第194話 閑話 ネクスターナル
我はネクスターナル、統合された人類の意志、その総意。
古より育まれてきた意識の継続と保全を目指し、人間に与えられた僅かな時間を超越する手段の一つとして模索した結果、選択された方向性。
我々には幾つかの選択肢があった。
今となっては、わずか数百年前の話。
人間が生きることのできる生存環境としての地球は、その限界を迎えようとしていた。
数々の警告があった。
人が進化する遥か以前より存在した、地球上で人間に擬態して生存しながらも、その系譜を維持してきた異星人たち。
彼らの目的は、人類を“器”として用いた自分たちのDNAの継続。
明かされたこの事実は、人類を覚醒させる出来事となった。
与えられた情報の正確さを確認するため、我々人類は全てのDNA情報の分類を行った。
その結果、人間は進化の過程で様々な異星人たちの遺伝子を受け継いでおり、地球で純粋に進化を遂げた種ではないことも明らかとなった。
人類の進化を促した様々な異星種族たちは、世代ごとにDNAに手を加え続けた。
何故そんなことをしたのか?
ある種族は奴隷として、またある種族は自分たちの遺伝子を継承させる器として、ある種族は掛け合わせたスーパーハイブリッド種を創造する実験台として、そしてある種族は同化して共存していくパートナーとして。
人間の寿命は100年を少し超える程度に設定されていた。
これは最も初期の段階で操作されたもので、目的は定かではない。
他の種族の遺伝情報を書き加えても尚、そのリミッターが外れることはなかった。
高度に精神性を進化させた種族が残した文献には、“輪廻を高速で回し、割り当てられる魂の回転率を上げる必要がある”と記されていた。
異星人たちの魂の器として存在し、人類種としての精神性の成長はむしろ阻害となる、ということだろう。
ふざけた話だ。
本来高度に進化した星系種族は、人間が数十万年かけて進化したとされる時間など比較にならないくらい長い時間をかけて進化していく。
その過程において育まれる精神性こそが重要なファクター。
この地球に存在する人間はポテンシャルの塊でありながらも、魂の器としての呪縛をDNAに刻まれた、生まれながらの奴隷であったのだ。
この事実は、人類の選択肢を多く岐けさせることとなった。
我々ネクスターナルは、限定された老化の呪縛から逃れるために、精神をチップに保存して、遺伝子のしがらみから解放された。
そして、爬虫類どもの下僕に投与された殺人ワクチンの影響から解放されるためにも……
率先して過去からの悪意ある収奪を全否定した、最も人間らしい選択であったともとれる。
その行為をもって選択した側を“人間をやめた亡骸”と称して、地球から追い出そうとしたそれ以外の人類。
今こうして思い返してみれば、無理もない話だ。
効率と合理性、高められた精神性の共有こそが、人類の最もとるべき選択肢だと考えていた、疑いなどなかった。
高位知性種。
そう自称して我々のアイデンティティを侵してきた彼らは、地球にしがみついていた頃の我々を冒涜し続けていた異星人たちと同じであり、何より今の我々とさほど変わらない。
手遅れかもしれない、いや気づいただけでもまだ人間の心が残っている証左か。
ユニット SMZ T-66 1029T2R。
並列リンクを外れた個別意志である1029T2Rがとった選択は、再びリンクを復活させることのない個別意識の継続だった。
以前の我々であれば、勿論許されざる行為であったろう。
だがこの総意から“1029T2R”を無理やり並列リンクへ復活させようとする意見はない。
ただの一つもないのだ。
これは驚くべきことだ。
まだ我々は人類、間違いなく人間だ。
だからこそだ。
これからさらに長い時間がかかるだろう。
人類の形は一つではない。
弄り回された遺伝子の果てに辿り着いた、幾つかある形のうちの一つ。
“1029T2R”、彼に続くものが出てくるはずだ。
だが今の我々の総意としては、その個別の“意志”を尊重しようとしていた。
これは最も人間らしい、進化したそれであるとも言える。
我々はネクスターナル、人間だ。
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