第210話 残された手段

 「↑」の形に兵を配する鋒矢(ほうし)隊形。


 距離のあった一洸機の術式を破壊した彗星のような巨大光弾。


 私は一洸さんへ向かう光弾の方向をそらすべく、巨大な鏃をぶつけるイメージで、陣形を組んだ。



“全機構えっ、 撃て―!”


 鏃の先頭に位置する私は、チームのみんなが放つ金剛鏃を横目に、盛大に撃ち放った。



“全機に告ぐ、一洸さんの情報よ…… 光弾は精神波を読み取って矛先をかわしてくるわ、動きを読まれると同時に電磁衝撃波で動作を止められる、無暗に近づかない方がいい”



 サーラさんだ。


 一洸さん、無事……


 そう、よかった。

 よかったわ……


 でも、あの人が一洸さんを助けたの?

 ミーコちゃんでもなく、レイラでもなく、サーラさんが……


 助けるのは当然よ、頭領なんだもの。

 わたしの今やるべきことは…… あの人の目の前にいてあげることじゃない。



 一洸さんが生きてる……

 そうよ、嘘つくはずないし、つかなきゃいけない理由もないわ。


 電磁衝撃波、あの人の閾影鏡を壊した攻撃。



“みんなっ、聴いた通りよ、彗星から離れて!”



 わたしが指示を送った瞬間、バリバリっと痺れるような衝撃波が放たれるのが見えた。


 確かにそれは、数多く展開したバトラーを纏めて行動不要にするために、盛大に放たれた死の衝撃。


 まともにあたれば、多分死んでいる。

 私の後衛にいた数機が動きを止めた。


 衝撃波は最大限の効果をだすために、中心にいた私をそらして、後衛にいた多勢を覆うように放たれた。



“アール! 一洸さんを収容して外界時間停止を最優先して! 現状の私たちじゃ、あの彗星を防ぐのは無理!”



 一洸さんが戻れば、すぐ出てくる。

 時間停止している間、必ず対策は出来上がっているはず。


 こちらに気をそらしている間よ、今私のできることはやったわ。

 一洸さん、私まだ死にたくない。


 だって……



    ◇     ◇     ◇



 オレはサーラの機体に同乗して、ポータルまで移動した。

 曳航しているオレの機体は、外観上は無傷だ。


 ポータルの魂意鋲の前に立った時、サーラが手を添えてくれたので、オレと機体は保管域に戻ることができた。


 立っていることのできないオレは、戻ったと同時に、ネフィラに抱えられながら、静かに横たわる。


 オレの目を見て、何をしようとしているのか理解してくれたネフィラは、抱えながら手を添えて、時間外停止実行するのを助けてくれた。


 オレは、動かすことのできない身体を横たえてもらう。




 天使の翼が見えた。



「よぉーし、みんなどいてくれ」


 目を開けているのがやっとなオレに、リロメラの声が聞こえる。


 あとどのくらいの手段が残されているんだろう。

 限られた時間、有効とされる魔法による迎撃……



 リロメラの光がオレを覆っていく。



 これは……


 ミーコの光とはやはり違うな。



 こんな感じになるのか。



 まるで細胞の隅々まで何か別の力が行き渡って、強制的に火で炙られているような感じだ。

 暖かいというより、ヒリヒリするような、なんともいえない光の触手。


 ここにいるのは、ネフィラ、サーラ、そしてリロメラ。

 カミオは出てしまったのだろう。



 もう一度、“閾影鏡”を展開したとしよう。

 だが、あの彗星の前に躍り出るわけにはいかない。


 とすれば……



 リロメラが治癒術を終えて、降りてきた。


「具合はどうだ? ミーコのとは全然ちがうだろ」


 まるで感想を聞くのが楽しみでしかたないといった感じだ。



「ありがとう…… 確かに、ミーコのとは違うよ。

回復効果は抜群だ」




 オレは軽く深呼吸する。

 この今しばらくの猶予、より慎重に動かねばならない。


 次の迎撃ポイント、散ってしまった彼らを集めている時間はない。

 それに、現状ではこの自分すら攻撃手段にならない。




“アール、ミーコの機体は現時点でどの辺りにいる?”


“光弾の進行方向の直線上、丁度次のポータルへの接近ポイントに近い辺りだ”



 そうか。



 オレはネフィラに向き直った。



「ミーコの光魔法、アンナやレイラの土・石を纏め上げる力を持っていましたよね」


「ええ、光の粒子で抑えつけながら方向を導いていく、少し強引なものだけど……」



「あの力、アールの量子魚雷でも纏められますかね?

オレの閾影鏡で拡大された量子魚雷を光魔法で覆ってあの彗星光弾にぶつけるんです」


 ネフィラはすぐに声をださずに、かるくうつむいてしまった。



 まずい。



 想定以上の危険がある、というわけか。



「ミーコちゃんの魔法、拡大されたアールの量子魚雷を覆いきるほどの力がだせるかどうか、私にはわからないわ。

でも、今考えられるのは、そのあたりしかないわよね」



「私の焔で巻くこともできる、光ほどの親和性はないかもしれないが」



 サーラがそう言ってくれて、オレは素直に嬉しかった。


「ありがとう、この絵を仕上げる上で、君の力も借りることになる」



 オレはアール、ネフィラ、サーラ、リロメラを前に、外界時間停止をした保管域で、今とれる数少ない迎撃手段を仕上げるべく、準備を進めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る