第202話 必要な余裕

 保管域に戻ったオレは、まず外界時間停止をした。

 これで通信はできなくなるが、とりあえず状況は動かない。


 ミーコは珍しくべったりとせずに、オレの動きを軽くしてくれている。


 そんな彼女を横に、オレはアールから状況を確認する。



 もはや指令室然としている巨大な4Dスクリーンの前にはネフィラがいた。


“亜空間からのランダムなエネルギー照射だ。

物理デバイスを用いたものではないので、ネクスターナルも手こずっている”


 オレはこの場合に出来ることをとにかく確認しようと思った。


“その…… 亜空間からの攻撃って、どうやって察知するんだ?

宇宙空間で防ぎきる方法とか、あるのかな”


 しばしの沈黙があった。

 だがそれは一瞬で、すぐにアールは応えてくる。


“宇宙空間であるとは限らない…… が、高位知性種にとっては障害物のない空間に特異点を発生させる方が、都合がいいようだ。

あくまで現在までのエネルギー光弾発生の経過から判断できることだが”


 特異点?


 またオレの理解力を超えた話になるのだろう……


“アール…… その、特異点を予め予想することはできるのかな?

エネルギー光弾だと、具体的に防御する方法はあるんだろうか?”


“特異点センサーがあるが、現在までの経緯だと範囲が広い。

相当な防御態勢を敷く必要がある”



 ネフィラが、意見をさし挟むタイミングを待っているようだ。


 オレは彼女に振ってみた。



「ネフィラさん、あの光の玉って、光魔法の光弾と違うものなんですか?

さっき地上で被爆した感想だと、そんなに違いが感じられませんでした。

カミオさんの光魔法の波動に近い威圧感というか、魔素圧を感じたんです」


「私はこのスクリーンで見た限りでしか言えないけど…… 近くで感じたあなたの感じが大切よ。

魔素の圧力を感じられたのなら、恐らく光魔法の光弾に近いものだと見ていいかも」



 ということは、魔法的な防御も有効になる可能性がある。


“一洸、現在までの攻撃から鑑みると、亜空間からの直接攻撃なので、防御スクリーンのない目標は守りようがない、対処防御しか手がない”


 防御スクリーン、つまり位相差シールドか。

 惑星全体を覆う位相差シールド、多分難しいだろう……



“さきほどネクスターナルと話をしたよ。

彼らが対処してくれているみたいだが、オレたちも出ることになる。

アールならどう防ぐ?”


“エネルギー光弾なので、物理攻撃の防御態勢には限界がある。

先ほどネフィラが言ったと思うが…… もし魔法力での防御が可能なら、ネクスターナルのやっている対処より有効である可能性があるな。

たとえば、エネルギー光弾の方向を重力で曲げる、同程度の光弾を正面から当てる、もしくは同程度の“闇”を発生させて、衝突寸前で中和して消滅させる、などだ”



 オレの頭の程度を考慮してくれよアール。


 だが待てよ。


 今アールが言った方法ならあるいは、かもしれない……



 オレは頭に浮かんだ青写真を整理するため、まず深呼吸をした。


 ネフィラもミーコも、そんなオレを黙って見守ってくれている。

 こんな時のオレをわかってくれているようだ、本当にありがたい。



“ただし、これは対処防護に過ぎない。

本質的には相手方の攻撃を止めさせるか、あるいは根本を断つ方法が最大の防御となる”



 そうだろうね、わかってますとも。

 でも話が通じる相手じゃないのは、今更なんでね。




 時間は動いていない。

 隙のない動きを作らねば……


 焦るな、こんな時こそ余裕が必要だな。



 ミーコが背中から身体を重ねてくる。


「このままじっとしてて…… さっきのまだ治ってないでしょ、だから考えてていいよ」



 少し胸が大きくなったかな、いや弾力がついたのか。


 背中から感じるミーコの身体は、肘から感じるそれとは違った温かさと柔らかさがあった。



 オレはメモをとりながら、考えを整理する。


 特異点センサーによって出現エリアを予想、“閾影鏡”にて拡大した光魔法その他の魔素圧で押し返す。


 能力値の高いバトラーによる魔素圧での押し返し……


 広範囲による特異点センサー察知、予想される要空域へのパイロット展開。


 ただし、危険も伴う……



「ミーコ…… あの光玉だけどさ、自分の光をぶつけた場合に押し返せそうかい?」


 ミーコは身体を押し付けた光の施術をしながら、肩越しにオレの耳もとでささやく。


「おにいちゃんが一緒なら大丈夫だよ」



 答えになっていないが、あの波動を感じた本人が言うのだ、信じることにしよう。



 オレは耳元でささやいたミーコの唇に、自分の頬を軽く当てると、メモの続きを書いた。



 気のせいだろうか、体温が上がったような気がした。

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