第121話 初めての光力実験
その声はエイミーにも聞こえるらしく、恐らくは放送を聴くようにコミュニケーターを持つものには届いているのだろう。
オレは、まず状況を確認すべく“声”に対して質問した。
“確かに元同根の種族だが、この状況を説明してくれないか”
オレは努めて冷静に、“声”に向かって応答した。
“……逃げろ、何を言っても無駄だ”
最初の声、半壊したネクスターナルが言ったのがわかった。
一方的な制御を仕掛けてネクスターナルを破壊しようとした高圧的な声、オレは声の対象に対して、純粋な憤りを覚えた。
それは姿を見せないまま制御を続けている。
“ネフィラさん、突然大変なお願いですが……
アールの姿を一時的に消してもらうことは出来ますか?
それほど長い時間じゃありません”
“大丈夫よ、あなたの考えていることはわかるわ、まかせて”
ネフィラの返答に、おれはまた上手くいくことを確信した。
「エイミーさん、一時的にあの戦艦を保管域へ収納、横柄な声の主からネクスターナルを一時保護します」
エイミーは、何も言わず頷いてくれた。
オレは宇宙艇からエイミーを連れて保管域へ転移、直近で次元窓を開けてバトラーでネクスターナルに近寄り、収納する。
“何をした…… 我々への融合を同意しない有機体への介入、それは我々への叛意とみなす。
繰り返す、我々への叛意とみなす”
オレは事情を完全に把握しないながらも、少し感情的に返してみた。
そうせずにはいられない、本能的なものを感じたからだ。
“随分と慌てておいでですねぇ……
まさか見つけられないので、焦ってるんですか?”
普段絶対に言わないような言い回しで返してみた。
その瞬間だ。
ネクスタ―ナルのいた場所へ現れたのは、小惑星ともいえるほどの大きさの人工物、まさに機械惑星だった。
オレは、そのあまりの物理的威圧に言葉を失う。
宇宙空間に突如現れた目の前を塞ぐとてつもない大きさ、惑星の引力すら感じてしまうのではと思えるほどの間近さで、オレを圧倒した。
“我々はこの知性体を上位知性へと進化させるべく、融合を招請している。
当の機械生命体は我々と融合することにより、より高い次元の存在へと到達することが可能だ。
お前たちの妨害行為は進化への冒涜である、直ちに撤回せよ。
拒否することに意味はない”
オレはこの横柄な声の主の存在、そして目的を一瞬で理解した。
地球の文化は偉大だな、膨大なコンテンツで鍛えられていない限りこうはならないだろう。
“一洸、重力シールド展開だ。
そのバトラーには装備してある、ただし時間が短い。
展開している間に魔法で攻撃だ!”
アールが一気にオレに伝えてくる。
オレはモニターに意識を集中した。
素早く反応する表示、重力シールドの展開をイメージすると、ブゥーンという低い重低音が響き、オレの機体は、強力な何かに覆われた。
瞬間、横柄な声の重力波制御が仕掛けられたが、間一髪で間に合ったようだ。
オレは目の前に憚る機械惑星に向かって精一杯の意識を集中し、“閾影鏡”を最大展開した。
量子リアクターはマナジェネレーターへ相当エネルギーを送っているはずだが、全くといっていいほど反応がない。
リアクターにとっては、マナジェネレーターへのエネルギー供給など、大した負担ではないと言うことか。
“聞いてるかリロメラ、ちょうどいい、テストしてみるか?”
“待ってたぜ一洸! 容赦なくぶっぱなすけどお前死ぬなよ! 俺ぁ閉じ込められるのは二度とごめんなんだ!”
リロメラは、それは嬉しそうに叫んだ。
余裕をもって開いた次元窓は、恐らく直径1kmほどあったのではないだろうか。
“閾影鏡”で宇宙空間に出現した巨大な9つの魔法陣。
オレはできるだけ大きな声で、傲慢な声の主にも聞こえるよう、抑揚をつけて宣言した。
“閾影鏡9、全開っ!”
ほぼ同時に、リロメラの叫ぶような声が続いた。
“俺の全開だぁー、喰らぇクソ野郎ーっ!”
瞬間、開いた次元窓から光子リアクターによって増幅されたリロメラの光力は、光の暴威を膨れ上がらせた。
それは星が生まれる時の光、正に超新星……
恐らくは閾影鏡を用いずとも、とんでもない破壊力であったに違いない。
9つに増幅された光子力の新星は、傲慢な知性体の機械惑星に向かって閃光した。
あとの映像は、とても正視できるものでもなく、事後で確認したほどだ。
本当に全く見ることなどできなかった。
なにもない虚空。
先ほどまで恐るべき威圧を与えていた機械惑星は、目の前の宇宙空間に跡形もない。
ひょっとしてジャンプしたのかと思ったが、先にアールが教えてくれた。
“……一洸、やったな。
完全に消滅させた。
リロメラの光力実験は大成功だ、計り知れないほど貴重なデータがとれたよ”
“……その、緊急だったので、すまない。
半壊したネクスターナルは、すぐ出てもらうよ”
“大丈夫だ、ネフィラがきちんと私の姿を消してくれているし、こちらの通信は暗号化されているので聴かれることはない”
オレは軽く肩の力を抜いて深呼吸すると、保管域に戻った。
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