第197話 明かされた未来
オレは旗艦のシミュレーター改にて、エイミーや養成を受けたパイロットたちと模擬戦闘を実施している。
パイロットたち各々の適性魔素からの魔法射出と攻撃シミュレーション。
威力は乏しいが、マナジェネレータ―実装の魔法攻撃による模擬戦闘は、初手からすれば飛躍的に進歩している。
あの養成から暫らく経過したが、パイロットたちの進歩はそれなりに感じられた。
模擬戦後、デッキでオレはエイミーとコーヒーを飲んでいる。
「この間、養成後初めて地上に降りた時、ネクロノイドと戦闘していたグループ…… あのカミオさんたちの戦闘に出くわしたの」
地域ごとに分けられた魔法戦士たち。
カミオということは、ゴーテナスのエリアでの戦闘か。
イリーナやサーラたちだな。
初手で彼らの戦闘を見せられたのでは、ほとんど参考にならないだろう。
オレはなんと繋いでいいか、言葉を選ぼうとしている。
「ええ、気を使わせてしまってるみたいだけどその通りよ。
今の私たちじゃまだまだね。
正直お話にならないレベル、彼らの掃討戦はとてもシステマティックに実施されていたわ。
特にあの属性…… あれはなに?」
イリーナのことだな。
「ネクロノイドが動けなくなった、そんな感じでしたか?」
「そう、それよ!」
オレはイリーナの無属性魔法が特別に希少なものであることを説明、スタンダードなものではないことを理解してもらった。
むしろ属性審査を広範にすれば、連邦の人員のなかからも排出される可能性さえも。
「わたしたち連邦…… あなたの世界線とは違うかもしれないけど、地球人類は元々そういった能力があったと言われているわ」
「元々とは…… オレがいた時代でも、サイキックの研究なんかは続けられていたみたいですけど、周囲にそんなものを見せてもらえる世界じゃありませんでしたよ」
「もちろんそんな能力があったら、人間は科学を発展させなかったでしょうね」
エイミーはクスっと笑うと、デッキから見えるぼう―っと明るい惑星の大気圏を眺めながらつぶやいた。
「私たちはね、そんな自然から得られるはずだった超常能力を奪われたのよ」
能力を奪われた?
「20XX年、それ以前の数千年前に地球にいた異星人たちの遺跡からのメッセージを受け取った当時の人類は、自分たちが遺伝子操作をされた実験体であることを知った。
二十数種の異星人たちが、世代ごとに遺伝子操作を行った超ハイブリッド知性体で、本来は精神感応やサイコキネシスも使え、寿命も数百年はあったそうよ。
各時代ごとに現れた神は遺伝子操作をした異星人で、人類は異星人の目的ごとに操作され続けた。
神は否定されたわ」
オレは言葉を失ってしまった。
進化論は間違い、人間は猿人から進化したのではなく、全ての宗教も否定されたわけか。
大変な荒れようだったろう……
「それでその異星人のメッセージ…… 事実を知った社会は滅茶苦茶になったでしょうね」
「そうよ、それまでの歴史上にないほどにね」
しばらく黙っていたエイミーは、沈黙を破るように一気に話し始めた。
「人類はね、あのタイミングで大きな変化を迫られたの。
自分たち人類の遺伝子の系譜、もたらされた進化の真実を受け入れられない人たちで大混乱になったわ」
「つまり、進化のタイミングでそうなれなかった人たちがいた、そういうことですか?」
「そう、ある特定の次元というか波動を感じられる人たちがいて、その人たちだけが事実を認識させた異星人グループとコンタクトできた」
たいした衝撃だったろうな。
もし自分が選別されない側、コンタクトする素養のない側だったとしたら、事実そのものを否定しても無理はない。
「異星人とコンタクト出来ない人たちが多かったので、あれは真実ではない、まやかしだと主張する人が大多数だったのよ」
「やはり…… ファーストコンタクトできない側の人たちはいたんですね」
「ええ。
異星人の理屈としては、次元上昇に対応できた者でしかコンタクトできない、つまりその域に進化した人類だけが、異星人社会に参加できるということだったらしいの」
それは酷いな。
そんな未来が目の前だったのか……
「世界はかつてないほどに荒れたわ」
大きな戦争があった。
異星人とコンタクトできる人と、そうでない人、争いを否定する人、争いで解決しようとする多くの人、そして人間の身体を捨てた人たち……
具体的に聞かされた世界線、起こり得る可能性の未来は、オレにとって衝撃的な内容だった。
今まで聞かされていた宗教や進化論は、その根底から全否定されたわけだ。
「元々わたしたち人類は魔法…… というかそんな力を持っていた、それは間違いないことらしいの。
あなたがいる惑星世界の人たち、ある意味私たちより純粋に育まれた種とも言えるわね。
遺伝子操作されていない、本来の進化を遂げた人類……」
そういうことなのか。
エルフや亜人、獣人もまた、本来あるべき姿を追求して行きついたもの。
「問題は時間だけだと思いますよ。
オレだって保管域がなかったら、今のエイミーさんより魔素は編めていません。
気にするほどのことじゃないです」
「今、魔装ラウンドバトラーに乗ってわかることは…… もう少し時間がかかるってことかしら」
“そうでしょうね”と言おうとしたオレに表情を見られたくなかったのか、エイミーは惑星の大気圏へ顔を向けたまま、しばらく振り向いてはくれなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます