第三話:予想外の指南役
協力者と会う日がやって来た。
前日夜になっても、相手の名前や連絡先すら明かそうとしない彼女に、思わず苦言を呈した諒だったが。
「大丈夫。ちゃんと待ち合わせ場所行っててくれれば、彼女から合流してくれるから」
そう笑顔で話す
待ち合わせ場所となったのは、
ここは
諒達が住む
さて。駅改札のある二階の南側。
改札を出てすぐの南北に続く大きな連絡通路の南寄り。待ち合わせにも使われる天使達の彫刻が飾られた噴水の前に、諒はひとり、噴水を見ながら立っていた。
相変わらず茶と黒のチェック柄のシャツに白のTシャツに紺のジーンズと、至って普通の服装。時間はまたも待ち合わせの十時より十五分ほど早い。
噴水のある真上は円形にガラスが組み合わされ、快晴の空から入る光が噴水を明るく、神秘的に照らし出す。
その光景に目を奪われたかのように、諒は光を浴びる天使の像をじっと見つめている。
──しっかし。
過去に遊びに来た彼女の友達を思い出してみる。
確かにその子は
だが、それでも自分と歳が二つ下となれば、女子の事情もまた違うような気もして、どうにもピンと来ない。
消去法で思い付く限りの
ただ。
──
正直な所。友達になったとはいえ、二人きりでとなると、結局空気を悪くし彼女に怒られるイメージしか浮かばず。それは流石に、と思わず眉間に皺を寄せてしまう。
未だ、今日の相手が誰か分からぬ不安は大きい。
しかし、そんな気持ちも目に映る天使達を見ていると少し和らぐ気がして、諒はふっと応えもせぬ像に笑顔を向けた。
と、その時。
「りょ、諒さん」
まるで天使が応えたような……感じはしない、自身の名を呼ぶ少女の声がした。
聞き慣れない、気恥ずかしげな呼び方。だが、声は、間違いなく知っている。
彼は、静かに頭を掻くと。
「何変な呼び方してるんだよ、
そう言いながら呆れて振り返ったのだが。瞬間、彼は立っていた相手を見て目を
少女は、彼の知っている相手ではなかった。
いや。知っている。だが、まるで別人のようだった。
確かに、長い金髪。
だが、それをツインテールにはしておらず。自然に背中に流している。
一部の髪は質素な髪留めで頭の後ろに纏めたその髪型が、普段とは違う大人びた雰囲気を出している。
服装もまた、
どちらかといえば、私服は裾がやや短いスカートだったり、ジーンズやショートパンツといった、活発感のある服装が印象に強いのだが。
この日は白いワンピースに、薄い水色のカーディガンを羽織り。白いポシェットを
そう。
そこにいるのは、確かに
だがそれは、萌絵のような
呆然とする彼に、身体を小さく横に揺らし、ほんのり顔を赤らめ、恥ずかしげに俯きつつも、ちらちらと上目遣いで様子を
だが、何も言わず呆然とする兄に限界が来たのだろう。
「な、何か言うことはないの?」
口を尖らせ不満そうな顔で、そう問いかけてきた。
「え? あ、いや。その……」
相手は妹。
普段どおりの姿であれば、動揺などしない諒だったが。予想外の姿で現れた事に強く戸惑いを見せた。
──印象、違いすぎだろ……。
そう。今までにこんな姿をしたことなど、幼い頃位しか記憶がない。
だからこそ完全に面食らった訳だが。
「な、何でそんな格好? しかも名前で呼んでくるとかさ」
彼なりの気恥ずかしさを振り払うように、咄嗟に返した言葉は不正解。
瞬間。
「お
思いっきり頬を膨らませ、不貞腐れてみせた。
そんな普段通りの表情を彼女が見せた事で、諒の心の緊張感が少し
「悪い悪い。でも、いきなりそんな風に出てきたら、こっちだって驚くだろ?」
「そういう言い訳はいらないの。女の子はこういう一瞬一瞬で相手への印象変わるんだよ? 普通の子なら、この時点で大きく減点なんだから」
まるで、彼女にとっては減点にならないような言い回し。だがそんな
「そ、そっか……って。やっぱりお前がレクチャーする気か!?」
今日の本題を思い出し。今日の協力者が現れた今。
昨晩耳にした言葉が聞き間違いでなかった事を知り、少し肩を落とす。
だが、その反応がまたも彼女に不満をもたらす。
「そうだよ! だから折角だし、少しでも霧島先輩に近づけたんだから」
「そう言われれば……」
確かに。
先程感じた通り、そこにあるのは萌絵のような
まあ、それは分からなくはない。だが、疑問も残ってはいる。
「だけど、何で名前で呼んだんだよ? 驚かせようと思ったのか?」
「ぶっぶ~。お
不貞腐れたまま強く否定した彼女は、一転にっこりとする。
「お
「習うより、慣れろ?」
何故だろう。
諒はこの瞬間、嫌な予感がした。
だが、まだそれは予感でしかない。
「どういうことだ?」
確認するように問い返す彼に対し、また表情を変え、少しだけ顔を赤くしながら。
「きょ、今日は、私がお
両腕を後ろに回し。顔を背け。また少し身体を横に振り。片目だけ開けてじっと諒をみる彼女に対し。
「……はぁぁぁぁ!?」
諒は思わず、周囲の人々の注目を集めるほどの大声で叫んでいた。
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