第208話 術式破壊

 俺は見切った。


 あの光弾、ただのエネルギーじゃねぇ…… まるで生きていやがるみたいだった。

 ど真ん中、中心の核を狙ったが、奴は微妙に避けやがった。


 そうだ、俺の考えを読んだみたいに、正面からの被弾をかわしやがったんだ。


 ちっ、羽をやられたか。



“リロメラ、大丈夫そうかい?”


 俺の機体をカバーするみたいに飛んでくれてる、そうだ、カミオだ。


“おぅ、もちろんなんでもねぇ…… あの光玉よぉ、おめぇも近くで見たよな?”



“ああ、大した迫力だったよね。

それなりの手ごたえはあったみたいだねリロメラ”


“おうょ、あいつは生きてやがる、一洸に知らせねぇと……

完全にぶち壊せなかった片割れ、あいつの中にはまだ“核”が残ってる”


 俺はカミオに支えられてる状態だ、いつもみたいに飛べねぇ。



“一洸…… 聞こえるか”


“リロメラ、無事でよかった。

ポータルで回収するよ”


“気をつけろ、あいつは生きてる、あの中によ、まるで生きてるみたいな“核”があるんだ、そいつに精神を読まれてるみたいに動きを悟られる”



 一洸はしばらく黙っていたが、衛星が目の前だった。


 言うことを告げて、俺は気を失った。



    ◇     ◇     ◇



 ポータルS-067号機に転移したオレは、カミオと片翼を失ったリロメラを保管域へ転移させた。


 作業中、アールが伝えてくる。


“一洸、分岐した光弾はルートを大きくそれて、惑星の周回軌道に入っている。

降下軌道に入るポイントは、周回軌道上のどこにでも可能だ……

こちらから先手で迎え撃つしかないだろう”



“了解、時間的余裕はどのくらいだ?”


“時間停止せずに予想すると、直近の会敵ポイントまでは17分だ”



 オレは外界時間停止をして、全ての動きを止めた。




 バトラーの中のリロメラは気を失っていた。

 というより、自分の光力を使い果たしてしまったのだろう。



 機体の前に横たえられたリロメラに、ミーコが走り寄ってきて光を充て始めた。


 カミオも充てるのかと思ったが、ミーコの気迫というか、自分でやってみる感を察して、敢えて手をださないでいるようだ。


 治癒に集中しているミーコは、真剣そのもの。



 その顔に魅力を感じずにはいられなかった。


 大人になったなミーコ……




 オレは4Dスクリーンの前に立ち、直近の降下ポイントの予想コースを見ていた。


“時間停止したまま、次の予想ポイントの一つ前にあるS-082に転移、すぐさま閾影鏡を発動して迎え撃つ、これが現状のプランとしては最適だ”


 スクリーンを見つめながら言った。


“さっきリロメラから聞いた内容、アールも聞いていたよな……

あの光弾、精神感応力みたいなもので、敵の思考を先読みし、焦点をずらすようなことをするみたいなんだ。

対策するとしたら、どうすべきかな?”



 アールはしばらく声を発しなかったが、抑揚のない調子で言った。


“もし私が一洸の立場なら…… 自分の影を使うかな”


 やはりそうか。



“影は、幾つかあった方がいいのかな?”


“本体とは別に、もう一つでいいだろう。

目的は分散攻撃ではなく、対象への攪乱だ”



 オレはこれから起こりえる絵をまとめた。



 危険を担ってもらう人たち……


 ミーコを見た。



 リロメラを抱き起しているミーコ、力のチャージは上手くいったようだ。

 カミオがオレの方を見て、小さく頷いている。


 オレは意を決して、次の動きに入った。



 ポータルS-082へ転移したオレは、次元窓を全開放。

 まだ小さな光点でしかないエネルギー体を迎え撃つべく、“閾影鏡”を発動した。



 宇宙空間に咲いた、見えない巨大な円。


 バトラーの手を上下に広げ、いつものように時計の針を回す如く手は6時の状態に落ち着く。



“閾影鏡発動!”



 ぼうっん、という空間の振動とともに、16の影から発動させる闇魔法は、数十の暴威を纏め上げ始める。



 この数の個別魔素の集中である、初めての経験だ。



 オレは、自分の発した闇魔法によって集められている力の膨大さに、軽く怯えていた。



 背後から魔素が集まっているのを感じているその時、強烈なバリバリっという音とともに、オレの機体はまるで雷に打たれた様に姿勢を壊される。



 術式が破壊された。



 全身が痺れて動けない……

 やはりそう簡単には終わらせてくれないか。



“おにいちゃんっ!”


 ミーコの声が聞こえる……

 オレは言葉を返せない、声がでないのだ。



“一洸、電磁攻撃だ、術式が破壊された”


 アールが言ってる…… そうか、壊されたか……

 みんな…… すまない、オレは……



“一洸さん、今行きます!”


 やっと目を開けてスクリーンが見せてくれたのは、次元窓から一斉に飛び出してくるラウンドバトラーの群れだった。


“みんな…… 出てきちゃだめだ……”



 オレがそう言った言葉がみんなに伝わったかどうか、オレにはわからなかった。

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