第124話 重力制御下
高位知性種の未知の質量攻撃は、連邦の戦艦を殲滅すべく縦横無尽に発せられているが、ことごとくネクスターナルによって防御され、消滅させられているのはネクスターナルのみであった。
恐らくは、もうその半分近くを消滅させられている。
“待て一洸、射出ポイントからのパターン解析をしたところ、あらゆる事態を想定しても一度に3体の同時破壊はほぼ不可能だ。
作戦を立てる必要がありそうだな”
“わかった、一端戻る”
オレは保管域に戻ると、すぐに時間停止をした。
3体同時破壊は不可能。
とすると、一体ずつの破壊か……
人質を取られているわけではないのでそれほどとも思えたが、現実としてここにいる存在全てが人質ともとれる。
あの重力制御、そして未知の質量攻撃。
重力制御か……
“3体同時は不可能…… だが、一体ずつ破壊しなければならないわけではない。
2体が直線上に並んだ状態で量子攻撃すれば、2体同時破壊の可能性はある。
ただし、タイミングが重要だ。
位置がずれれば、不完全なものになる”
とにかくまず一体。
オレは、前回奴がネクスターナルに対して行った蹂躙の光景を思い出した。
強力な重力制御、そして服従強要。
全員が揃っているこの場所で、オレは自分の考えを伝えた。
一体目を片付けた後の、次の動きも含めて。
“あまりにも危険よ……
やってみる価値はあるけど、私はしてほしくない。
途中で先方に気取られたら終わり”
ネフィラは、いつもの笑顔ではなかった。
未知の部分が多すぎる敵である、イメージが浮かばないのも無理はないか。
ネクスターナルでも勝てない相手だ、そう簡単にいくわけもない。
“一洸さん、せめて搭乗するのはあなたの影にすべきね。
機体は本物でいいわ、あなたはここから必要なことをすればいい。
あなたが…… あなたが死ぬことはないのよ”
ネフィラは、決して譲るつもりはない表情でオレを見つめる。
オレは彼女に頷き、一体目を破壊する作戦を開始した。
時間停止解除後、オレはすぐさま高位知性種に宣戦布告する。
“オレは連邦とは無関係な一個人だ、お前たちの行為は一方的な虐殺であり蹂躙だ、オールドシーズ杉本一洸は断じて許すわけにはいかない。
それとも、捕まえたいのに消されちまったら、またうろうろするのかな?
高位知性種さん”
思いっきり小ばかにした口調で言ってみた。
これが伝わる相手ならいいが、前回は突然姿を現したからな。
いずれにしろお前たちは、絶対に許さない。
防御を続けるネクスターナルへの破壊が続く中、オレの“影”は愛機とともに次元窓から躍り出た。
宇宙空間をモニターしている4Dスクリーン。
オレはバトラーを縦横無尽に移動させ、高位知性種を騙すことに専念している。
今のオレにできるのは、ただ釣り餌にかかってくれることを祈るだけである。
“かかったぞ”
アールが言った。
重力制御が始まったようだ。
このまま圧殺しようとすれば、それまでである。
前回の戦闘時、奴らはオレが保管域へ収納する術を見ていた。
あの秘密を知りたいという好奇心を持ってくれているかが鍵だ。
高位知性種の持つ好奇心に賭けたい。
オレは演技をしてみた。
“やめろ、こんな制御をして蹂躙したとしても、何の解決にもならない。
服従は決して発展的な関係に繋がらない、そんなこともわからないのか”
“お前たちは融合の対象ではない、服従させる価値もない。
だがあの質量隠蔽行為の内容は確認させてもらう”
そういいながらも、重力制御を続けて機械惑星への接近を許すようである。
いいぞ、そのままそのまま……
オレは祈るように高位知性種の動きを見守った。
“なぁアール…… 高位知性種ってのはよ、この世界でいう神とは違うのか?
俺の前いた世界の神とは違うみてぇだが、基本的な部分は近いような気がする”
保管域内でスタンバイ状態のリロメラは、暗号通信下にある保管域要員に聞こえるよう、アールに聞いた。
“神という概念が、種族や文化、集団によって解釈が様々なので一概には言えないが…… 別のものだと理解している。
リロメラのいた世界の神が、ぞれを自称しているだけの高エネルギー体なのか、もしくは本当に世界の組成から構築した事実上の造物主なのかによっても異なってくる”
リロメラはしばらく返答をしなかったが、静寂をやぶるようにネフィラが答えた。
“お話中いいかしら? 神ってね、私の知ってるそれは、決して自分を神だとは言わないし、創った生き物の行状に干渉しないものなのよ。
祈っても、願っても、そのままただ見守るだけ……
私のいた世界の概念ではね、あれはただのわがままな子供よ”
言葉は発せられなかったが、リロメラの表情の変化は、確かにコミュニケーターによって聞く者たちに伝達された。
“ありがとうよネフィラ…… ちょっと気が晴れたぜ”
オレもリロメラに同意しようと思ったが、黙っていた。
◇ ◇ ◇
「杉本一洸の機体が…… 重力制御下におかれました」
第7航行群旗艦の司令室のオペレーターが、半ば叫ぶように言った。
巨大な4Dスクリーンに小さく光る一洸のラウンドバトラーは、スラスターの光りを纏いながら、ゆっくりと機械惑星の一つに引き寄せられていく。
その様子を見つめるエイミー・ロイド少尉は、声を出すまでもなくただ機体を見守っていた。
「一洸……」
思わず呟いているホワイト大佐に、エイミーは言った。
「まだ何も聞いてはいませんが…… 彼らしい動きだと思います」
エイミーはそのままスクリーンを見つめる。
映像は、あと少しで一洸の機体が機械惑星に取り込まれる様子を見せていた。
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