第六話:兄妹として
無事に映画を見終えた二人は、そのまま昼食を食べるべく、ショッピングモール内にあるスパゲッティ専門店『ポロロパーパ』に足を運んでいた。
白を基調とした、やや豪華さを感じる店内。
アンティーク調のテーブル席に腰を下ろした二人は、注文を済ませ、ウェイターが去った後、改めて互いを見た。
「
思わず苦笑する諒の瞳に映る
「だってぇ。もう最後の展開とか
「あ、まあ。いい話だと思ったけど。流石に泣きはしないかな」
「……そこ、マイナスポイントです」
余程クライマックスシーンが印象強く残ったのだろう。
そんな嫌味を口にしながらも、思わず少し目を潤ませた彼女は、慌ててポシェットからハンカチを取り出し涙を拭く。
諒も感動はしたものの、そこまでではなかったのは、やはり作品への熱の入れようなのかもしれない。
少しだけ不貞腐れた彼女を見て、思わず彼は呆れつつも。
「午後はどうしようか?」
話題を変えるように、諒はそう尋ねてみる。
「折角だし、セレクトショップ巡ろうかなって」
「買い物?」
「うん。今度はお店でまた問題出そうと思って。いいかな?」
「
彼女の申し出に、彼は笑顔で頷いてみせた。
「そういえば、諒さんって霧島先輩の誕生日とか、血液型とかは知らないんですか?」
「まだそういう話題ってしてないかも」
「失礼いたします」
と。
二人がそんな会話を始めた時。ウェイターが声を掛けてきた。
「お飲み物をお持ちしました。紅茶の方は」
「あ、はい」
手を上げた
「それでは、失礼します」
丁寧に会釈をし、そのまま去っていった。
席に備え付けられたクリームと砂糖に手を伸ばした諒は、それをコーヒーに入れると、くるくるとかき回す。
「それで、さっきの話だけど」
「あ、うん。こういうお店なんか入った時に、もし話題がなかったら聞いてみると良いんじゃないかなって」
「ああ、確かに。正直、
「諒さんって、本当に世間知らずですもんね」
少しからかうように笑う彼女を見て、否定はせずに困った笑みを浮かべた諒は、コーヒーカップを口に運ぶ。
「まあでも、そこは私に任せてください。ちゃーんと女の子っていうのを教えてあげますから」
「そうだね。期待してる」
自信満々の顔をする彼女に、諒はカップを口から離すと微笑み返す。
そうやって兄の笑みを見る度に。
──うん。今度は私がちゃんと頑張って、恩を返さなきゃ。
映画で見た
* * * * *
幼い頃。
物心つき、幼稚園に行くようになって以降。彼女はこの金髪のせいで、本当によく虐められ、バカにされた。
そんな時、何時も守ってくれたのは兄だった。
時に彼が相手を叩いたり、傷つけてでもバカにするなと叫び続けたことで、幼稚園の時も。小学生に上がった時も、彼女をバカにする者は減った。
だが同時に。それで孤立したのは彼女ではなく、諒だった。
幼稚園でも。
小学校でも。
彼の周りにほとんど友達はおらず。休日、遊びに行くのも一人っきり。
そんな姿を見る度に、彼女は心痛めた。
それが、自分のせいだとわかっていたから。
自分が庇われているせいだと。
自分の髪のせいだと。
自分が、妹になったせいだと。
だが。
そんな心を露呈し、謝っても。
兄は絶対に、それを肯定しなかった。
「
「お兄ちゃんが勝手にやりすぎただけだから、
「俺が、人付き合いが下手なだけさ」
歳を重ねても。理由を変え。言葉を変え。
ただそう言って安心させようと笑う兄に、どれだけ助けられたか。
その気持ちが、いつしかより強く兄を好きにさせていたのだが。
同時に。気づいてはいたが、好きな想いと兄の厚意で隠してしまっていたある想いを、この映画を見て気づかされた。
傷つきながら、兄、
今度は兄の為に戦おうとするシーン。
それが、自身に重なったのだ。
ずっと迷惑をかけてきた。
そんな自分が返せる事。
兄に友達が増えるなら。兄が皆と仲良くなれるなら。
そして。兄に恋人ができ、幸せになってくれるなら。
今まで自分のために傷つきながら、盾となり続けた兄のため。今度は自分が傷つこうとも、兄が陽のあたる場所で、笑顔でいてほしい。
今までも気づきながら、悩んでいた感情。
好きだからこそ誤魔化してきた気持ち。そこから逃げてはいけないと、強く感じたのだ。
* * * * *
あれから、出された美味しいスパゲッティを堪能した二人は、レジでウェイターにお礼を言うと、並んで店を出て、ショッピングモール内を歩いて行った。
「本当に美味しかったですね、諒さん」
「そうだね」
「でも、ご馳走になっちゃって良かったんですか?」
「まだお年玉全然残ってるし。
「今年は、新年早々ちょっと話題作が多かっただけです~」
腕に絡みつき並んで歩いていた
「はいはい。そういう事にしておくよ」
「むぅ。そういうのもマイナスポイントですからね」
「分かってるって。っていうか、萌絵さんそんな感じじゃないだろ?」
少し困った顔で謝る諒を見て、一転表情を笑顔にすると。
「確かにそうですね。じゃあ許してあげます」
そう言ってより強く腕を組もうと手を取ったのだが。
「あれ? もしかして、諒君に、妹ちゃん?」
その、最近聞き慣れた声が背後からした瞬間。
二人はびくっとすると、
そして、互いにゆっくりと振り返ると……そこには、金髪に褐色の肌をした、最近見慣れた一人の少女が、春の嵐を感じさせる笑顔で立っていた。
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