観測者(6)

 想像していたものとは毛色が違う話が飛び出してきて俺は頭が混乱していた。いつの間にかこのおじさんが『死神』にしか見えなくなってしまっていた。だから全身が黒で覆われている格好なのか。だがどうやら代償、という単語でこの能力の負の部分があらわになるようであった。

「今までは無意識にこの能力を使っていたが、さすがに人間を間接的にとはいえ殺したとなるとこっちにも反動がくるのかもな。俺はその後まもなく、高校生活も終わりが近づいている時に原因不明の拒食症状に襲われた。昼休み、昼ご飯を食べようと弁当を取り出すがその弁当を見た途端に吐き気に襲われて俺はトイレに駆け込む。吐く事はなかったが昼休み中はずっとトイレに閉じこもってしまうくらいにひどいものだった。たまらず俺はその日は早退したが電車の中でも常に吐き気を我慢しながらで生きた心地がしなかった。そこから俺は体重を一気に十キロ近く落とす事になる。しかも一週間足らずでだぜ? どんなダイエットでもそんな短期間では無理な数字だ」

「一週間で十キロ……どんな生活を送ればそうなるんですか?」

「基本、水分しか受け付けなかった。それ以外だと辛うじて果物、みかん一個くらいなら口に入れられたかな。それ以上に辛かったのは症状が表れた最初の週は下痢のような症状で腹がずっと鳴っていて立ち続けるのもままならなかった。そこからは約一年間、療養生活を送る事になる。幸いに卒業後の進路も正直、周りが進学するから俺も適当に推薦で大学行くかくらいにしか思っていなかったから体を優先してなんとか高校だけは卒業して、その後はしばらく家の中で過ごしていた」

「やっぱりその能力も無闇やたらに使うと自身の命も削られるって事なんですね」

「俺もゆっくり考える時間はできて原因はこれしかないとそう思っていた。もう憎悪を溜め込んでそれを放つのを止めようと心に誓ったさ。だがこうなったのは使い方の問題だということにある日、気がついたんだ」

「使い方?」

「ここまでの話を聞けばわかると思うが、今まではを使っていたから体が蝕まれていたんだな」

「そうか! エネルギー源を自分に頼っていたからゆえの反動だったんですね!」

「そうだ。なんとか一年が経つ頃には症状も落ち着き始めから俺は社会復帰のための第一歩としてバイトを始めた。近所の喫茶店で働く事になったんだが久しぶりに外に出て大勢の人を見た時に先ず感じたのはが上がっていることだった」

「精度が上がっている?」

「この能力の精度だ。なぜだかはやはりわからない。長い年月、使い続けたから磨かれたくらいしか心当たりはない。他人が何を考えているのかより具体的に、手に取るように分かってしまうようになっていた。ここで俺は幼少期の事を思い出す。その頃、俺はどういう風に過ごしてた? 他人がって。いっとき忘れかけていた能力、漠然とぼやけていたものがくっきり鮮明に映し出されていた。漫画の吹き出しように文字がはっきり見えると言えば分かりやすいだろう。ここで俺はこの能力の全貌に迫る。むしろ今までは勘違いしてたくらいかもな」

「能力の全貌……エネルギー吸収、その後は……」

「おっ、整理すれば理解できるか?」

「……他人のエネルギーを吸収して、どんな質のエネルギーか解る、そしてそれを武器、時に他人を殺してしまえるくらいの武器にもできるって事ですね」

「うん、テストの問題なら完璧な答えだからボーナスポイントをあげたいくらいだな。そう、これは無条件で他人の心を読める能力ではない。人が微量でもエネルギーを湧き上がらせた時にそれを取り込み、解析できるって流れだ。バイト中、多くの客と接する、観察する機会があったから考えている事を読める時と読めない時の違いはなんだ? とそれを発見するには絶好の場所だったのでわりと直ぐに気づけたな。読めない奴は決まって無表情、無気力、ボーッとしたような表情の奴ばかりだった。下を向いて本を読んでいる人ですらその本に向かい合っているという僅かながらのエネルギーを感じたから、殆ど何も感じられないというのはよほどのことだと言っておく」

「ははっ、一体どんな人なんですか。しかし、なるほど。そこで使い方が分かってきたんですね」

「そうだな。俺は人の気持ちがわかると、自分から生まれた負のエネルギーを溜め込み他人を陥れる力を別個に、関連性はないものと思い込んでいたがこれはセットで使うべき能力だったんだ」

「そこまで判明するのに随分と時間がかかりましたね。もしかしたら場合によっては気づいていない人もたくさんいるんじゃないですか?」

「あぁ、それは俺も思っている。むしろそっちの方が圧倒的に多いなんじゃないかって思っているくらいだ。俺はたまたまそういう環境やきっかけがタイミングも良く揃っていただけだろうな」

 ここで話は切り替わる。次の本題はいよいよ……。

「僕は、僕はなんの力が備わっているというのでしょうか? 今のところ全く見当がつかないのですが」

「……お前を初めて見た時になんだか懐かしい気持ちがしたんだ」

「えっい、いきなりなんですか?」

「さっき高校時代、体調を崩して早退したって話をしただろう。帰りも電車の中でその苦しみに耐えながらの帰宅だった。その電車内で俺を心配して声をかけてくれた人がいたんだ。眼鏡をかけて、年齢的にまだ大学生くらいと若かったと思う。そう、お前とどこか似ていた。眼鏡もかけているしな」

「僕と?」

「それはあまり重要ではないんだが、その人の様子を見てどこか安心したんだ。この人は全ての事情を理解してくれている、それだけでなんとかこの局面を乗り越えて家に辿り着ける気がしてきた。ただ『大丈夫?』って言われただけなんだが心の中では『君もそうなのか』と言っているような気がした。いや、気がしたんじゃなくてそうなんだろうな。それが分かる能力なんだから」

「その話と僕と何か関係あるんですか」

というのも一種の能力かもしれない。この人にはなにか特別な能力が備わっている、それをというのも」

「……そういうことか……!」


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