科学者たちの回答

 科学者たちを悩ませている二重スリットの実験ですが、分からないまでも何とか説明しなければなりません。で、この実験結果を説明できるであろう何通りかの考え方があります。その中でも有力なものをいくつかご紹介しましょう。

 ただお断りしておかなければならないのは、ここで紹介している説はあくまでも量子論の標準理論を説明するためのもので、決して二重スリット実験を説明するための物であるとは限らないということです。詳しく知りたい方はいろいろと本なども出ていますので、そちらの方をお読みください。インターネットでもいろんなサイトで説明してくれていますが、あまり信用できないところもありますので、お勧めはできません。ということで、ここから紹介していきます。


〇コペンハーゲン解釈

 既に言いましたが光や電子は粒子でもあり波でもあるというような性質を示しています。こんなとんでもない結果に科学者たちは大いに悩みました。で物理学者ニールス・ボーアを中心にいろいろと話し合って一定の結論を出しました。これをボーアの研究所のあった場所にちなんで「コペンハーゲン解釈」といって、実は今のところこの解釈が一番の主流になっています。

 どんな解釈なのか。ド・ブロイさんと言う人が、陽子とか中性子とかの小さいやつも、粒子でもあり波でもあるという性質を示して、粒子が出している波の性質によって粒子の運動が決まるんじゃないかと考えました。この、粒子の出している波の事を物質波とかド・ブロイ波といいます。

 で、このド・ブロイ波の考え方を発展させてE.シュレーディンガーが考え出したのが「シュレーディンガー方程式」です。方程式ですから当然解けるわけで、この方程式を解くと物質の持つ波の形がどんな風に広がっていくのかが分かるそうです。

 で「物質が波のように広がっている」という事はまず無いと考えられるので、その波の場所に電子が存在する確率なんじゃないかと考えた人がいるわけです。電子が存在する確率の高いところもあるし、低いところもあるし、存在すらしないかもしれないということです。これを「確立解釈」と言います。

 しかし、測定した結果電子が粒子として現れたとしても、その前にどこにあるのかは波のように広がって存在していることを方程式は示しています。じゃあ、電子が粒子として姿を現す時、つまり誰かに観測されたとき、波の状態であった電子は粒子として小さく集まる…収縮するんじゃないかと考えたのです。これを「波の収縮」と言います。

 この「確立解釈」と「波の収縮」を基本姿勢として、見られる前の電子の様子と見られた後の電子の様子を考えましょうというのが「コペンハーゲン解釈」です。


〇多世界解釈

 素人的にはこれが一番とっつきやすいし、色々な物語でも使われていますから、ご存じの方も多いでしょう。パラレルワールドなんて言い方もしますね。

 観測されていない電子が、どこかに存在するのは確率でしか表せないわけですが、どこかにはあるとしましょう。で、観測した時にそのどこかにあったとします。でも、それはたまたまそこにあっただけで、もし他の人が観測していたら他の場所で見つかっていたかもという事もあり得ます。だったら、本当はあるかもしれない場所全てに存在していて、全ての場所にそれぞれ世界があるんじゃないの?っていう考え方が「多世界解釈」です。物語でパラレルワールドの説明するのに「時間軸が違っていてAの時間軸からBの時間軸に移った」みたいなのを見ますが、多世界解釈を厳密に考えると、時間軸っていうのは無数に存在している感じになっちゃいますね。

 荒唐無稽な解釈のようですが、実は意外とちゃんとしていて、例えばコペンハーゲン解釈の「なぜ波の収縮が起こるのか」と言うのも考えなくて良いわけですから辻褄は合うのです。だけど、主流派ではありません。


〇ボーム解釈

 波の性質を粒子の性質の両方を兼ね備えているのが量子だという考え方ですが、波と粒子を分けてしまったのがこの解釈です。つまり粒子が波のようにふるまっているのではなく、粒子が波に乗って移動していくと考えるのです。

 「この波ってなんだよ」ってなりますが、まあ、電磁場とか重力場みたいに何だか分からないけど、あるって仮定すれば上手い事説明できます的なやつだと思ってください。この波を「パイロット波」と言うのでボーム解釈の事を「パイロット波理論」なんて言い方もします。

 もうちょっと詳しく説明します。パイロット波というのは粒子が出す波の事で、粒子はこの波に乗って移動していると考えるのです。粒子の軌道は波の動きに沿って移動するので、到達地点は確率的にしか分かりません。

 おそらくですが、私たちが舵の利かないボートに乗って、波任せで2か所の通り道のある壁を通り抜けると二重スリット実験のような結果になると思っています。まあ、そのように実に私たちには受け入れやすい説なのですがどうも科学者の人たちには受けが悪いようです。

 まず、パイロット波ってなんだよっていう事ですね。場もそうですがパイロット波も実際には観測されていません。そんな怪しい物なんて信じられるわけがありません。電場とか磁場とかは素直に信じるのにパイロット波は信じないのもおかしな話ですが、まあそういう事です。

 それともう一つ。粒子が波に乗って移動するというのは簡単で直感的にすごく分かりやすそうですが、数式にすると半端なく難しいらしいのです。

 物理現象と言うのは法則性のあるもんですから、数式で表せないといけないんですが、それが難しいとなるとあまり好かれないんですかね。


 と、ここまで紹介してきた以外にもいろいろな解釈がありますし、もっと言うならコペンハーゲン解釈の中でも色々と主義主張があって一枚岩ではないようです。

 今回挙げた中での私の一押しはボーム解釈です。私の妄想に限りなく近いんですが、肝心のパイロット波を説明できないのは致命的です。そのパイロット波も含めて、私の妄想を聞いていただきます。

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