第118話 久しぶりの精算

 早速、オレたちはフーガの森のダンジョンに転移した。


 ギルドのオーダー通しは、獲物によって後付けでもかまわないだろう。

 それに、獲物のためにやるわけじゃないし。


 いつものルールに加え、今回は特別に条件を追加した。


 ・とにかく襲ってくる魔物は全て撃退、回収不能な状態にしてしまってもかまわない。

 ・極端な単独行動はしない、基本一人にならない。


 これぐらいでいいだろう。


 回収役に徹したオレは、とにかく致命的な危機に陥る前に彼女たちを安全に回収、そのことに専念することになる。



    ◇     ◇     ◇



 おにいちゃん、さっきぎゅーってしてくれたけど、全然足りないよぉ……


 あんまりしつこいと嫌がられるだろうから、あたしからはしつこくしないけど、さっきは嬉しかった。


 おにいちゃんの方からやさしく抱きしめてくれたし、そのあともずっと頭を撫でてくれた。


 昔おにいちゃんの部屋で、ずっと優しく撫でてくれてたこと思い出しちゃった。

 今夜も思いっきり抱き着こう、ちょっと嫌われてもいいから。


 だって、あたしもう……



    ◇     ◇     ◇



 ネフィラ先生の術式はけっこう効いたかな。


 自分がどうこうというより、これは相手あってのことだし、暴走したとしても限界がある。


 でも、あのアールの作った機体は、この体にはとんでもなくいい効果をもたらしてる。


 元気になる部分は、アッチの方を除けばすごくいいものだし、私から襲いかかるなんて絶対ないし、我慢すればいいだけだし…… 我慢できなくなったら、今やってるみたいに発散すればいいだけだし。


 でも、それでも発散しきれなかったら、どうなるんだろう。

 まだそこまではいってないし、それに……


 今は狩りに集中、私は私。



    ◇     ◇     ◇



 ……私、一洸さんを殺しちゃった。

 ミーコちゃんと一緒に串刺しにしたとき、すごく達成感を感じてしまった。


 どうしてって言われても、なんか、勝ち取った感じがして、一洸さんを狩り取った気になった。


 ごめんなさい、私、倒したくて倒したんじゃなくて……

 お願いを聞いてもらいたくて、みんなを殺しちゃった……


 勝利のお願いは、まだとっておきます、その時がくるまで。


 その時が来たら、一洸さん、私のお願い、叶えてくださいね。



    ◇     ◇     ◇



 凄いな、その一言につきる。


 何が出現しても、彼女たちの腕の向いた先には、ただ飛び散った血のりと肉片が散らばることになる。


 まるで腕そのものが軍艦の速射砲になっているかの如く、狩られる魔物は即爆散させられる運命を受け入れなければならない。


 ついこの間、河原で合わせ技を作っていたことを思い出す。

 もはや、この子たちは歩く殺戮兵器だな。


 魔物が気の毒にすら思える。



 ミノタウロスだ。


 あの時の奴ではなかったが、サイズはほぼ同じ。


 ミーコは頭を、アンナは胸を、レイラは両足に向け、即時に暴威を発射し、気の毒なミノタウロスは、瞬時に片腕だけの肉の断片と化した。


 オレは、思わず軽く拍手をして、その動きを称える。


 魔物には可哀そうだが、彼女たちの余剰性力発散に貢献してくれているのだ、感謝しかない。


 魔石は、一緒に粉々になっていないものだけ回収してきた。



 このダンジョンには岩水牛はいない。


 そのほとんどが、通常ギルドへの依頼対象になるような狩猟対象の魔物ではなく、上位ランクのクランで対応しなければ全員死亡するような危険な対象ばかりであった。


 こうしてみている限り、彼女たちが疲れている様子はなく、まだまだ大丈夫そうである。


「このまま深層にはいってもいいけど…… もうそろそろ夕方だし、また明日くらいにこの場所から再開しようよ」


 オレは、やる気満々な彼女たちの出足をくじく気はなかったが、あまりに軌道を外れられてもな、と思っていた。


「わかった、ギルドにもいかなきゃいけないしね」


「そうですね、今日はこのあたりにしましょう」


「……はい、そうします」



 実際、疲れているような様子はなく、これで発散しきれているとは思えなかった。


 まぁいい、無理に吐き出させたとしても、またそれが負い目になっては元も子もない。



 オレは鋲を打つと、そのままギルドの中庭に転移すべく保管域にみんなを入れる。


 保管域を通る時、リロメラが恨めしそうにオレたちを見ていた。


「なぁんだよお前ぇら、楽しそうな事やってんじゃんか。

この魔獣、ほとんどぶっとばされてるけど、こんなんどうすんだ?」


 そういうリロメラの様子を見て、彼女たちは楽しそうに笑っている。

 オレは、かなりいい効果だったんだと、その時感じた。


 そんなオレたちを見て、ネフィラがリロメラの翼を魔法で消した。


「おおっ、羽が消えちまった!」


「そう見えるだけよ、うふふふ。

あなたも地上で遊びたいんだったら、こうしないとね。

リロメラも魔法憶えてみる?

わたしは厳しいわよ」


 ネフィラの楽しそうながらも意地悪な表情を見て、リロメラは一瞬怯えたようにしていたが、地上で遊びたい気満々なのは隠しようもなかった。


「……翼が見えなければ、地上で冒険者登録しても、ひょっとしたら大丈夫かもしれないな。

冒険者は魔獣を狩って、報酬を得る仕事だ。

やってみるかい?」


「おおっ、やるよ、ゲームと変わらなそうだな」


「実際の殺し合いだからね、ゲームのようにはいかないが」


 リロメラは今すぐにでも始めるつもりらしいが、オレは窘めた。


「今日は精算してくるけど、後日登録しにいこう。

ただリロメラは異世界の天使だから、あの水晶がどんな反応をするかによるな。

オレやミーコは大丈夫だったけど」


「一洸やミーコが大丈夫なら、俺も大丈夫だろ!」


 特にアンナが、かなり怪しそうな表情をしたが、本人は気にするつもりはないらしい。


「……お、そうだ忘れるとこだった。

俺の機体、アールが調整してくれたみたいだ、今度外にだしてぶっぱなしてみるからよ、付き合えよ一洸」


 オレはアールを見上げた。


“いつでも都合のいい時にな”


 アールは、自信のこもった声でオレに伝えてくる。

 オレはアールに向かって、少し悪い笑顔で応じた。




 頭がふっとんだ魔獣であったとはいえ、その報酬は桁外れであった。


 もう隠しても仕方ないが、イリーナはいつもの調子で事務的に扱ってくれる。


「本日は、締めて18000Gになります。

本当に凄いですね……

カミオさんたちのパーティでも、こうはいかなかったですよ」


 魔石が揃っていない状態でこれである。




 当分、地上での金銭の心配はないのはもちろんだが、本当に家でも買うかな。

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