第9便

 手紙は、明らかに紗愛の字ではない。日本語ではないし、知っている限りの外国の文字ですらない。

……これが「異世界」の彼が書いた手紙?


 手紙のほとんどは絵で描かれている。ただ、読める字が2文字あった。

「紗愛」。あと、読めない字ではあるが、すべて同じ字形と認識できるもの。ここでは便宜上「¶」と表記することにする。


——————✉——————

(見よう見まねで書いたとされる、書き順がめちゃくちゃな「紗愛」の隣には、ひげの老人の顔……これが「おじいちゃん」? 便宜上「Ω」と表記)


 Ω → 紗愛

 [Ω、紗愛]

(家の絵。[ ] で表記。おじいちゃんが紗愛を見つけて、2人は同じ家に住んでいる?)


(魔物っぽいアイコン。「※」と表記。)

 ※ → Ω、紗愛

 ※Ω ← 紗愛

(魔物が飛び立っていく絵。おじいちゃんがさらわれた?)


  紗愛→→→Ω

(矢印が何本も、明後日の方向に出ている。さらわれたおじいちゃんを、捜している?)


(ここで、¶の文字が。これが彼の名前だろうか)

 ¶→→→Ω

(同じように矢印が何本も出ている。彼もおじいちゃんを捜している?)


(また違う人間の絵が男女1人ずつ。男を§、女を★と表記) 

 §★ ← 紗愛

 §★紗愛 →→→ ※、※、※、※

(→→→の脇には炎のようなアイコン。§と★のもとに招かれた紗愛が、おじいちゃんをさらった魔物をやっつけに行っている?)


 ¶→§★

   §←★

 ¶→★

 ¶→★Ω

 ¶:{紗愛、Ω}←★


 ★ → ¶、紗愛

 ★¶← 紗愛

 ★ → ¶、紗愛

 {紗愛、¶}:★→☆

(★はツリ目の顔だったが、☆は穏やかな顔で描かれている)


 {¶、紗愛}→〇

 {¶、紗愛}→〇紗愛

 {¶—愛→紗愛}→〇紗愛


 ¶

——————✉——————

 最後の「¶」が、おそらく差出人――彼——の署名だろう。


 全体を通して、はじめはぎこちなかった「紗愛」の字は、あとになるほど綺麗になっていく。他のアイコンはお世辞にもうまいとは言えないのに。

 そして最後の絵。

 

 {¶—愛→紗愛}→〇紗愛


 「愛」の字が、名前としてではなく、単独で使われている。

 彼は、知ったのだろうか。

 この字が意味するものを。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る