第七話:日向の覚悟
諒と萌絵はあの後、二人で『コックス』に向かうと、
あまりに露骨に機嫌の悪い顔をしている萌絵を見て、
諒に説得されたなら、二人の行動を認めてくれるだろうと思っていた
六人もいながら、誰も話そうとしない謎の緊張感に包まれた空気の中。
ふっと苦笑した後、諒は空気を読むことなく口を開いた。
「それで、
「え? あ、うん……その……」
話を促されたものの。未だ表情の変わらない萌絵が気になり、ちらちらと視線を向けてしまう。その視線を感じ、萌絵がじろりと彼女を見つめ返すと、
「早く話して」
「あ、う、うん」
──もしかして……諒君の説得でもダメだった訳!?
だからこそ、彼が萌絵を説得してくれるなら、何とかなると考えていたのだが、間違いなくそんな雰囲気にはなっていない。
とはいえ、ずっと何も話さないわけにはいかないっと、
「あ、あのね。妹ちゃんや
「……働きかけたって言うほどのこと、したつもりはないけどね」
「でも、妹ちゃんのキーボード代出したんでしょ?」
「え?」
その言葉に驚きを返した彼が思わず
「お
「……そっか」
「あの……ありがと」
「いいよ。気にしなくて」
優しく笑う兄を見て、ふっと肩の荷が下りた
「椿さんにお願いしたのも諒君なんだよね?」
「丁度会う機会があったから、その時に。まあ、でも椿さんなら
そう言って椿を見ると、
「確かにお話があればご協力はしようと思いましたが、諒様が先にお話してくださったからこそ、戸惑いなく受け入れられたのですよ」
と、これまた優しい笑顔を浮かべる。
「ごめん。
「まったく。
「勿論。だからこそさ」
してやったりな顔をする
「ねえ諒君。何でそこまでしてくれるの? やっぱり妹ちゃんの為?」
「うーん。それはないって言ったら嘘になるけど……」
「
「でも、お金だって凄いかかった訳でしょ?」
「まあね。でも、これでも
「お
不貞腐れる
「確かにキーボードはちょっと高かったけど、それ以外にお金掛かりそうな部分は、椿さんとか
「動画? ……あ!」
「ね? ね? その辺って任せちゃってもいいの!?」
「そのつもりだよ。流石に凄い機材まで用意はできないけど、俺の使ってるデジカメの動画撮影機能って、YourTuberの人も結構使ってるみたいだからいけるんじゃないかな。編集は
「PCのスペックも足りてると思うし、そこは僕も協力するよ」
──諒君ってば、やっぱ凄すぎるよ。
自分の手落ちすらもしっかりと抑えている諒の心配りに嬉しそうな笑みを浮かべる
「……で。
「う、うん……」
ちらちらと様子を伺う
「……あの、萌絵。私、なりきりフェス、参加したいなーって思ってる」
「どうして?」
「勿論Two Rougeに逢いたいのもあるけど……皆も、協力してくれるって言うし……。ね? ほら。準備もこんなにしてくれてるのに、無駄にしたらいけないじゃん?」
乾いた笑いでそう語った彼女を見て、萌絵はじろりと視線を向けると。
「……
そう冷たく言い放った。
これに
「も、萌絵さん!?」
「諒君も黙って聞いて」
今までにない真剣な、しかしどこか怖い雰囲気の彼女に、思わず諒もその場で縮こまった。
「
「え? あ、その……」
「ただ勢いで参加を決めたんだったら、高い楽器まで買ってでも頑張ろうとした
「それは……」
「私は、諒君も。
「えっと……少しは……」
「でも動画の話とかまで考えてなかったよね?」
「う……」
萌絵の言葉にぐうの音も出なくなった
「本当なら学生が遊びで掛けるようなお金じゃ済まないんだよ? だけど、諒君は
「え? お
その言葉に驚いたのは
彼女の戸惑いに、諒はふっと笑う。
「お前が
「嘘!? じゃあその日にはフェス参加に何がいるとか、幾ら掛かりそうって計算してたの?」
「うん。ざっくりとだから、あまりあてになるか怪しかったけど」
驚く
これには椿や
「翌日、諒から連絡貰って話を聞いて驚いたよ。プロデューサーにでもなるかと思ったし」
「そういう訳じゃないって。気になって勝手に調べただけだし」
場の空気を和ごますように、微笑みながら語る
そんな二人の笑みを少しの間見つめた萌絵が、真剣な表情を崩さずに
「……いい?
少し目を潤ませた萌絵を見て、
確かに、イベントではあるし、気軽な気持ちで参加するのが悪いわけではないだろう。
ただ、それなら色々と妥協して、軽い気持ちでやれば良かっただけ。
だが、あのイベント発表を聞いた時。
後先考えていなかった反省もあるが、本気で頑張りたいと思ったのは確かだ。
「……ごめん」
ぽつりと、
心底悔しそうな顔で。
「……いいんじゃないかな?」
と。
そんな彼女に短く返したのは、笑顔の諒だった。
「何かしたいって思うのって大事だし、凄い事だから。だから
「……うん」
「だったら、折角だし頑張ってみよう。こういうのって機会逃したら一生経験できないかもしれないし。勿論、ちゃんと応援するし、協力するから」
「……諒君……」
申し訳なさそうに顔をあげた
──あ〜。やっぱり私、ダメだなぁ……。
そう心で強く感じてしまう。
彼女は、嬉しかった。
知り合って決して長くない友達。
自分が心の奥底で恋焦がれる相手。
そんな彼がここまで優しさを見せ、ここまで応援してくれる。
それが、本当に嬉しくて仕方がなかったのだ
「……萌絵。ごめんね。確かに私、考え甘かったと思う」
「うん」
「でも私、やっぱり頑張りたい。妹ちゃんの頑張りにも、皆の協力にも応えたい」
「……うん」
「最初っからしっかり決意できなかったけど、今は大丈夫。だから、やってみる。良いよね? 妹ちゃん」
「はい。私は最初からそのつもりですから」
そんな二人を見て、横目に視線を重ねた諒と萌絵も互いに微笑み。
椿と
こうして、
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