第九話:それは間違い。だけど正解
諒と
まるで先程の妹をなぞるように、
そこで、白いワンピースをサイズを確認するため身体に合わせた後。少しの間じっと眺めていた彼女は、ふっと笑みを浮かべると、それを手に取った。
──もしかして、先輩……。
一連の流れを見ていた
そんな彼女の心を他所に、
そこで、妹とお揃いのデザインのジャケットを見つけると、サイズを軽くだけ確認して迷わず手に取り、笑顔で二人の元に戻ってきた。
「さて。私が選んだのはこの二着だけど。諒君ならどっちを薦める?」
両手に手にした服を持ち、彼に見せながら。何処か悪戯っぽい笑みで、試すように問いかける
ここまでの流れを見て、
──これ、ジーンズジャケットだ……。
先程の
確かに、これは罠だ。
理由はここに来る前。三人が出会った時に何気なく話していた、
──「私なんてこの肌だからさ~。そういうのほんっと似合わないんだよね〜」
彼女は清楚系な服装の
更に、ジーンズジャケットは今の
白いワンピースを見たあの時に笑ったのも、彼女が罠を仕掛けほくそ笑んだのだと
あからさまな罠に掛かるのか。
それとも。今までのことを覚えていて、または何らかの理由でそれを掻い潜り、見事正解するのか。
不安と期待の眼差しで、
「ワンピース、かな」
口にされた答えに、露骨に残念そうな顔をしてしまう
実際、彼女の推測通り。
──やっぱり、最初は引っかかっちゃうかぁ。
少し残念な気持ちになりながらも、
「何でそれを選んだの?」
答え合わせには理由も必要。
だからこそ、敢えて答えを明かさず更に問いかけたのだが。諒が返した理由は、彼女が予想しないものだった。
「似合うと思ったから」
迷うことも、恥ずかしがる事もなく。彼がそうはっきり言葉に口にすると、思わず
「な、何よ急に!? ふ、ふざけた答えは流石に──」
「ふざけてないよ」
「
「え?」
その言葉に、思わず驚きの声をあげたのは
自分が感じた笑みへの答えと違う理由に、まさかといった驚きで
彼女が呆然と諒をじっと見つめる姿に、それが真実なのだと理解する。
「
演技すら忘れたストレートな、自信を持って欲しいという発言。
そこに込められた真剣さを強く感じ、
恥じらいを誤魔化すように服を片腕にまとめて掛け、少し俯き加減になりながら、空いた手で髪の毛の先をくるくると、落ち着かないようにいじりだした。
「……諒君ってさ。卑怯だよ」
「え? 何で?」
意味が分からず首を傾げる彼に、彼女は恥ずかしそうに俯く。
「女の子って、色々考えてて、本当に単純じゃないんだよ。だけど……きっと私だけじゃなく、萌絵や妹ちゃんだってそうだと思うけど。恋している子が好きな彼にそんな事言われたらさ。間違ってたって、正解になるに、決まってるじゃん」
演技をするのを忘れたのか。
何時になくしおらしく、一人の少女として語った
「今回は仕方ないから、正解にしてあげる」
「……何か、空気読めなくて、ごめん」
「何言ってるの。恋人相手なら空気読め過ぎてヤバ過ぎだよ?」
相手が望んでいた答えではないだろうと思い、
相手に望んでいた以上の答えを貰い、諒の言葉に嬉しそうに笑う
今までもよく見た彼と、今までに見たことない彼女の姿に。
先程彼女に突っ込まれた通り。もしこれが普段の買い物だったら、彼女もまた、諒が選んだほうを喜んで買っていただろうから。
同時に、彼女は
「いいなぁお姉ちゃん。私も『似合うから』って言って決めてほしかったなぁ」
そう。
はっきりと口にした諒の選択は、恋い焦がれる者ならば、言われたい言葉に決まっている。
恋人っぽくねだられると、彼はきょとんとし。
「あれ?
「別に~。そんな事ないですも〜ん」
にんまりする
そんな二人を交互に見ていた諒だったが。
「あの、
そんな空気を読めない発言をすると、じろりと彼女に白い目を向けられた。
「そんなのは分かってます〜。そうじゃなくって。女の子っていうのは、口ではっきり褒めて貰いたいものなんです~」
拗ねた口調は変わらない。
だが、そんな彼女の表情を一変させたのは
「
「あ……」
彼女の言葉に、
確かに。
真剣な顔で、自分の事も可愛いと言っていた。普段そんな事を口にしない兄が、演技もせずに。
「そ、そっか。そうだよね。じゃ、じゃあ、許してあげる」
真っ直ぐすぎる言葉を思い返し。ぽんっと赤くなった彼女もまた、急にしおらしく、俯き、恥じらう。
言った言葉を掘り返され、これまたそっぽを向き恥ずかしそうに頬を掻く諒といい。
ころころと表情を変えておきながら、結局恥じらう
──なんか、本当によく似た
その変化に思わずくすくす笑った
「さて。じゃあ次は、正解したご褒美の時間かな」
「え?」
顔を上げた
「勿論! 今日の
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