第19話 研究者は研究室でお茶のなんたるかを語る
「ハァ……何か、始める前から疲れたよ」
そう呟きながら、ロイフェルトは取り敢えず何か飲もうとお湯の準備を始める事にした。
準備したのは、小さめのヤカン状の入れ物で、それに水を入れて専用の台に乗せる。
台には、丸いボタンが付いており、彼はそのボタンをポチッと押した。五秒ほどで指を放す。すると入れ物の中でコトコト音がしてお湯が沸きはじめているのが見た目にも分かる。
お湯が沸く間、ティーポットと人数分のカップを用意して、棚の奥から焼き菓子を取り出し皿に盛った。
その間にお湯は沸き、お茶っ葉らしきものが入ったティーポットにお湯を注ぐ。
「随分手馴れているな?」
「お茶は俺の趣味の一つだよ」
「ろろろロイフェルトさんはたた多才ですよね」
「お茶が趣味の男というのも珍しい」
「だだ男性でお茶好きの方は、だだ大体はお金持ちですもんね」
「研究室に篭ってると、お茶を入れてくれる人が誰もいないし、
「なななる程です! それと、そそそのお湯を沸かした道具……まま魔道具ですよね?」
「そうだよ」
「ふ、普通、魔道具って発動キーとしてかか神聖言語か神代文字が必要ですよね? いい今、全くそれを使った気配がなかったのですが……」
「そう言えばそうだな。動作が自然だったので全く気付かなかった」
「これは俺が作った魔道具で、使うのにマナを使うけど、神聖言語も神代文字も必要無い魔道具さ。多分マナさえ有れば誰でも使えるよ」
「っ!! なななななななな何ですかそれ?! 世紀の大発明じゃないですか!!」
「平民でも使える魔道具と言うのであれば、確かに大発明だな。どういう構造しているんだ?」
「それ話す前にお茶淹れちゃおう。これ以上時間経つと折角のお茶に渋みが出ちゃう」
「うむ」
「そ、それもそうですね」
素直にそう応じる二人に苦笑しつつ、ロイフェルトはカップにお茶を注ぐ。
「あ、良い香り……」
立ち昇る湯気に眼鏡を曇らせつつ、カップから漂うその香りに自然と笑みが溢れるトゥアン。
「うむ……これは何処かで嗅いだことがあるな……」
こちらも良い香りに笑みを浮かべつつも、記憶を辿る様子を見せるツァーリ。
「冷めると渋みが出るからその前に飲みきっちゃってね」
そう言って、先ずはロイフェルトが一口飲む。カップの表面から漂う香りと、含んだお茶が喉を通る時に鼻の奥に広がる香りに満足しつつホッと一息ついた。
それを見て、二人もカップに口を付ける。
「あ……そ、外からと内側からの2つの香りが合さって、なにかここ心が安らいでいきますね……」
「うむ……甘味を入れた様子もないのに、仄かに甘いな……」
「そう? 気に入ってくれたようで良かった」
「こ、このお茶どこで手に入れたんですか? は、初めて飲んだんですが……」
「私も飲んだ事ないな……いや、この香り、何処かで……あ!」
そこで何かに気付いたツァーリは、ほほうと感心したようにカップを見つめ、そしてグイッと飲み干した。
「これは、学園の森でよく見かけるハミツミレの花だな?」
「ングッ……ゲホゲホ……は、ハミツミレと言ったら毒薬の材料になる花じゃないですか?!」
「当たり。だから正確にはお茶と言うよりハーブティだね。ツァーリはよく分かったね。んで、分かったうえでよく飲み干したね」
「ななな何感心してるんですか?! もももう飲んじゃいましたがだだ大丈夫なんですか?!」
「大丈夫だろう。目の前でこうして飲んで見せてるのだ。それに私も護衛騎士の嗜みとして、ある程度毒に身体を慣らしている。反応も出ないし問題なかろう」
「い、いや、毒に身体が慣れているならツァーリさんは大丈夫でも、なな慣れてないあたしはもろに影響受けると思うんですが……」
「大丈夫だよ。ハミツミレの花は一旦乾燥させて中の水分を飛ばすと、一緒に毒性分も抜けていくんだ。代わりに他の成分が凝縮されて、お茶にするとその効能が良く抽出される。甘味もこの成分の中に含まれてるから、飲んだ時に仄かな甘みを感じるんだ」
「な、なる程です……ほ、他の成分というのは?」
「鎮静作用効果だよ。二人にはピッタリだろ?」
「どどどどういう意味ですか!」
「うむ。飲むだけで落ち着けるというのであれば、私にとっては有難い話であるな」
「へ? つ、ツァーリさん、今、ろろろロイフェルトさんにからかわれたんですよ?! そこはお怒りになななならないと!」
