観測者(2)
勢いに任せて本当に出て行ってしまったものの、何か詫びの一言を幹事にあとでしないと宇佐美の連絡先も聞けないだろう。どんな理由が良いか? 上手い訳を地面とにらめっこしながら考える安原。
前方が不注意になっていた。そんな人にはお決まりで歩行を妨げる障害物へと一直線に進んでしまう。
しゃがみ込んでいる一人の女性。何もなかった地面にいきなり塊が飛来してきてと思った安原は身が仰反る。
もう少しでぶつかりそうになるがなんとか曲がりくねってかわす。広い歩道とはいえ道の真ん中でしゃがむなんて危ないと思うも、いつもだったら多少の異変を目撃しても気にも留めずそのまま気を取り直して突き進むが……またやって来た。あの、あれをキャッチした感覚が。
ついさっきも同じものを感じたのだから間違えるはずはないと確信めいたものもあった。安原は振り返る。そこにはあのしゃがみ込んでいる女性が居た。
顔は下を向いて隠れているが年齢は服装からして若いとは判断できる。自分と同じくらいか。
それにしても体調が悪いのであろうか? なら親切な人であれば声をかけても別に変ではない。が、安原は異性と話すのに慣れてはいない。ましてや、たまたまた街中で遭遇した赤の他人に話しかけるなど夢でもしないかもしれない。
ためらい、欲求にしたがって行動できない歯がゆさからまた歯と歯を擦りギシギシ音を立てる。こうして立ち止まってその女性をじっと見ているとこのシグナルの強さと言うのか、その強さがあの時と合致しているかもしれないと気がついた。
という事はこの女性、いま何かの力を発揮しているのか? そこまで推測がつくと声をかける勇気がふつふつとわいてきた。これを原動力に背中を押してもらい、また勢いに任せていけばい良い。その後はどうにでもなれだ——
安原をその一歩を踏み出して女性に近づきながら声をかける。
「お嬢さん、大丈夫ですか?」
お前は誰だと自分で自分をツッコミたくなった。お嬢さん、とは一体どこから出てきたのか。テレビドラマの見過ぎか。いやテレビなどここしばらく滅多なことで観なくなったが見知らぬ女性に話しかける
反応はしてくれた。顔を上げて声の主を確認する女性。化粧は薄くやや地味であるものの、なんでも受け止めてくれる抱擁力のありそうな顔立ちに安原はドキっとしてしまう。
こういうアニメだとメインヒロインになりそうなスタンダードとでもいう女性とはここまで接触機会がなかった安原。ここからは未知の領域へと突入する。
「ずっと、座り込んでいたのを見て、気になって声をかけたのですけど……」
もう一言、欲しいところと思ったが続かなかった、数秒の間ができる。
「あっ、ご親切にどうも。まだちょっと苦しいですけど、もう少し時間が経てば良くなると思います」
不審人物、ナンパ男などと思われず女性はすんなり受け入れてくれた事に密かに感動した安原。見た目通りに誰にでも親切な人なのだろうと、こんな女性にこそ幸せになってほしいと猛烈に絶賛したくなった。
それで心がほぐれたのか、この人であれば唐突で怪しい質問をしても真摯に答えてくれるはずと肩の荷が軽くなる。安原は意を決する。
「そうですか。あまり深刻でないならよかった。あの、何をしたからとか、原因は分かっているのですか?」
「原因……う〜ん、どうだろう。申し訳ないですけど言ってもちょっと分からないかもしれませんね。あまりにも個人的な事なので」
「個人的な事……つかぬことを伺いますが最近、何か変わった事があったりしましたか?」
「えっ、変わったこと? それってどういう意味ですか」
「こんな事を聞くと、僕のことを変な人と思うかもしれませんが決して変な意図はなく一応、真面目に聞いているんです。変な事……例えばいきなり奇妙な現象に遭遇したとか。周りの人が普通とは違って見えたり、自分にしか聞こえない声が聞こえてくるとか、そういう超常現象の
「……なんでそんな事を聞くのですか?」
手応えありであった。彼女の顔を見て頷きたくなる。
「あなたはある程度、理解している前提で話しますよ。実は僕には見抜く力があるんですよ。超能力とでも言うべき力を持っている人、それは誰なのかを見抜く力が」
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