第195話 光と焔の地獄

 惑星の軌道上から降下軌道に入ろうとしている連邦軍揚陸艇。


 地表で暴れている対ネクロノイド戦闘への協力と、ネクロニウムの回収を目的としている。



 降下地点はゴーテナス帝国の南部にひろがる穀倉地帯。

 広大な農耕エリアであるこの地域は、各地から出稼ぎにきている様々な種族がいる。


 戦闘はすでに始まっていて、数機のラウンドバトラーが攻勢に回っているようだ。


 今回の回収、エイミーたちラウンドバトラーパイロットは、マナジェネレータ―内蔵タイプを駆る初陣でもあった。



    ◇     ◇     ◇



 先陣を切って広大な粘体の海に突っ込んでいく白い機体。


 たてがみのように眩い光をまといながら海の前に躍り出るやいなや、機体の長さに匹敵する長剣を抜いて、軽く凪いだ。


 放たれた光彩の波は、ネクロノイドの海をまるで光の箒で払うようにかき消してゆく。



 対峙した敵とのサイズを比較すれば途方もない差であったが、小さな点にしかない白いラウンドバトラーが放った光の暴威は、触れた端からグレーの粘つく海を燃えカスにしていく。


 その白い機体から遥かに離れた場所で、まるで火山が噴火したかのような焔の柱を放つ真っ赤なラウンドバトラー。


 赤い機体が放つ火焔は、ネクロノイドのみならず、あらゆるモノを炭にしていった。


 放たれた火焔の跡には、ただ燻る煙があがるだけの荒野が広がり、遠方からその様子を見た人々は、それぞれ“白い騎士”と“赤い悪魔”と呼んで、その功績を称えると同時に、深い恐れを抱く。


 その存在を前に、決して抗ってはならない。


 人々は口々にそう伝えあった。




 揚陸艇のモニターから地表の様子を見る連邦軍のラウンドバトラーパイロットたち。

 ただひたすらに地上の魔法兵装バトラーの戦いぶりを見つめ続けている。


 通常の兵装を全く持ち合わせていないラウンドバトラー、魔法の力による圧倒的な破壊力を前に、彼らは一言も発することが出来ずにいた。



    ◇     ◇     ◇



“イリーナ、頼めそうかい?”


 白いラウンドバトラーの遥か後方にいる薄い藍色の機体が反応する。

 その機体はまるで出番を待っていたかのように、白い機体の後方から接近してくる。


“サーラ、これじゃ埒が明かないから、イリーナに固めてもらおう”


“了解”



 カミオがサーラに伝えると、赤いラウンドバトラーは、蠢く海に火焔を放つ作業を中断した。



 等間隔に並ぶ三体のラウンドバトラー、その中央に位置するイリーナの碧い機体が両手を前に大きく突き出して、わずかに震える。


 ズゥーンという低い地鳴り、細やかな波動を伴った空間振動が起こった。

 蠢いていたネクロノイドの海は、まるで石になったかのように動きを止める。

 イリーナの機体は、さらに大きく両腕を広げて、見えない振動波を放ち続けた。


 蠢く海は死んだように体動を停止。


 動くことができないでいるネクロノイドの叫びが軋みとなって、広大な原野に響き渡る。


 聞くに堪えない叫び声を終わらせたい、人間なら誰しも思うことだろう。



“じゃ、やるわよ”


 サーラは、早く片付けたくて仕方がないといった様子である。



“わかった、サーラは左から頼む。

イリーナ、もう少し状態維持のままで頼む…… では始めよう”


 カミオがそう言うや否や、赤い火柱が横殴りに発生した。



 白いラウンドバトラーと赤いラウンドバトラーは、光と火焔の死のハーモニーを盛大に演出し始める。


 焼き嬲られ、粉砕され始めるネクロノイドの海。

 二体の白と赤の悪魔から放たれ続ける、光と焔の地獄。


 軋むような叫びは、荒れ狂う光と火焔にかき消されて、ただ炭へと姿を変えていく。


 固まったように両腕を前にだしたままのイリーナの機体からは、重力魔法を放つ際の振動が絶え間なく続いていた。



    ◇     ◇     ◇



 なんなの、一瞬でネクロノイドを動けなくしてしまった、あれも魔法なのよね。


 まるで蹂躙……



 このやり方だと、ネクロニウムの回収率はかなりいいはず。

 炉核弾を使った場合の対象損耗率からは比較にならないわね。


 あの光と火焔、私たちのマシンと単機同士で戦っても絶対勝てないわ。


 一回の戦闘で炉核弾が撃てるのはせいぜい3発まで。

 それまでの戦闘での消耗によるけど、あの魔法兵装のバトラーなら、限界はない……


 なんて化け物じみてるの。

 私たちの出番なんて……


 無理もないわよね、ここは剣と魔法の世界で、私たちこそ異邦人なのよ。



 エイミー・ロイド少尉は、地獄の業火に焼かれた炭を集めるべく、覚悟を決めた。

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