第123話 今までにないほどの怒り
エイミーの表情は複雑だった。
保護したネクスターナルが次元窓から出た後、しばらく話しかけるのを躊躇うほどの状態だったので、そっとしたままにしている。
決意したように話しかけてきたのは、大分たってからであった。
「……一洸、あなたとしてはどうなの。
つまり、あのネクスターナルの存在って、人間として見てるの?」
かなり根源的な問題だった。
エイミーの立場からすると、彼らはすでに人間ではない。
地球を破壊したもう一つの要素、その原因ともなっている。
しかしオレの立場からすると、彼らも同じ人間なのだ。
アールが文化を欲し、自分たちの同じように何かを想い、興味を抱き、躊躇う様に……
「価値観は人の数だけあるわ、それは否定しない。
でも、ネクスターナルを人間として見た場合、恐らくとても面倒なことになる……
私たち以上に、彼らにとってもよ」
エイミーはそこまで話すと、オレに正面から向き直って言った。
「戻るわ」
旗艦への次元窓を開けて転移した時、いきなり聞こえてきたのは、警戒態勢のアラート。
エイミーが指令室に向かうままに、彼女のあとにオレは続いた。
メインスクリーンに映し出された機械惑星3体によって、状況は明らかであった。
スクリーンを見つめるホワイト大佐以下、尉官たち。
「大佐、あれは今回の同行調査時に出現した、異星人のデバイスです……
あれが、ネクスターナルを破壊しました」
「なんという大きさだ……
あの質量を維持して移動できるとは。
我々の科学の次元ではないな」
そうか、まだエイミーは報告する前だったか。
「ホワイト大佐……
彼らが不当な要求をしてきた場合、オレが表に立ちます。
調査時にこの惑星がネクスターナルを破壊しようとしていたところを撃退したのはオレです。
そのことに対しての報復なら、オレを差し出してください」
ホワイト大佐はエイミーを見て、彼女の表情からオレの言った内容を確信した。
「……撃退、とは。
君はあれを破壊したのか?」
「ええ、もちろん仲間たちの力を合わせてですが」
エイミーは事の次第をホワイト大佐に報告、その内容はよりホワイト大佐の表情を曇らせるものとなった。
無理もない話だな。
「状況の変化はあるか」
「……出現した状況のままです、砲門解除の兆候もありません」
オペレーターは、ホワイト大佐に冷静に答えている。
彼らがそれほど動じていないのが、オレを単純に安心させた。
「たっ、大量にジャンプアウトしてきます、もの凄い数です!」
突然発せられたオペレーターの声は、叫び声にも近かった。
3体の機械惑星と第7航行群の間に次々にジャンプアウトしてきたのは、数百隻にも及ぶネクスターナルの戦艦群。
その出現は、あっという間であった。
“我々はネクスターナル。
オールドシーズへの攻撃は認められない、それは我がネクスターナルへの攻撃とみなす”
“お前たちネクスターナルは、我が高位知性種との融合のみがとるべき選択肢であり、現在の行為は無意味である、ただちに融合せよ。
その同根有機体の分岐物は、我々が処理する”
ネクスターナルと高位知性種のやり取りは、コミュニケーターを備える全ての存在にモニターされ、内容は全ての連邦とネクスターナルの知るところとなった。
機械惑星から発せられた未知のエネルギー波は、第7航行群の戦艦へ向けられる。
その瞬間、ジャンプしてきたネクスターナルが盾となって、連邦の戦艦は破壊を免れたが、ネクスターナルは破壊されてしまった。
次々に攻撃を仕掛けてくる高位知性種、だがネクスターナルは、身を挺して連邦を守っている。
そのイージスジャンパーとでもいうべき防御スタイルは、恐らく初めて披露されたのではないだろうか。
オレは、今までにないほどの怒りを覚えた。
自分を抑えることが出来ない、こんな激情を覚えるのは生まれて初めてだったかもしれない。
何も言わずにオレは指令室を走り出ると、そのまま保管域へ転移した。
“アール、リロメラ、ミーコ、アンナ、レイラ、準備してくれっ!”
オレはそれだけ言うと、愛機に乗り込み、すぐさま次元窓を開けた。
“一洸、最初から重力シールド展開で、一気にケリをつけた方がいい”
アールが提言してくれたが、元よりそのつもりだ。
“そうするよアール。
あの3体の惑星を同時に片付けようと思う。
最適な射出ポイントを出してくれるか”
オレはそれだけ伝えて、コンソールに触れた。
“おにいちゃん、あたしたちは…… あたしたちはここから撃てばいいんだよね”
“そう、いつものように合図するさ。
きみたちの射出は控えようと思ってたけど……
すまない”
“一洸さん、わたしたち、このためにスタンバイしてるんです、気にしないで、思いっきりやっちゃってくださいね”
“……あ、あの、わたし、今までださなかったくらい、精一杯やります!”
3人のそんな声が、オレを支えてくれた。
オレの中には、怒りと、嬉しさと…… とても言葉では言い表せない複雑な感情が渦巻いている。
“一洸、俺がさっきぶっぱなしたよなぁ。
じつはよぉ、本気の全開じゃねぇんだ……
お前が死んじまうんじゃねぇかって、最初の具合を確かめたんだ。
だから、これからやるのが本気だぜ。
お前、マジでよ…… 絶対に死ぬなよ”
オレは、自分の笑顔をみんなに伝えられないのがちょっと残念に思えたが、精一杯の言葉で伝えた。
“みんな…… ありがとう。
みんなの力を借りるよ”
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