「そうなのか? まぁ、私は別に構わんぞ? 鎮静作用が必要なのは事実だからな」
「自覚してたのか……」
「流石にあれだけ揶揄され続ければ嫌でも分かる。改めるつもりは全く無いが」
「そこはちょこっとは気を遣おうよ!」
「感情は自然のままに流すのが我が家の家訓なんだ。血湧き肉踊る状況ならそれを押さえ付けるのではその家訓を反故にする事になる。だが、これで感情が沸き立つ事が治まるのであれば、重畳だ。姫様の心痛も幾らか軽くなるだろう」
「いや、そんな他人事みたいに……」
「周りが私をどう評価するかは、私にとっては他人事だよ。ただ、姫様には世話になっているからな。出来れば心痛を少しでも和らげられればと思っていた所だ。これは何処かで売ってはいないのか?」
「俺の自作のハーブティだからな……少ししか無いけどあとであげるよ」
「そうか。かたじけない」
「ちょちょちょっと待って下さい!」
「何さ?」
「このハーブティ……タダでお譲りするつもりですか?」
「売り物ではないしね。俺は商売にするつもりはない。個人的に作る程度に収めるつもりだし」
「で、ですが、これは
「そうなのか? なんなら金は払うぞ?」
「いや、
「っ!!」
「そういう事なら遠慮無く貰っていこう」
「ろ、ロイフェルトさん……」
「
「よよよよ良いのですか?!」
「別に良いよ。ただ……俺は作り方を教えるだけだ」
「わわわ分かってます! な、何としてでも作り方を覚えて、せせ生産ラインに乗せて見せます!」
「まぁ、そんなに気負いなさんな。理屈としては難しい事は無いから」
「私も一緒に良いか? 自分で作れるならそれに越したことはない」
「ここでしか作らないって事と、作り方を他に漏らさないってのを守れるんなら良いよ」
「それは誓おう」
「姫さんに聞かれたら、トゥアンが試作中の現物を貰ったとでも言っといて」
「うむ……ただ、姫様はああ見えて鋭いお方だからなぁ……嘘だとバレてしまう可能性もあるが……」
「なら、俺とトゥアンの合作と言えばいい。それなら嘘はない」
「それならなんとか誤魔化せそうだな」
「あ、有難う御座いますぅ……な、何としてでも物にして、ここ今後のあたしの商売の基盤に育てたいと思います!」
「俺としても自分で作るより、買ったほうが楽だから、さっさと作れるようになってくれると助かる」
「は、はい! 任せて下さい!」
「んじゃ、早速教えるか……」
そう言うと、二人を連れ立って部屋の奥にある扉を開いて中へと入る。
「この部屋は風通しが良くて、ドライハーブを作るのに都合が良くてね」
部屋の中には様々な種類のハーブが所狭しと吊るされており、それらから少量ながら乾燥されたお茶の葉も並べられていた。
「流石に茶葉は高いし発酵までは出来ないから、殆どハーブティだけどね」
「はは発酵までするには大掛かりなどど道具も必要ですもんね」
「そういう事。さて……一般に出回ってるハーブティと、俺が作ったさっきのハーブティ、一体何が違うと思う?」
「なな、何と言うか……あ、味も香りも身体に対しての影響も、ろろロイフェルトさんのハーブティの方が色々と濃縮されていた気がします」
「何でだと思う? 普通のハーブティってのは、主に食用のハーブや、毒の無い花を乾燥させた物が材料だ。ただ、俺が使うのは毒が含まれてる事が多いんだけどさ」
「…………マナか?」
「ピンポーン。マナの影響を受けて毒素が強く残った野草や花を、特殊な方法で加工するからあのハーブティになるってわけ」
「な、なる程……こここの辺りの植物は、ままマナの影響を強く受けてどど毒素が強まり、それに伴ってなな内容成分が濃縮されてるってわわ訳ですね?」
「そういう事。だから、先ずは毒気を抜く事を考えなくちゃなんない。普通のハーブティの材料になるドライハーブってのは直射日光を避けて、風通しの良い所に吊るしておけばオッケー何だけど、ハミツミレはそれだと毒が残っちゃうんだ。だから、乾燥させる段階で……俺の場合はマナ操作を利用して毒気を抜く」
「そうですか……でも、あたしじゃロイフェルトさんほど上手にマナを操作できませんよ?」
「私にも無理だな」
「そりゃそうさ。簡単にそれをされたら俺の立つ瀬がない。だから……君達には新しい魔法を作ってもらう」
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