第七話:金髪の姉妹
肩を大胆に出した白いフレアオフショルダーのブラウスに、膝より少し丈の短いデニムスカートを履きこなした
「うわぁ! 何時もと雰囲気全然違うから、人違いだったらどうしようかと思ったけど!」
一気に彼女に駆け寄ると、
「え? あの!?
思わず戸惑いから、
「いやぁ。まさか萌絵と同じ清楚系もいけちゃうとか。やっぱり妹ちゃん可愛いよね~」
満足そうな笑みでうんうんと頷いてみせた。
「えっと、その……。そんな事は、ないですよ?」
「何言ってるの。ありあり。あり寄りのありだよ~。私なんてこの肌だからさ~。そういうのほんっと似合わないんだよね。羨ましい~」
謙遜しつつ恥じらう
それ自体悪いことではないのだが。流石の諒も、妹が同時に困った顔をしているのを、見て見ぬ振りはできない。
「そ、そういや
彼がそんな助け舟を出すと、彼女は少しキョトンとした後、普段通りの笑顔で話し出した。
「買い物。春物で良さそうなコーデとかないかなって探してたんだ~。家すぐそこだし」
「家が……すぐ、そこ?」
「あ、そっか。諒君達には言ってなかったっけ。私の家、この駅から近いんだよ」
「「え!?」」
その言葉に、二人は思わず目を丸くした。
この
そのため、近所にある家々で最初に浮かぶのは、駅周辺の高層マンションばかり。そのため、彼女はそんな家に住んでいるのだと思ってしまったのだが。
「
「それより、二人は何をしてたの?」
「え? あ……」
「その、ええと……」
突然の切り返しに、言葉を濁す二人。
流石に突然、デートの指南などと口にできるわけもなく。
「あの、私が滅鬼の映画観たくて、お
「ふ~ん……」
必死に弁明を返した
「その割に、何か二人共随分くっついてたみたいだけどさ。普段もそんないちゃいちゃする感じなの?」
「え!? あ、あの、それは……」
しどろもどろになっていく
その姿を見て。
──流石に、仕方ないよな……。
諒がひとつため息を
「俺が、頼み事したんだよ」
真剣な顔でそう口にした。
「頼み事?」
「うん。今週土曜に萌絵さんと二人で逢うことになったんだけど、俺、デートみたいなのとかさっぱり分からないし、女の子の好きそうな店とかも全然知らないからさ。だから
「へ~。ついに萌絵もやっと一歩踏み出したわけか」
腕を組み耳を傾けていた
腕を組むのをやめ、手をぽんっと叩く。
「つまり。妹ちゃんを萌絵役にして、デート仕立てにしたってことか」
正解。
諒と
「でも萌絵は奥手だしまだ友達なんだから、妹ちゃんみたいにベタベタはしないと思うけど……。ってことはもしかして、恋人設定とか?」
どう? と答え合わせするようににっこり聞いてくる彼女の答えは、またも大正解。
これには
「
あっさり降参してみせた。
だが。
それがいけなかった。
──まあ確かに、諒君もあのピュアっぷりだし、色々知らなそうだもんね〜。
ファミレスでの一幕を思い出し、ある意味納得はしたのだが。次の瞬間見せた
「そっかぁ。じゃあ、私も協力しよっか」
「「え!?」」
またも声を重ねて驚いた二人は、嫌な予感を感じる。そして、その勘は……。
「私も諒君の恋人役をになって、色々教えてあげる」
勿論、大正解。
楽しそうにウィンクする彼女の表情に、二人はまたも顔を見合わせると、両手を上げ思わずたじろぐ。
「いやいやいやいや。ほら、
「うん。でも服とか見に行く訳だし、女子の買い物知らない諒君なら丁度いいでしょ?」
「だだだ、大丈夫ですよ先輩。私が既に買い物のレクチャーをしてますから」
