第八話:女心は単純じゃない
金髪の姉妹に連れられ、諒がやってきたのはショッピングモール一階にあるセレクトショップ『アーク・キュービック・エコロジー』。
かなり広いスペースの中に、若者向けの男物から女物まで、幅広い服やアクセサリーが所狭しと並べられている、学生御用達なお店のひとつである。
「やっぱ、選ぶならここよだね。
「そ、そうですね。お姉、ちゃん」
自然に姉を演じる
そんな二人が店の前でやっと両腕を解放した為。緊張していた諒の心も解放され、少しだけ安堵のため息をつく。
──心音とか、聞かれなかったよな?
かなりばくばくと高鳴っていた鼓動。
それを気づかれてしまったらと思うと、気が気でなかったのは事実だ。
「さて。じゃあまずは
こういったことに手慣れているのか。
笑顔でそう話す
「私が? お姉ちゃんが、先じゃダメ?」
先なのが不服だったのか。
思わず
「まずは
「そ、そんな事ないと、思うけどな……」
「まあまあ。とりあえずお姉ちゃんの顔を立てて」
すっかり姉に成りきっている
「むぅ。分かりました。でも二人っきりの時に勝手に手を出さないでくださいね!」
萌絵風の妹になりだした
「さて、諒君」
「ん?」
「ここからちゃんと、
「
「そんなの。どんな風に服を探してるか見るに決まってるじゃん」
「え? そこは別にいいんじゃ……」
突然の
──気に入ったの選ぶだけだろ?
内心そんな気持ちが強いのだが。彼女はダメダメと言わんばかりに、ちっちっちっと指を振る。
「こういう所でうまくやるなら、この瞬間から戦いが始まってるの。ほら。よく見てて」
彼女の言葉に釣られ、彼は
彼女はまず、清楚系のワンピースが並ぶコーナーに移動し、幾つかサイズに合いそうなものを眺め、自身に合うか身体に重ねていく。
それを複数着、入れ替えながら合わせた後。
特に何も手を取らず次に向かったのは、
ここでも幾つかの色を見繕って、同じように合わせていく。そして、内二着、白と水色をちらちらと見比べるも、そのままハンガーに戻した。
と、その時……。
「後で、白いの取りに戻るよ」
「え?」
小さな声で口にされた言葉に、諒は思わず
視線に気づき、軽くウィンクした彼女は、無言で
そこでは、色の濃いジャケットを一着手に取るとじ~っと眺めている。
「あれも決定かな」
「!?」
ぽつりと呟いた
二人の前に戻ってきた
「諒さん。どうしたの?」
呆然とする彼を見て、にんまりと笑った
「ね? 当たったでしょ?」
そう言って、自慢げな顔を向ける。
「確かに当てたけど……超能力でも使ったの?」
信じられないと言わんばかりに、思わずそう尋ね返した諒の言葉に、思わず
「当てたって……私がどの服を持ってくるか?」
「ああ。
手品師に驚かされたような表情を崩せない彼に対し、
「やっぱり、お姉ちゃん凄いです。多分、選んだ理由まで分かりそう」
「それは流石に──」
「分かるんだなぁ。多分ってレベルではあるけど。ちゃんと
「さて諒君。彼女は二着選んできたけど。どちらがいいって聞かれたら、あなたはなんて答える?」
「えっと……」
諒の視線を受け、
片や上に羽織るジャケット。片やトップスだがジャケットの下に着る物。
その二着をじっと見て熟考した彼は。
「ジャケットかな」
やや自信なさそうに答えた。
「何でそう思ったの?」
「いや。羽織る系なら着回しも利きそうだしなって」
彼が答えた理由は実用性。
それは確かに、服を選ぶ理由に成り得るものなのだが。
「まあ、そう言っちゃうよね~」
やれやれというポーズを返す
ただ。彼女はその後、苦言を呈するようにこんな事も口にした。
「でも〜。ちょっと
「あ。やっぱり……ですよね」
心当たりがあったのか。彼女は、思わず申し訳ない顔をする。
「まあ、好きに選ばせたの私だからさ〜。
「はい……」
本当の姉妹のように会話をする二人。
だが、それでは残念ながら諒の謎は解けない。
「えっと? 結局正解は、ブラウスの方って事でいいの?」
正解も、その理由も全くわからない彼がただ首を捻ると。
「この場合、『両方組み合わせたらいい』、が正解」
「え? 二択じゃないの!?」
「女心はそんなに単純じゃないの。ここからは私の推測ね」
騙されたと言わんばかりの彼の反応にくすくす笑うと、教師が説明するかのように、
「最初のワンピースコーナー。あれは見てる時間短すぎで、気に入らなかった感ありあり。で、次のブラウス。まずワンピースより時間を掛けてたから、何かに惹かれたのは間違い無くって。で、色の二択になったんだけど。実は白を見ていた時間のほうが更に少し長かったんだよね。
「うん」
迷うことなく頷いた彼女の顔は、
「だけど、あれだけだと肩の露出が激しいから、上に羽織る物を考えたんじゃないかな〜。で、そこで選んだのがジーンズジャケットな訳。多分
「やっぱり分かりました?」
「もっちろん! センス良いなぁって見てたもん」
より驚きの色を濃くした
「本当は諒君が答えやすいように、最初は二択にしてほしくて二着選んで貰ってたんだけどね。まあ、こんな感じで、女の子って服ひとつ選ぶのも色々考えてるのよ」
「へ~。でも
「まあね~。って言っても、私の男友達でもここまで見て判断できる人って、流石にいないけどね~」
感心した顔で耳を傾ける諒は、
と、同時に。
──前より、何か優しい?
何となく、そんな不思議な雰囲気を感じ取っていた。
「でも、多分なんだけど。諒君と
「え? そこまで分かるんですか!?」
「うん。だって諒君の事大事にしてそうだし。彼が気に入ったのなら問答無用でOKしそうだもん」
「さ、流石に、そんな事……」
悪戯っぽく事実を突きつけると、
その反応の可愛さに、
「ってわけで。仕方ないから次に私が二択の例題出すから。しっかり理由考えて当ててみてね」
ふふふっと怪しげな笑みを浮かべ、二人を残し、服を選びに行くのだった。
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