二重スリット実験

二重スリット実験とは

 「二重スリット実験」なんて見た事も聞いた事もないという人もいるかもしれませんね。私も光速度不変の原理考え始めるまでは全然知りませんでした。実験自体は単純なものなんですが1961年初めて行われて以来やり方を変えて今でも行われていて、実験結果を知れば不思議な感覚に襲われます。

 そんな不思議な実験ですが、どんな実験かをお話しする前に「ヤングの実験」をご紹介しましょう。人によっては二重スリット実験と聞くとヤングの実験の事を思い出すかもしれません。ヤングの実験は高校で物理を選択した人なら知っているかもしれませんね。

 ヤングの実験というのはトーマス・ヤングという人が1805年ごろに行った実験です。「~妄想力を駆使して考えた~」でも軽く触れましたが、もう一度説明しましょう。

 光源を用意します。まあ、できるだけ明るいほうがいいと思います。その光をスクリーンに当てるのですが、その光とスクリーンの間に1本のスリット…できるだけ細めのスリットです。縦にスリットをいれた板状…紙でもいいんですが、スリットをいれた板状の物を置きます。そうするとスクリーンには1本の光の線が浮かび上がる筈です。もし浮かび上がらなければ実験が成り立たないので最初からやり直してください。ここまでは良いですね?

 次に縦のスリットを横並びに2本いれた板を用意します。この2本のスリット同士の間隔は狭いほうがいいです。この板をさっきの1本のスリットを入れた板とスクリーンの間に入れて、最初の1本のスリットの板を通った光が2本のスリットの間に上手いこと当たるように置きます。そうするとスクリーンにはどのような光の線が現れるか。

 2本の光の縦線が現れるのは予想できると思いますが、2本の縦線以外にもほんの少しだけ暗めの光の線が現れます。縦の縞模様の状態ですね。中心辺りから外に向かって光の縦線が明るい順番で並んでいる縞模様です。これは2本のスリットを通った光の波がお互いに干渉し合って新しい波を作り出したことで起きる現象で、この縞模様を「かんしょうじま」と呼びます。

 池の波でも音波でも、複数の別の波が発生すると波の山と山が重なる部分は大きくなり、波の山と低い部分が重なると波がなくなったように見えます。こんな風にして複数の波がお互いに影響し合って新しく波ができることを「干渉」と言います。

 つまり、光が作る干渉縞は、光が波でなければ見ることのできない現象であるという事で、光は波であるという事を証明しているようなものです。

 ですから、それまでニュートンの「光は粒子」説が優勢だった科学界でしたが、この実験結果を受けて光はどうやら波らしいという風に一旦は落ち着きました。なんですが、物事はそう簡単には運びません。その「光は波」説をひっくり返した…と言うか別の意見を言ったのはアインシュタインです。アインシュタインは「光は波であり粒子でもある」という考え方を示しました。

 で、二重スリット実験です。どっかの科学者が、ヤングの実験を電子で行ってみようと思いつきました。なんでこんなことを思いついたのか。まあ、とにかくやってみたわけです。

 この電子の場合は1本のスリットの入った板は使いません。2本のスリットの板一枚だけを使って実験します。この板をめがけて電子を発射していくわけです。光を使うヤングの実験の場合は一瞬で結果が分かります。目の前のスクリーンに光の縞が映ってそれを眺めるだけですから。

 けれど、電子を使う実験の場合は違います。電子は一粒ずつ発射しなければなりません。ちょっと時間がかかります。一粒0.1秒でも一万粒なら千秒…約16分40秒かかります。

 電子を一粒発射するとスクリーンにポツンと点が現れます。次の電子を一粒発射するとまたスクリーンにポツンと点が現れます。それを繰り返していきます。で、結果はヤングの実験で現れたような縞模様、中心辺りから外に向かって光の縦線が明るい順番で並んでいる見事な縞模様、つまり干渉縞が点描状態で現れたわけです。

 これは不思議ですよね。だって干渉縞って2本のスリットを通った光の波がお互いに干渉し合ってできる縞模様です。電子って1個です。電子2個をセ~ノ発射してこの結果なら「あ、理屈はよくわからないけど、今発射した電子同士で波の干渉があったんだな」と思います。しかし2個ではなく1個です。この1個の電子は一体何と干渉し合ったのでしょうか。

 なんとも不思議な実験結果ですが、結果は結果です。これは素直に受け入れなければなりません。もし電子がただの粒であるならこのような干渉縞を見られる筈がありません。つまり、発射された電子は波であり、この波が2本のスリット両方を通過し、通過した波同士で干渉し合い干渉縞ができ、スクリーンに到達すると粒として現れるという事です。あ~、電子は粒でもあり波でもあるんだな。

 と、ここでは終わりません。ここで終わるならわざわざこんな話はしません。嬉しいことにここで終わらないのが科学者でした。この干渉縞を作った電子は2本のスリットの一体どちらを通ったのか知りたくなったわけです。

 で、スリットのどちらを通ったかが分かる検知器を取り付けて再び観測しました。すると現れたのは見事な干渉縞ではなくただの2本の線でした。干渉縞は現れず、ちょっと太めの2本の線が点描で描かれていたのです。

 とんでもない実験結果ですからこの話を聞いてもにわかには信じられないでしょう。ひょっとして捏造?と思わないでもないですが、実験自体そう難しいものでもないですし、今でもいろんな形で繰り返し追試されています。ネットにもいくつか動画がアップされていますので、そちらの方でご確認していただくといいでしょう。

 つまり、二重スリットを通った電子は波としての性質を示すのですが、電子が一体どちらを通ったのかを観測してしまうと電子の波としての性質は無くなるのです。まるで電子が見られている事を察知して自分のふるまいを決定しているかのようです。

 この現象は量子力学で観測問題とか言われているそうで、大変な事になっています。電子を波としての運動量を測定すると電子がどこにあるか分からなくなるし、逆にどこにあるかを特定すると波としての運動量が分からなくなるという事らしいです。

 で、しかもなぜそういう実験結果になるのか。実はまだしっかりとは説明できてないのです。21世紀の今、世間では量子コンピュータもできそうだと言っているのに、電子などの極小の粒が、何故観測されていない時は波としての性質を見せ、観測されたとたんに粒の性質を見せるのか、その謎は未だ解明されていません。

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