「え? でも買い物したって割に、手荷物全然じゃん」
言い訳に言い訳を重ねても、
するすると二人の
と。
ふと
その圧に、背筋が寒くなるのを感じながらも、何とか視線を合わせていると。
「もしかして、諒君独り占めしたかったとか?」
図星。
ぎくりとした
「そ、そんな事はないです!」
思わず強く否定する。が、顔は真っ赤。
「ふふ~ん。素直で可愛いなぁ、妹ちゃんは」
瞬間にやにやとする
「大丈夫。独り占めとはいかないけど、妹ちゃんも引き続き恋人役でいいから」
そうさらりと提案したが、勿論それだけで終わるはずもない。
「妹ちゃんと私は姉妹で、二人共諒君が好きでベタベタする設定ね」
「……へ?」
「せ、先輩!?」
突然の言葉に、呆気にとられる諒と。
突然の提案に、目を丸くする
二人の反応をひとしきり楽しんだ
「大丈夫だよ妹ちゃん。取り合いじゃなくて、ハーレムルートだから」
「は? はーれむるーと?」
妙に気の抜けた諒の復唱に、彼女は自信満々に頷いた。
「そ。私達なら二人共金髪だしさ~。姉妹っぽいじゃん? それに、こんな美少女二人にモテモテの諒君。役得じゃ~ん」
「いや、役得っていうか、別に普通にレクチャーだけしてくれれば……」
「諒く~ん」
必死の抵抗をする諒に対し、
ややトラウマのある視線に、諒は一瞬びくっと身を震わせてしまう。
素直過ぎる反応に、彼女はひとつため息を漏らすと。
「ノリが悪いなぁ……な~んて事は、言わないけど」
少しだけ寂しそうな顔をした後、気丈に笑みを浮かべた。
「諒君が私の事を苦手なのは分かってる。あんな態度取っちゃったしね。でも、萌絵と仲良くなろうと頑張ってくれてる相手だからこそ、私ももっと仲良くなりたいんだよね。だめかな? 諒君。妹ちゃん」
今までと違う何処か真剣な雰囲気に、諒と
ただ。そこに浮かびし迷いは、何とか断りたいという顔ではなく。自分達の心のやましさへの反省を色濃くしている。
──
──
二人が選んだのは暫しの沈黙。
そして、
「お
先に折れたのは、
ただ、それでも兄が苦しむのは嫌だという、心配そうな顔も覗かせている。
──まあ。変わらないと、だからな……。
諒は心で思う。
苦手な人を、避け続ける事はできるだろう。だが、それでは変われなだろうと。
ため息ひとつ。頭を掻いて。
ゆっくり、
「
諒は困り顔ながらも、何とか笑顔を返した。
それを聞いた瞬間。ぱぁ~っと笑顔が花咲いた
「じゃあそれで決まり! 私は妹ちゃんを『
「お、お姉、ちゃん?」
「そ。そして~」
呆然とする
「私はこっち~。
嬉しそうに笑う
──え? ええええ!?
誠に悲しい話であるが、彼女は
そして何より薄手のブラウス。だからこそ、今まで妹では意識してこなかった、服越しでもはっきり分かる胸の感触が、腕に伝わってしまったのだ。
露骨に恥ずかしがる諒を見て、
それは……嫉妬。
「わかりました。諒さん。行きましょ!」
先程の、兄の為にと決意した想いはどこへやら。
彼女も負けじとぎゅっと腕を取り、自身の手を絡めた。
それこそ、胸を押し付ける勢いで。
「え? ちょ!? ま!?」
「さっすが
その言葉に諒は。
にっひっひと、今日一番の会心の笑みを浮かべた姉をちらりと見て。
少しだけ不貞腐れながらも、負けじと顔を赤くしながら視線を向ける妹もちらりと見て。
ひとり、大きく諦めのため息を
恥ずかしさに
だが、二人は気づいていなかった。
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