第207話 過去から背負うもの
“一洸、S-067号機が直近だ、光弾の正確なサイズはまだわからない。
この速度で進んだ場合での、惑星降下軌道到達時間は720秒…… 12分後だ”
アールはまるでぶつけるように伝達してきた。
オレは、特異点センサー衛星S-067号機の魂意鋲を呼び出し、次元窓を最大解放すべく手を大きく広げる。
「一洸、外の時間を止めてくれ!」
リロメラが次元窓を開ける寸前に叫ぶ。
その声は、何か思うところのあるリロメラから発せられる時のそれであった。
オレは咄嗟に外界時間停止をする。
そんなオレの動作を横目に、バトラー戦士たちは次々に機体へと乗り込んでいる。
4Dスクリーンには光弾の実像は捉えられていず、ただの光点の状態である。
「あの連中の光玉…… まず、俺にやらせてくれねぇか。
正面に躍り出て、俺がぶちかます。
ぶっ飛ばせなかった時は、お前らで片付けてくれ」
「リロメラ…… どうして急に」
リロメラの翼からは、漲った光の粒子が溢れ出てきている。
「試させてくれ…… 俺の力…… 単独でどこまでやれるのか、どうしても確認する必要があるんだ。
このバトラーの増幅機能をフルに使って放った俺の力、知っておく必要がある」
リロメラの目からは、熱意と、懺悔と、そして焦りのようなものを感じた。
オレと目を合わせる表情から最後に見てとれたのは、信頼に近かったかもしれない。
「リロメラ、あなたの気持ちはわかるけど、とっても危険なのよ」
「だからだよネフィラ」
リロメラの願いの底にある、それまで現さなかった思いが、今ネフィラへ明かされた。
「なぁ一洸…… お前の閾影鏡なら絶対やれるぜ!
この連中の力を全部合わせるんだ、やれないはずはねぇ!
だからよ、その前に俺に前座をとらせてくれよ」
「あの光弾、恐らくは魔法の性質を持っているんだが、リロメラの放つ光とは、拮抗する力が」
「それを試したいんだ、お前らがやる前によ」
オレはネフィラを見た。
ネフィラは、それまで思っていた心のうちを明かすように話始める。
「リロメラ、あなたの力はたしかに魔素によるものじゃないわ。
だから、私にとっても未知数のものなの。
治癒力として用いた場合、周波数というか、波動の違いで効力にも著しい差があるわ。
カミオさんやミーコちゃん、アイラとも違う、全く別次元の力といっても過言じゃない。
なにより、この世界の光じゃないのよ」
リロメラは、フッと笑った。
「心配すんなって。
俺ぁよ、このバトラーを使って、俺の“使命”を果たさなくちゃなんねぇ。
そのためには、今一洸に死なれちゃ困るし、俺ももっと強くなんなくちゃいけねぇ。
見ててくれよ、俺のここ一番をよ」
その先のこと、か。
元いた世界に戻って、この異世界の天使は自分を異世界に飛ばした“神”と戦わなければならない。
この程度のエネルギー体を破壊できなければ、到底見込みはないだろう、ということなんだろう。
オレが抱えているものとは違うが、リロメラも戦っているのだ、過去から背負わされている“影”に。
オレはアールに話そうとして、コミュニケータに手を伸ばす寸前、アールが話しかけてきた。
“状況的な余裕はあるはずだ…… 一洸がよければリロメラに先陣をきってもらっても問題はない”
オレはネフィラを見たが、彼女は“しょうがないわね……”といった風で、軽く肩の力を抜いて見せる。
満面の笑みではないその眼は笑っていなかった。
「俺一機で行く、見ててくれ」
「いいなリロメラ、開けるよ」
「おぅ」
オレは外界時間停止を解除して次元窓を開けると、リロメラの白銀の機体は勢いよく飛び出していく。
瞬く間に光点となったそれは、窓からは見えなくなる。
4Dスクリーンに分割表示されるリロメラ機は光の粒子を撒きながら進んでいる。
スクリーンの広域表示に、光弾との会敵時間が表示され、カウンターは32秒からどんどん下がっている。
リロメラの機体が停止した。
機体からの映像を見せる4Dスクリーン、眼前に迫りくる巨大光弾を映し出している。
“それじゃあ、派手にやるか…… あとは頼んだぜ”
縁起でもないセリフだが、リロメラが言うと不自然に聞こえないし、不安もない。
言葉とは不思議なものだ。
オレは何も返さず、ただこの天使の気遣いに、運命を任せてみることにした。
リロメラの後をカバーできるよう、いつでも全機発進できる体制にはなっているし、オレ自身もそうだ。
異世界天使の駆る、アール特製の白銀のラウンドバトラーが、眩いばかりの翼を全開にし、まるで宇宙空間の光を集積するかのごとく細かく震えている。
コミュニケータは反応していない、だがリロメラの“声”が聞こえたような気がした。
天使の放つ、正視できないほどの“光の束”は、まるで生き物のように、破壊のための悪意たる光の暴力に向かって直撃した。
オレは目を守るためもあったが、とても見つめ続けることが出来ずに、スクリーンの動きを注視した。
光弾は二つに分散し、その一つが向きをそらしてリロメラに向かっている。
“リロメラ、避けるんだ!”
オレは咄嗟に叫んでいたが、リロメラの機体は、分かれた光弾にのまれていく。
“一洸、ぼくが出る、後を頼む”
続けざまに動いてくれたのはカミオだった。
オレがお願いしますを言う間もなく、カミオの機体は次元窓を飛び出し、リロメラの救出に向かう。
“リロメラ、光を粒子にして自分を覆うようにするんだ、君ならできる”
アールがリロメラに伝達している。
その瞬間、光弾にのまれようとしているリロメラの機体が、眩く光ったような気がした。
「大丈夫よ…… あの子の力があの光弾を分断したんだもの。
同じ効力のはずよ…… 間に合えばいいけど」
そういったネフィラの顔は、いつものやってはいけない笑顔ではない。
リロメラを信じよう、その気持ちは変わっていない。
オレはただスクリーンを見つめるしかなかった。
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