第199話 優しい光に包まれて
「でもね、マイナスだけではなかったの。
地球を裏から支配するために温存してきた科学技術、地底人や善意の異星人から新しくもたらされた技術によって、人類は飛躍的に進歩したわ」
もう驚かなくなっていたオレは、しかし納得せざるを得なかった。
恒星間宇宙船、次元ジャンプ、量子リアクター、レプリケーター……
未来科学の産物にこうして乗船しながら惑星の大気を眺めているこの瞬間、自分がどこにいるのか、それを自覚するだけで十分だ。
「アール…… その、ネクスターナルの人たちって、異星人に選ばれなかった人たちなんですか、それとも……」
エイミーは顔を見上げてオレを見る。
その眼の奥にある彼女の思い、両親から引き継いでいるであろう記憶の繋がりを見せられた気がした。
「あのグループ…… 人間の身体を捨てた人たちは、
異星人からの招へいを受けた人たちとは違った、もう一つの高い資質をもった集団……
レプティリアンとは別の、地球に長く住み続けた異星人種とのハイブリッドや、元々地球にいた、古い種族の血を引く人々よ」
オレは眩暈がしそうになって、思わず足元を見てしまう。
「一洸、大丈夫? 少し休んだ方がいいかな」
「いえ…… 本当にすいません、ガラにもなく」
エイミーは、このまま話を続けるべきか迷っている風だったが、ここで中断するのは酷というものだろう。
オレは背筋を伸ばして、彼女の話の続きを促した。
「異星人と人間のハイブリッドたち…… 彼らも一枚岩ではなかったの。
より人間に近い遺伝形質の人たちは、私たち人間の側についたわ。
でも彼らは異星人の心情も目的も肌でわかっていたの、だから人間でも異星人でもない機械に自分たちの精神を移植したのよ」
一回でかみ砕いて受容するのは、かなり難しいだろう。
この状況下でのオレでさえ、相当厳しい。
「彼らの本来の目的は“進化”よ。
そのための器であり、必要な成長要素であった人間という要因を捨てて、さらに先にいったの。
でも血の濃かったグループは、それを全否定してきたわ。
レプティリアンは、何が何でも人間を利用しつくしていこうと必死だった。
大きな戦乱があって、地球は……
地球は人が住める星ではなくなってしまった……」
エイミーは泣き崩れた。
彼女に自然と胸を貸したオレは、この人が、この人の家族が、繋いだ時代の人たちが背負わされた運命の激しさに、涙を流さざるを得なかった。
涙はあふれ続ける。
エイミー・ロイド少尉、彼女はオレより少し上くらいの年齢、そんな女の子が引き継いできた時代に、心からの哀憐をこめて、自分と彼女の涙腺をただ崩壊するにまかせた。
外観デッキにたたずむオレとエイミーを、惑星の大気光はいつまでも優しく包み続けている。
オレはアールという存在そのものを、少し誤解していたようだ。
彼という意識のアイデンティティが、どれほどの重圧と孤独を背負っていたか、それを隠しながら尚、長い時間を経て人間であろうとしたか、オレの意識のスケールでは推し量り切れそうもない。
人より進化した異星人の血を受け継ぎながら、それでも人間であろうとした集団。
ネクスターナルがオレの話を聞いて理解してくれた理由が、今オレの心の中にある。
はっきり言って疲れた。
ミーコの体温を感じながら休みたい。
今望むのは、それだけだ。
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