動物病院
紗愛は、すぐに返事を書いた。
伝書鳩の足に結び付けたとき、違和感を覚えた。
「……鳩さん?」
ぐったりしている。
手紙を結び付けた足は、力なく地に着いた。
あんなに暴れまわっていたのに。
そういえば、文通を重ねるたびに、結び付けるのが簡単になっていたような気がする。
あれは、慣れたのではなくて、鳩の力がだんだん弱くなっていたのか。
紗愛は、鳩をケージに入れた。いつもゼロやジュウを病院に連れて行くときに使っているもの。そして、急いで家を飛び出た。
「……11時58分!」
家の前は大きな川が流れ、橋が架かっている。この橋を渡ればすぐ、小久保病院。
「小久保先生! 小久保先生!」
12時03分。診察時間は過ぎていた。
しかし、ただならぬ様子に、病院の扉が開いた。
「おや、来賀さん、どうしました?……ジュウがまた吐いちゃったのかな?」
「違うんです! これ……」
小久保先生は、目を丸くした。
「……鳥? どこで見つけたんですか?」
「話は後にしてください! この子を診てください! 先生、この前でっかい鳥持ってきたお客さんいましたよね!」
小久保病院は、ほとんど犬や猫が患者だが、ときおり鳥の患者もやってくることもあった。
「わかりました。……見たことない鳥だけど、やれることはやってみましょう」
診察時間外にもかかわらず、先生は丁寧に、鳩に声を掛けながら治療をしてくれた。
「ちょっと体力がなくなっていたみたいですね。栄養剤を注射してみたら、食欲が戻ったみたいで、さっきあげた餌を全部食べたみたいですよ」
「ありがとうございます!」
紗愛は鳩をケージに戻そうとしたが、鳩は急に暴れまわった……第2便を結び付けようとしたときのように。悪戦苦闘すること20分、なんとかケージに入れた。
橋を渡り、家に戻ろうとしたときもケージの中で騒いでいた。
「……大丈夫そうね」
橋のど真ん中。紗愛はケージを開けて、鳩を空に放った。
雲一つない青空に、虹色の羽毛を散らして、閃光を放ち、消えていった。
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