第204話 ため息の間に

 閾影鏡。


 とてつもなく巨大な“魔力放射用拡大レンズ”。


 以前、保管域から何度も射出し、保管域内でも治癒光を拡大照射するために使った。

 それは対象が安定した場合、もしくは移動しない場合だ。


 今回の場合は、特異点センサーに感知されたポイント近くに出現した巨大なエネルギー光弾の近くに転移、高速移動する対象を排除しなければならない。


 まず外宇宙に出て、殲滅ポイントから方向転換、吸収、消去、破壊のいずれかだ。

 背後からメインで照射する射手達は、次元窓からの魔力放出でかまわない。


 だが、対象の前にでなければならないのはオレ自身だ。



 ネフィラの表情は、疑うことのない危険を物語っている。



 オレは立場を逆にして考えてみた。

 もし、ミーコがオレの立場だったら……



 ダメだ、絶対にない、この話はないな。

 でもオレはミーコじゃないし、ミーコや、今いる星に住む仲間たちを守らなければならない。


 なんのために?

 義理なんてたいしてないはずだし、それに……

 後付けで生まれた義侠心、正義心、か。


 違うな。


 少なくとも、ミーコが住むための場所、新しい命と形を得た彼女の、二つ目の故郷を守るため。


 アンナやレイラ、他のみんなの住む場所を守るため。


 ミーコの時間と…… 隣にいるであろう、オレの居場所を守るためだ。



    ◇     ◇     ◇



 突然感じた、強い圧迫感……

 その後に襲ってきた衝撃波と低い地鳴り。



 この近く? そう、そんなに遠くはないかも。


 私は今本屋にいる、一洸さんたちと何度もきたフーガの書店。


 保管域に戻るまで、約束の時間まではまだ間があったけど、まず一洸さんに連絡すべきよね。



 私は書店を出ると、裏道に入ってコミュニケータに触れた。


“一洸さん、アンナです……”



 応答はない。


 ミーコちゃんと一緒なはず、そうよね。



“ミーコちゃん、アンナよ……”



 何かあったのね。


 私はすぐアールに連絡する。

 いつもすぐに応答するアール、今回はすぐには繋がらなかった。



“アール? 今凄い衝撃波を感じたんだけど。

一洸さんと連絡がとれないの、現状はわかる?”


“衝撃波だが、この星にエネルギー弾が墜とされたようだ。

一洸との連絡はまだつかないが、反応があるので生きているのは間違いない”



 生きてるに決まってるじゃない。


 ということは、今困ってる状況か。



 どの辺りにいいるんだろう……


 一洸さんとミーコちゃんの時間、一緒の場所なんて、私の知るところじゃないわよね。


 私は言いながら、自分で首を振った。

 そうしないと、自分が暴走してしまいそう……


 相変わらずダメな女。



 んもぅ、今そんなこと考えてる場合じゃないわ。


 私はレイラに連絡した。



“レイラ、アンナよ。

あの衝撃波、感じたと思うけど、一洸さんと連絡がとれないの。

今どこ?”


“……あ、わたしも連絡したんだけど、繋がらなかった。

私、洋服見てから引き揚げてもらおうと思って”


 この近くにいるのね。



 その時、一洸さんから通信が入った!



“一洸さん、あの…… 大丈夫ですか?”


“アンナ、馬酔木館の裏に集合してくれ、戻してから説明する”



 すぐに連絡があるってことは……

 そっか、時間を止めて何か準備してたのね。


 プランを練る時は、私を隣に置いといてよ。

 あなただけじゃ、また自分だけリスクを負いまくった、ダメダメプランになるんだから。


 私はそんなことを思いながらも、心から安心してる自分に気づいていた。



 この安堵感、あなたにはわからないでしょうね。

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