第49話 研究者は要請にため息をつきながらも従う事を了承す
にらにらくねくねと気色の悪い動きを見せるトゥアンを尻目に、ロイフェルトとスヴェンがハーブティを啜っていると、トントンとノックの音が鳴り響く。
「どうぞ」
珍しくまともにそう返答するロイフェルト。
「………し、失礼いたしますわ」
そのまともな返答に虚を突かれたミナエルは、気勢を削がれた様子を見せながら研究室へと足を踏み入れた。
「ゴホン………ロイさん。大切な
「ボイコットじゃなくて単にサボっただけ」
「尚更悪いではないですか!!」
「俺、興味無いんだもん」
「興味があろうが無かろうか、これは授業の一環ですのよ?! そう安易に無精されては困ります!」
「別に俺がいなくても問題無くない? つーか、どう考えても和を乱すことになると思うし」
「ならば、和を乱さぬように立ち回ればよいでしょう!?」
「それは無理な話だ。俺が周りに合わせる姿、アンタ想像つくのかい?」
「それはまぁ想像できませんが………ではなくて! そこを努力しなさいと言っているのです!」
一旦納得しかけたミナエルは、慌ててそう言い直す。
「それって、俺にメリットがあるのか?」
「メリット?」
「そう。俺は基本的にやりたい事をやるし、やりたい事を成就する為の努力は惜しまない。でも今回の
「………
「ロイはどこの組織にも組み込まれるつもりはないそうです。さっき、冒険者ギルドすらも煩わしいと言ってましたよ」
「だな。そもそも俺は他人からの評価を求めてない」
眉間に皺を寄せ、ぬぬぬと考え込みながら再び口を開くミナエル。
「………現状、ロイさんは大部分の学園生達との確執がある様ですが、それを消し去る事も可能ではないですか?」
「消し去る事を望んでもないのに、それをメリットと言われてもねぇ………」
「確執が解ければ不当に扱われる事も減り、煩わしさも半減しますわよ?」
「俺は別にアイツ等からの扱いを不当だとは思ってないよ? 俺が魔法を使えないのは事実だし、魔法を学ぶために存在するこの学園においては魔法こそが正義って考えは間違ってないと思う。俺の扱う術が所謂『魔法』じゃないって事は自分自身が誰よりも良く分かってるよ」
「わたくし共が使う『魔法』とは違っても、貴方の使う術はそれに比類する高い実用性を兼ね備えた能力ではありませんか!?」
身をズイッと乗り出しながら、何時に無く熱く語るミナエルに面食らいながら、ロイフェルトは軽く肩を竦めて口を開く。
「アンタがそう評価してくれてるのは正直驚きだな」
「貴方の能力は今まで散々見せて頂いております。それを正当に評価出来ないほど恥知らずではないつもりです」
微かに頬を染めながら、ぷいっとそっぽを向いてそう話すミナエル。
(うーん、これが俗に言うツンデレるって奴か。思った以上に破壊力あるな………まぁ、サボったのは別に大した意味があるわけじゃないし、参加するだけなら良いかな?)
