第209話 焔と額

 だめだ、全く操作できない。


 自由がきかない、手も動かせない、完全に声が出ないのだ。


 コミュニケータに向かってありったけの思念を送るが、どういうわけか“意思”をキャッチしてくれない。



 故障…… それならいいが、ひょっとしたらオレ自体の問題で、それすら適わなくなっている事もありえる。



 オレは目をつぶった。



 気を失ってくれれば、無意識層の“魂意鋲”にアクセスし、ネフィラに近い状態で転移できるかもしれない。

 だが自発的に失神する方法など、勿論マスターしているわけではない。



 こんなにも脆いものなのか……



 かろうじて開けることができた瞼から見たスクリーンには、ラウンドバトラーの群れが、巨大彗星のごとき大きさの光弾に向かっている。


 せめてみんなに伝えれられれば。

 オレはミーコを想った。


 あの中にミーコがいる。



 未だその全容を知ることも出来ず、描くことのできない未来の中にいる、大切な家族、そして……


 その時、ミーコを後ろから抱きしめているときに感じた体温を感じたような気がした。



 熱い。



 何かがオレの周りにあって、それがとてつもない力を奮っている。

 錯覚ではない、これは……




 その時、ハッチが開いた。

 これを開けられるのは、中にいるオレか、アールだけのはず。


 焔が流れ込んでくる…… いや、あれは。



「一洸さん!」



 サーラ。


 サーラなのか? 



「……一洸さん、生きてますか?」



 サーラは、ノーマルスーツごしにオレを抱きかかえて、生存を確認している。

 オレは声を出せずに、ただ開いた目を向けるだけだ。



「……っ」



 だめだ、やはり声がでない。


 サーラはハッチを閉めると、オレのヘルメットをシールドアウト、自分のヘルメットもオープンした。


 彼女は自分の額をオレの額に重ねてくる。

 熱い、かと思ったが、それは普通の人間の体温と変わらなかった。



“一洸さん…… 私の声が聞こえますか?”



 聞こえた、確かにサーラの声だ。

 君はこんなこともできるのか。



“サーラ、聞こえてるよ。

声がでないんだ…… 体の自由が全く効かない”


“そのままじっとしていて。

次元窓は開けられる?”


“いや、多分無理だ……。

みんなを、みんなを止めなきゃ……

あいつの電磁攻撃は、身体の自由が奪われる、あいつに近づいちゃだめだ”


“わかったわ、みんなに知らせる”



 サーラは一斉通信で、全ラウンドバトラーに通信している。

 間に合えばいいが。


 モニターを見るオレを支えてくれているサーラ。


 辛うじて見えるモニター、まるで米粒のような機体一つ一つが、動きを止め始めている。



 みんな……


 頼む、生きていてくれ。

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