第119話 量子爆発

 オレは馬酔木館の部屋で久しぶりにゆっくりと風呂に入り、ミーコに身体を洗ってもらった後の寛ぎの中にいた。


 大量の魔素を吸収した後のオレとミーコだったが、被爆後約1日平常空間で過ごすことによって、その影響から脱せられるということがわかった。


 自分を抑えきることが出来るか完全な自信があったわけではなかったが、これでなんとかなりそうだという経験は持てたと言える。



「ねぇおにいちゃん、あたしが我慢できなくなって、おにいちゃんに襲いかかったら、おにいちゃんはあたしを投げ飛ばすの?」


 オレは返答に困った。


「あたしはもし、おにいちゃんがバトラーに乗って、その後あたしを襲ったとしても、あたしは…… いいよ」


 ミーコ、オレに言わせようとして覚悟を決めたのか。


 彼女がオレの頬に、自分の頬を強く押し付けてくる。


「あたしは自分を褒めてあげるんだ、よく我慢してるって。

それはアンナちゃんもレイラちゃんも同じ…… みんな大変だったんだ」


 それはオレもわかってるよミーコ。

 頬を押し付けてくるミーコの頭を優しく抱き、彼女の問いかけに応えた。


「でもおにいちゃんは我慢しなくていいんだよ。

あたしはおにいちゃんが、すごく頑張ってるって知ってるから……」


 ミーコ……


 その時、通信が入った。


“一洸、今いい?

この惑星の星系近くで巨大な量子爆発を観測したの……

惑星破壊レベルのものよ。

連邦以外でこれを実行できる力はネクスターナルしかないわ。

この惑星、わたしのいる第7航行群への攻撃ではないけど、私たちは警戒態勢に入ったの、あなたもそのつもりでお願い”


“わかりました、すぐに出られるようにしておきます”


 オレはミーコに軽くキスをすると、アンナとレイラに準備をしておくよう通信した。


 ミーコはいつも以上に真っ赤になり、両手で頬を押さえている。


「ミーコ、いくよ」


 ミーコはそのまま頷くとオレの手を握り、オレたちは部屋を出てアンナとレイラを連れて保管域へ入った。




 保管域から次元窓を開けたオレは、宇宙空間の様子をアールから可能な限りモニターしてもらった。


“確かに量子爆発の痕跡はあるが、果たしてネクスターナルのものか、それは定かではない。

連邦の言う通り、それを行えるのは、私の知る限りでも二つの勢力しかない”


 保管域に連れてきたアンナとレイラは、いつもの表情に戻っていた。

 平常空間に戻る時間は、ほぼ一日でよさそうだな。



 保管域の空を、一つのバトラーが飛行していた。


 かなりの高空だったので、それは小さな光点にしか見えなかったが、ミーコたちの機体並みのありえないスピードで移動している。


“……アール、あれはリロメラなのか?”


“そうだ、ウォーミングアップの前の操作性テストといったところか。

まだ光力噴射の試行テストには至っていない。

ここではテストにならないからな”



 ミーコが飛び跳ねながら両手を上げている。


 めずらしくアンナやレイラも笑顔で手を振っていた。


 オレたちの姿を拡大して確認したのだろうか、リロメラの機体はまるで雄姿を見せつけるかのように、高度を下げて滑空してきた。


 白銀の翼を持った、光輝くラウンドバトラー。


 オレが知っているどの搭乗型ロボットやモビルスーツよりも美しく、異彩を放っている。


“あの両翼が、光子力を跳ね返す推進反射材となっている。

なのでリロメラの基礎力次第とも言えるが、ミーコたちの機体とは次元の違うポテンシャルを持っている”


 リロメラ……


 アールはさらりと言うが、ひょっとしたらとんでもないオモチャを提供してしまったのかもしれない。


 いずれにしろこれからわかるだろう。


 それにしても目立ちすぎるな。


“一洸、また量子爆発だ。

先の痕跡よりも近くで発生している、ロイド少尉の下へ、宇宙空間へ転移しておいた方がいい”




 オレは頷くとエイミーに連絡して、第7航行群旗艦へと転移した。

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