観測者(4)

「ホラー映画とかは見たことあるか?」

 いきなり思わぬ質問だった。ホラー映画? なぜそんな質問が飛び出すのか、その真意は察せなかったがとりあえず俺は答える。

「好き好んでは観ないですね。リングの貞子は知っていますけど、実際にみた事はないんですよね」

「別に映画じゃなくてもいい。要は怖い話の一つは二つ、知っているかというのを聞きたい」

「怖い話……テレビゲームのSIRENだったらどういうストーリーかはなんとなく知っています。あれはガチで怖いし、難しいので上手い人のプレイ動画を見ただけなんですけど」

「やっぱり歳が開きすぎていると話が合わないな……まぁいい。そういう怖い話で大体は共通している部分ってなんだと思う?」

「怖い話の共通している部分……あっ、誰かの怨念が絡んでいるってことですか!」

「おぉ、大したもんだ。いきなり正解を言い当てた、そうだ。怖い話、幽霊とかが出てくる話っていうのは最後、行き着くのは人間の許す事ができない激しい恨みが根源にある。この場所でかつてこういう悲しい事件が起きて、その成仏できなかった人間が化けて人々を怖がらせる。大体の流れはそんなもんだろう」

「確かにそうですね。でも、それとおじさんの能力とどういう関係があるのですか?」

幽霊として化けるかどうかは置いておいて、人間には目に見えないが体の中に存在して、時にそれを多かれ少なかれ放出させているのは間違いないと俺は思っている、あくまで……」

俺はピンと来るものがあって話を切ってまで言ってしまった。

「そうか、そのエネルギーを吸収する力があるって事ですね!?」

「あ、あぁその通り。だから怖い話というのもあながち間違った事は言っていない。当然、何年、何十年も引きずるような恨みを持てばそんなエネルギーが生まれて来る。それを原動力にして人間は時に鬼と化し暴走するんだろう。そして例え体は失ってもそういうエネルギーは残留してさまよい、やがて具現化されて人の目に見える形になっても別に不思議な事ではないってことだ」

「もしかして、その具現化する事ができるのがおじさんってことですか?」

「なんだ、ずいぶん勘がいいな。そういう表現でも差し支えないと思う」

 人のエネルギーを吸収してそれを具現化する……! まるで召喚獣みたいな能力だ。しかもどこから来たのか分からないものでもない。ちゃんと確かに存在するという人間から出てくるエネルギーを使ってそれを生成させるという根拠がある。急にこのおじさんが黒魔道士にでも見えてきて憧れにも似た眼差しになる。この人はすごい人なんだと。

「じゃあ、さっき吸収した人のエネルギーも武器として使えるくらいすごいものだったんですか?」

「あぁ、さっきの奴は言うても大したことはない。ただ自分から人生を破滅させた奴が自分勝手に世間とやらに恨み辛みを延々と心の中で垂れ流していただけだからな」

「そういえばその人、倒れていましたけど大丈夫なんですか? まさかおじさんがそのエネルギーを吸収したから……」

「違う、違う。それは関係ない。俺が何にもしなくてもあいつはあの場で倒れていたよ。もう精神的に限界がきて歩くのも息をするのも嫌になったんだろうよ。たまに駅周辺で見るだろう? 隅っこで座り込んでいたり、寝っ転がっているホームレスみたいな奴らを」

「なるほど。それでその吸われた側の人はどうなるんですか? そのエネルギーが無くなってどんな影響を及ぼすのか……」

「それは知らん。俺も知りたいくらいだ」

「えぇ、そうなんですか!?」

「聞いてみればいいのかもしれないけど俺が対象にしているのって、さっきみたいなもうまともに会話できるのか怪しい奴らばっかりだから。確認する気にもならん。実はいうと別に俺はこの能力について研究をしているわけではないから、使えはするけど詳しくは知らない事もたくさんあるっていうのが正直なところだ」

 なんでも知っているはずだと勝手に思っていたけど、言われてみればそうかもしれない。使っている本人にもよく分かっていない部分はある。俺は次の質問に移った。

「じゃあ、なんでおじさんはそんな事をしてるのですか? 武器にできるって言っていましたけど誰か戦う相手でもいるんですか」

「それを話すと長くなるな。先ず俺がいつからこの能力に気がついたのか、そこから話した方がいいかもしれん。聞きたいか?」

「はい、長くなっても構いませんのでお願いします」

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