変身〜欲求〜(2)
※ ※ ※
どうして男の子に生まれて来てしまったのか?
もはや生まれ変わることでしか解決方法はないのか。
女の子になりたい——
こんな願いを母親に言えるわけがない。が、大人に訴えればもしかしたら……という期待が微かに海斗にはあった。そう思うのも勇気を持って打ち明けて問題が解決した事例が何度かあったからだ。
やはり大人は知らないことをたくさん知っている。だから、この願いもあの時のように勇気を持って言えば……それをピークに波は一気に急降下する。
さすがの子供でもこればかりは無理だとはわかっていた。
でも、だからといって諦めるわけではなかった。気持ちを落ち着かせるために今日も海斗は想像を膨らませる。
もしも、自分が女の子になれたらなにをしようかと……。
卑猥な事ばかりを考えていた。
海斗の当時の年齢で卑猥、という言葉はおそらく知らないだろうが客観的に見て、幼い子供が考えた事を考慮しても卑猥、という言葉しか適切な言葉は見当たらない。
女の子になった海斗は念願であるスカートを履いていた。
床に座り両足を大きく広げる。その間から見える白い布、ショーツを頭部を垂らして見つめていた。
自分のを見るぶんには誰からも文句は言われないはず——
海斗の下半身のある部分が盛り上がっていた。
こういうエッチな事を考えると決まってこの部分が大きくなると海斗はもう幼稚園生の時から知っている。理由は気になるが、これも親など大人に質問できる事ではないのであまり気にしない事にした。
海斗は悶える。自分が女の子になれさえすれば夢が叶うのにと。
相手が居ればそれにこしたことはないが無理なのもわかっている。
だから自分が……。
幼い頃に不意に観てしまったあの映像を反芻する。
子供と大人の境にいる女性が、拘束されてありとあらゆる部位を刺激させられていた。
それに涙を浮かべながら「やめてー」と懇願するも顔は悔しがるも笑っていた。脇腹をくすぐられていたからだ。
悪党共がさぁ、そろそろ衣服を……とよだれを垂らしていた時に、そこにヒーローが参上して女性は助かる。
が、海斗はその続きをずっと渇望していた。二十秒ほどで終わるこのシーンを何度も巻き戻しては再生していた。
(この続きを誰か……叶わないなら僕が……)
心の中にある女性を抱きしめて海斗は生きた。夜になれば彼女と戯れる。
我ながらにひどい事をしていると自覚はあるにはあるが、これは自分だ。構いはしなかった。
ある日——校内の踊り場で同じ学年の女子二人組から話しかけられる。
「海斗くんおはよう!」「おはよう!」
「……あぁ、おはよう」
朝の挨拶を交わすとその女子二人組はキャッキャッと騒ぎながら去っていく。
「なに。それだけで話しかけてきたの?」
海斗が女性の方から話けかられる時は大抵は事務的な用事だった。授業の共同でやる課題、学校行事など……。しかも今のは別クラスの女子だった。
「海斗くん。高校はどこに進学するの?」
教室前の廊下でまた話しかけられた。
「高校? あーえーっと推薦で行ける所にした。実は今日その面接なんだ。推薦出すかどうかの」
「えーそうなんだ。頑張ってね!」
これまで感じたことのない視線を浴びているような気がした。しかも異性を中心に。これは陰口ではない。むしろその逆の、好意的な……。
「海斗くん、進級してから急に背伸びたよね。それに……」
「女の子みたい」
今度は教室内で仲の良い男子と、そこに殆ど話したことのない女子が割って入ってきた。
「お、女の子……?」
「そうそう。こう言っちゃ悪いけど、目つきとか、顔立ちとか。痩せたからかな。後ろ姿を見たらショートヘアの女性って勘違いする人がいてもおかしくないかも」
「そんな。制服は男子なんだからそれは無いでしょ」
「いや、そうなんだけど、見てみれば分かるって。本人に見せるのは無理だけど」
自宅に帰り洗面台の鏡で自身の顔を見つめる海斗。
「こ、この顔は」
どことなく面影はあった。彼女に。
海斗は家に誰も居ないことをいいことに急いで着替えた。
無理して寄せたわけではない。自然な姿形で彼女はそこに居た。
必死で探した似た衣装。ふわりとスカートを回しながら回転する海斗。
だが、まだ不完全であった。胸を押さえて、男性器があることも確かめる。
「くっそー!」
海斗はうなだれる。あと一歩のところだったが、その中途半端さがまた彼を大きく傷つけた。
「所詮はここまでか」
海斗は気を紛らわそうと、自室で習慣にしている余興を実行する。
そこでは時おり笑い声と共に「やめてー」という声が囁かれていた。
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