とアムテル様は顔を見合わせながらドライトに言ってくる。


「……ドライト様、本当に加護は要らないのですか?」


「あなたの事ですから無理矢理に授けさせると思ったのですがな!」


アムテル様は探るように、ティニボス様は鼻で笑いながらそう言ってくる。


「ええ、あまり変なことをすると母様にバレたときに叱られますからね、代わりに別の方に頼んだので帰って良いですよ。」


そう言ってドライトがシッシッと手を払うように振ると、ティニボス様は怒り睨み付けて、アムテル様はそれを宥めるように肩に手を置き帰ろうとする。


そこでアムテル様は立ち止まり振り返るとドライトに質問をした。


「代わりの神とは誰ですか? カンオンかエールラ辺りですか?」


誰を代わりに呼ぶのかと思ったのだろう、ティニボス様も立ち止まりこちらを見ている。


「エルナルナさんとユノガンド様です、エルナルナさんだけでも良かったんですがユノガンド様が暇そうだったんで。」




「本当に勘弁して下さい!」


「創造神の筆頭眷族神であるエルナルナ様だけでなく、創造神のユノガンド様の手まで煩わしたと他の神々に知れたら、私達はどうなることか!」


2柱の神がドライトに土下座して謝っている、だがドライトは水筒から麦茶を飲みながら「お帰りはあちらですってば、忙しいんですから早く帰ってください。」っと言って取り合わない。


そうこうしているとドアが開き1人の女性が入ってくる。


「ア、アレザさん!」


「頼むアレザ、お前からもなんとか言ってくれ!」


アレザと呼ばれた明るく光る金髪のスレンダーだが出ているところは出ているスタイルの良い女性は、ティニボス様とアムテル様を見てしかたなさそうに言う。


「……はぁ、まったくあなた方は何をしているのですか、決してドライト様に不快になるようなことはするなと言ったでしょうに。

ドライト様、申し訳ありませんがお許ししてもらえませんか、私からも頼みます。」


「嫌です。」


ドライトはアレザ様の頼みをアッサリと断ると、ルマンドを1本取り出してポリポリと食べ始める、アレザ様はその言葉と態度に頬をピクピクと引くつかせている。


ティニボス様やアムテル様と一緒に自分もそれを見守っていると、アレザ様の影から黒髪の女性が頭だけ出してこちらに『なんとか助けて!』と書かれたカンペを向けていた。

ティニボス様が「クレザ!」っと声を出してしまいアムテル様に殴られていたが、とにかく自分はクレザと呼ばれた女性が持っているカンペ道理にすることにした。


「あ、あのドライト様、あまり時間をかけても良いのですか?

ブル○ンの事は良いんですか?」


「そ、そうでした! ここは仕方ありませんですね、慎一さんと影女に免じて赦してあげます。

アレザさんはもう少し早く来て、ちゃんとこのバカ共に土下座でもさせてれば赦したんです、覚えておきなさい?」


影女と呼ばれてクレザ様は慌ててアレザ様の影に潜り込もうとしたが、何かに引っ張られたように影から出てくる。

そして周りを見回しオロオロとしているクレザ様は、綺麗に輝く黒髪に抜群のプロポーションの女性だった、涙目でオロオロしてなければまさに妖艶な女性と言えただろう。




「さて、私の名はアレザ、私の背後に隠れてるのが妹のクレザ、双子の神で光と闇を司っています。」


「……よ、よろしくね?」


アレザ様にそう自己紹介されて、自分も4柱の神々に自己紹介しようとしたがティニボス様に「貴様の事は知っているから自己紹介は要らん!」っと言って、アレザ様に頭を殴られている。


「さっきので懲りてないなんて、ティニボスはバカ。」


そしてクレザ様に冷たい目で見られながらそう言われている。


「いい、ドライト様はエルナルナ様よりも高位の神なのよ?

しかも今は転移と転生を司っているの、全ての世界のよ? そんな存在にケンカを売るなんて、何を考えているのよ!」


「正直、今回の事はあなた達だけ罰して赦されるなら、ありがたいレベルの不敬。」


どうやらドライト、ドライト様はかなりの高位の神のようだ、アレザ様とクレザ様がそう言ってティニボス様とアムテル様を睨んでいる。


「で、でもチエナルナ様がドライトさんなんて弱くて話にならない、ご両親や祖父母様達にお世話になっているからしょうがなくしたがっているだけだと。」


アムテル様がそう言うと、ティニボス様もコクコクうなづいている。


「バカね、チエナルナ様が“さん”付けで呼んでいるのよ? その時点で察しなさい!」


そう言われて真っ青になる2人の神、その頭をゴンゴンと殴ってからクレザ様はこちらに向き直り、アレザ様の背後に隠れて言う。


「迷惑をかけた、この2人の加護をあげるから赦して。」


「い、いえ、自分になんか神様の加護なんてもったいないです、私から断られたとドライト様に言ってお帰りになってください!」


自分がそう言うと、アレザ様は困った顔をして言ってくる。


「それがそうもいかないのよ、私達はドライト様に約束したようなものなの、加護をあげるとね。」


「あなたに言われてハイそうですかと授けなければたぶん、なんで説得しないんだと怒られる。」


クレザ様もアレザ様の影からそう言ってもらってくれと言ってくる、いつの間に入ったんだ?




