第206話 警報
“一洸、こちら側の配備は完了したわ”
エイミーから通信が入った。
連邦には、惑星の外周軌道上に数機のバトラー揚陸艇を待機してもらっている。
こちらの警備案がある以上、彼らの協力はそれほど重いものにはならないが、恐らくはデータ収集のためだろう。
オレは、彼らの動きたいままにしておくことにした。
“今回、私たちが出来ることはほとんどないと思うけど…… あまり危険な賭けにはでないでね。
こう言っては何だけど、私たちにとって、あなたたちも、この惑星も重要な存在なのは変わらない”
わかってますとも。
そんなことを言わせたいわけではなかったが、オレも含めた人類の背負わされている運命、他人事じゃないわけだし。
オレがエイミーと話しているときでも、アンナはオレの手を握ったままだった。
反対側に寄り添うようにレイラがスクリーンを見つめている。
惑星の外周に配置された特異点衛星は、完璧な等間隔で惑星を囲っていた。
◇ ◇ ◇
あたしはおにいちゃんの手を握ったままのアンナちゃんと、手は握ってないけど寄り添うようにしているレイラちゃんを見つめている。
まるで身体に力が入らない。
どうしたんだろう、おにいちゃんがアンナちゃんと手をつないでたら、ちょっと前までのあたしだったらすごくイライラしたのに、今はまるでなんでもない風景を見るみたいになってる。
ネフィラ先生が、あたしの肩に手をあてた。
ふわっとするような、魔素のいい感じが伝わってくる。
先生の気持ちというか、少し不安な感じまで、あたしの肩を通して感じられた。
「……ネフィラ先生、あたし、おにいちゃんを守れるかなぁ。
光魔法って、同じようでいて、使い手によって違うみたい。
あたしの出す光って、カミオさんのとも、アイラさんのとも…… リロメラのとも違う」
ネフィラ先生から伝わってくる魔素が、少し変化した。
それまでより暖かくなったようだ。
「そう、とってもいいことに気づいたわね。
魔法って、魔素を取り込んで発動する時は、発動者によって様々な“色”を持つものなの。
それが同じ属性でも違いとなって現れるわ。
ネガティブな気持ちで発動した場合は、そんな色になるし、愛する人を守るために発動する時は、それはそれは眩しいものになるのよ」
あたしは、“愛”の話をしているネフィラ先生の魔素を感じた。
すごく暖かい、それでいて優しい、まるで全身がマッサージされるような感じ……
あたしはこの感じ、ずっと前に感じた気がした。
いつだったんだろう、思い出そうとしたけど、どうしても浮かんでこない。
「ミーコちゃん、“愛”を感じた時の波動、思い出すべき時がきたら、きっと思い出すし、あなたも使えるわよ」
ネフィラ先生は、まるであたしの頭の中がわかるみたいに話した。
手の感じが変わった。
バラムさんが、ネフィラ先生の隣に立った。
いつの間にきたんだろう。
ネフィラ先生の、そこはかとない緊張が伝わってくる。
やっぱり、先生もこの人苦手なのかな……
「……バラムさん、何か言いたそうね?」
ネフィラ先生は、バラムさんの横顔にそう言った。
「私は…… 私は一洸様に、もっと自身を案じて欲しいのです。
あの方はご自分の役割をわかっておいでだ。
それは痛いほど伝わってくる…… でも、今回のこれはあまりにも危険です」
バラムさんはスクリーンを見つめている、おにいちゃんの後ろ姿を見ながら呟くように言った。
ネフィラ先生は、バラムさんに優しい表情のまま返す。
「バラムさん、あなたがあの人を助けてあげて。
一洸さんも、あなたを信頼してるわ、わたしはよくわかる」
バラムさんは、少し目を細めて、おにいちゃんの後ろ姿を見つめ続けている。
少し離れたところ、強い視線があった。
サーラさんだ。
ここからでも、あの人の熱気が伝わってきそうな、強い視線……
でも、不思議と敵意は感じなかった。
何を思ってるんだろう。
今のあたしには難しいな。
あたしはおにいちゃんの後ろ姿を、改めて見つめた。
アンナちゃんに手を握られたおにいちゃん。
なんとなく、お似合いだな。
二人を見つめる時の胸の中にすごく暖かい感じがして、今までのあたしにはなかった感覚。
あたし、どうしちゃったんだろう……
ウィーン、ウィーン……
警報だ。
おにいちゃん、誰かと通信してる。
あたしは急いで自分の機体に向かった。
おにいちゃん……
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