そう結論付けると、ロイフェルトは肩を竦めながら言葉を返す。
「次は参加するよ。ただ、
「そんな事はありません。確かに他の皆様と同じ事は出来ないでしょうが、貴方の能力にはそれを補って余りある多様性が御座います。絶対にわたくし共の切り札になり得ますわ!」
「そ、そうか。で、出来るだけ頑張るとするよ………」
拳を握って瞳に炎を灯らせるミナエルの勢いに押されつつ、ロイフェルトはそう曖昧に返事をかえした。
「でででも実際問題、
いつの間にか、にらにらくねくねから復帰していたトゥアンが、そう問題を喚起する。
「わたくしは、ロイさんを集団戦の枠組みでメンバーの一人として扱うつもりは御座いません。元々パーティ単位の行動すら覚束ないのですから、単独で行動して頂く事を想定しております」
「そそそそれなら、れれ連絡要員として一人つけるべきですよね?」
「それはまぁ………ですが、確かロイさんは
その言葉に、トゥアンはくいっとロイフェルトに向き直る。
「ろ、ロイさん」
「ん?」
「たた確か
「だね」
「なら、ろろロイさんを単独で動かすのは色んな面でききき危険じゃないですか? ロイさんは
「………つまり貴女は自分がロイさんの相方として動きたいと仰りたいのですね?」
「ちちち違います! ろろロイさんを単独で動かせない以上、相方は必須! そそその相方としての資質を精査すれば、けけけ結果としてあたしくらいしか候補がいないという話です!! ろろロイさんの相棒を勤めるには、先ずはロイさんとの間にわだかまりが無い人。つつつ次にロイさんの行動の速さに付いていける人。あああ後は戦闘要員として本隊に加わるには能力が足りず、使いどころが限定的になる人です!」
「………」
トゥアンの意見は実は真っ当なものだ。
故にロイフェルトを
その
「確かにトゥアンさんが仰るように、ロイさんに相方を一人付ける必要性は認めます。その候補として、ロイさんとの軋轢が無く、しかもロイさんについて行くことが出来る程の運動能力を持った、それでいて戦闘能力的には主力とは言えないメンバーの中から選ぶ事が最も効率的である事も確かです。ですが………」
明らかに不本意そうな表情を見せながらも、トゥアンの意見の有用性を認めるミナエル。
「そそそそれだけじゃないです! ああああたしなら、例え途中はぐれたとしても、直ぐにロイさんを探し出し合流する事が可能です!」
「いや、それ逆に怖いから! つーかなんでお前は俺の居場所を突き止めるだなんてこと出来る様になってるわけ?!」
「そそそそれは愛の
またにらにらくねくねしだしたトゥアンを薄気味悪そうに見るロイフェルト。
「俺とお前の間にあるのは、愛じゃなくて打算である筈だが。何度もフラレてる筈のお前が何故にそこまで自信満々なんだ?」
「ふふふのふ………そそそその経験があたしを強くしたのです! なななな何度フラレようとも立ち上がり、めげずに突き進む事で、ああああたしは『愛』とは受け取るものではなく、おおお押し付けるものだと悟ったのです!」
「押し付けてどうするんですか?! 愛は共に育むものでありましょう?!」
「そそそそんな甘いこと言ってたら欲しいものは手に入らないんですよ、ミナエル先輩! ああああたしは何度フラレようとも諦めたりしないと、お天道様にちちち誓ったのです!!」
「ぐぬぬぬ………」
そのやり取りからいち早く脱出し、ロイフェルトはお茶をカップに注いでそれを啜る。
「お前、
トゥアンとミナエルの二人のやり取りを指さしながら、呆れた様子でロイフェルトにそう耳打ちするスヴェン。
「もう慣れた」
悟りの境地へ至ったかのような表情でお茶を啜るロイフェルト。
「んぐぐ………確かに貴女が適任であるのは確かなようです………背に腹は変えられません。ロイさんの相方はトゥアンさんにお任せ致します」
「ままま任されました!」
断腸の思いでそう答えるミナエルに対して、勝ち誇ったかのようにそう返すトゥアン。
そんな二人に対して、ロイフェルトは小首を傾げながら問いかける。
「なら好きに使っても良いんだよね?」
「っ?! ………どうぞ貴方のお好きにお使いなさい」
「ななななな何か不穏な気配が漂う問答じゃないですか?! い、いえ、それもあああああたしはロイさんの愛を信じます!!」
「そんなものは存在しないが、その心意気は良しとしよう。どんな扱いでも文句言うなよ?」
「………お、お手柔らかにお願い……ででで出来ますかね?」
「まぁ、今までのお前さんの扱いからは逸脱しないように自制するくらいの配慮はするよ」
「いいい今までの扱いですか………あまり良かった記憶はないのですが………ろろろロイさんの自制心を信じます」
「ロイ………お前に自制心があったらお前の学園生活もっと楽だったんじゃないのか?」
「それはしょーがないよ。好きな事を好きな時に好きなだけやり込むのが俺のモットーだし」
「なななななんかまたもや不穏当な発言ですが、あたしはロイさんの為ならどんな苦境も乗り越えてみせます!」
「その言葉に二言は無いよね? なら………」
「おおおお手柔らかにお願いしますぅ!!」
その叫びが虚しく部屋の中で木霊し、この日は一応これで解散となったのだった。
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