何にしろそう言われてしまい、自分はどうすれば良いかこちらが提案する形で相談をする。

神々から提案すると、無理矢理命令したと取られかねないので止めてとクレザ様に言われたからだ。


「ええっと、出来れば加護が欲しいです、でも自分はあなた様方がどのような立場の方か分からないので、教えていただけますか?」


自分にそう言われ、アレザ様が前に出て説明をしてくれる。


「私がエシャスを管理するチエナルナ様の筆頭神と次席神であるアレザよ、クレザとは双子で筆頭と次席を交互に担当しているの。」


「つまりナンバーワンとツーなのよ。」


そうクレザ様が言うと、今度はアムテル様とティニボス様が前に出て言ってくる。


「私達の事は分かるかもしれないけれど、私がアムテルと言って大地と生命の神よ。

エシャスでは農耕の神として知られているわ。」


「俺は戦いの神のティニボスだ、戦いに関することは俺が司っていて武神や軍神なんかも俺の旗下だな。」


そう説明を受けて、自分は考える。

アレザ様とクレザ様は無しだな、かなり偉い神のようだからそんな神の加護を持っているのが異世界でバレたら騒ぎになるだろうからな。


続いてティニボス様だ、正直、向こうの世界で戦乱を巻き起こす気は無い、有れば戦いで有利になるんだろうけど……争いにも巻き込まれやすくなりそうで嫌だ。


何にしろそれを伝えるべく自分は神々を、特にアムテル様を正面に見るように向かう、うん、自分が見た瞬間にビク!っと驚かれた、ちょっと……結構ショックだ。


「自分はアムテル様の加護が欲しいです、理由はエシャスで暴れたくて行くのではなく、地球で出来なかった生活がしたいからです。」


そう真っ直ぐにアムテル様を見て言うと、本気だと感じ取ったアムテル様が質問をしてくる。


「伴、慎一さん、あなたはエシャスでどのような生き方がしたいのですか、そして何故そう思うのですか?」


そう問われた自分はこれまでの地球での生を話す。

養護施設の前に捨てられていたこと、それでも優しい院長夫妻や仲間達に見守れて育ったこと、バカなことに自分の生まれを呪って荒れたこと、そして養護施設での生活で特に楽しかったのが皆で育てた野菜などを収穫したときだったことを……1時間も話しただろうか、長く話すぎたかと思い最後に何故、アムテル様の加護を選んだか話す。


「実は少しずつですが貯金をしていたんです、田舎に土地を買って畑を耕しながら自給自足で暮らしたいと、でもその夢も死んでしまったので叶えられなかったんですが……でも次のチャンスが有るのなら、是非ともチャレンジしたいんです!」


そう言って顔を上げたら……何かに顔を覆わられてしまう、柔らかい何かに口と鼻がふさがれて凄い良い匂いがするけど、苦しく……はないな、ああそうか、自分はもう死んでいるのだから苦しいわけがないよな。


そんなことを考えていると頭を撫でられる。




「なんて良い子なの! 良いです、私の加護を差し上げます!」


「よし、俺の加護も「ティニボスは黙りなさい!」い、いや俺の加護も……」


「慎一さんには私の加護だけで十分です! さあ慎一さん、私の加護を受け入れて?」


そんな話し声が聞こえてきたが、自分は大混乱していてほぼ聞こえていなかった、何故かと言うと自分がアムテル様の豊満な胸に抱き締められているのに気がついたからだ。


そして慌てて暴れる自分だが、アムテル様はびくともしないで俺を抱き締めている、そしてそんな自分のなかに何か暖かいものが入ってくるのを感じると共に、ドライト様の声が聴こえてきた。


『旅立つ準備が出来たようですね、それではエシャスに旅立ちましょう、よい来世を!』


その声と共に自分の意識が薄れていくのを感じ、他の4柱の神々が見守ってくれているのも感じ取れた。


『ドライト様、ありがとうございました。

アムテル様、それにアレザ様にクレザ様、ティニボス様も暇なときにでも自分がちゃんと真面目に生きているか見て下さい!』


そう言いたかったが声にならなかった、だが暖かい光と優しく眠れる闇と荒々しい力を感じ、最後に大草原に寝そべり大地の包容を受けているような感触を受けた後に徐々に意識が薄れていった……が、




『あ、そうでした! 慎一さんには沢山のご購入をありがとうございました、また直ぐのご利用をお待ちしています!』




っとドライトの声が最後に聞こえたので自分は思わず。


『いや、直ぐには利用したくないよ!?』


そう叫ぶと自分は完全に意識を失ったのだった。



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