第203話 危険な賭け
ゴーテナス帝国の中心地からは離れた、南部にあるネクロノイド討伐の現場。
カミオはサーラ、イリーナとともに、ネクロノイドの後処理を済ませたタイミングで、膨大なエネルギー波を感知する。
この場所からは離れているが、それほど遠い場所ではない。
“今のは何?”
バトラーのスクリーンに映し出されたサーラの表情は険しい。
カミオはスクリーン上のスキャナーの反応を見るが、衝撃波の表示があるだけで、詳細は表示されていない。
“ここからだと相当な距離があります…… 一洸さんに確認してみましょうか?”
イリーナが珍しく不安気な状態を隠さずに言ってくる。
カミオは少し間をおくと、二人に伝えた。
“ぼくから一洸に連絡してみる”
普段からよほどのことがない限りは使わないものだが、カミオは一洸に繋いだ。
接続不可。
おかしい。
アールに繋いでみた。
“今ゴーテナス南部のネクロノイド処理現場近くにいるんだが、衝撃波を感知した。
一洸に通信できないようだが、何かあったのかい?”
“原因は不明だが、この星の外側から巨大なエネルギー波が落ちてきたようだ……
さきほどから一洸に連絡を試みているが、現状は繋がらない。
生体反応はあるので無事なのはわかるが、何かの事情で通信できないと思われる”
アールは間髪を入れず返答してくる。
“了解した。
こちらから何かできることはあるかな?”
“一洸と連絡がついたら協力を頼むかもしれない、そのつもりでお願いする”
アールとの通信はそれほど数があるわけではないが、抑揚のない調子からも、少し焦っている感じを受けた。
“サーラ、イリーナ、聞いた通りだ。
後片付けをすませつつ、次の動きに備えよう”
カミオは、衝撃波のあった方向を眺める。
そこはフーガの市街地からは離れた森の中であったが、自分たちのパーティが過去何度も仕事をした愛着のある場所でもあった。
一洸、今度はぼくが力を貸す番だ、カミオは誰に聞かせるでもなく、小さく呟いた。
◇ ◇ ◇
オレは仕上げた絵をアールとネフィラに見せた。
必要なものは手の中にあるが、実効性の部分で勿論未知のものだ。
ネフィラは黙っている。
ということは、彼女もまたこの案の実現性が見えていないということか。
「閾影鏡を展開する部分では…… その、星の外側の、宇宙空間で実施するのは可能だし、もう既に成功済みよね。
ただこれだけ範囲を広げて、ポイント毎のバトラー要員たちが思い通りに動けるか、未知数ね。
何かあった時のカバー、転移能力のあるあなただけなのよ……」
もっともな意見だった。
むしろ、はっきりと言ってくれた方が有難い。
“エネルギー波を粉砕、もしくは魔法力にて拮抗させる部分では不可能ではないだろう。
ただ今回感知した衝撃波のレベルで、という話だ。
もし威力が倍加されたり桁外れだった場合、このプランは致命的だ。
“閾影鏡”を展開している一洸、及び魔法を発動している当事者が、光弾に負けてしまうこともあり得る”
危険はもとより、承知の上だ。
今バトラーを使って考えられる対策としては、オレが考えられるものはここまで。
そうか……
ポイントに配置しなくても、“魂意鋲”の移動ポイントだけ確保しておけばいいのか。
なぜ気づかかなかったのか。
オレは特異点センサーで感知できうる予想可能なポイントの数だけ、“魂意鋲”を打った衛星を軌道上の出現予想空間にばら撒き、光弾が出現したタイミングで近いポイントから反撃するプランを明かした。
これなら極力危険を回避できる。
“いいかもしれない、何よりリスクがほとんどない。
ただ少し時間が欲しい、衛星を作らねばならないのでね”
アールのそのセリフに、ネフィラも表情を和らげた。
だが、いつもの完全な笑みではない。
「“閾影鏡”を展開するのよ…… ここからではなく、外宇宙に出てから魔法を放つことになるわ。
リスクは減るけど…… あなたが危険なのは変わらない」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます