第117話 発散の方法

 オレは3人を馬酔木館前に降ろし、しばらく滞在の旨を受付のジュリアに伝えた。


 アンナは平静を装っていたが、少し心配だ。

 レイラは少し赤いままの顔で、俯き加減である。


 平常空間に戻って、どのくらいで回復するのかも測る必要がある。

 保管域の温存効果だけではないかもしれないし。


 ミーコが強く手を引く。


「おにいちゃん、なるだけ早く戻ってね…… お願い」


「わかったよミーコ」


 オレは珍しく、ミーコの頭を抱き寄せ、少しぎゅっとしてみた。


 努めて明るく振る舞っているミーコだったが、やはり少し震えているようだ。

 胸の弾力は硬くなったというより、増しているのは間違いない。


 この子もこれで、我慢しているんだろうな。




 オレは保管域に戻り、マナジェネレーターを搭載した改造機のテストを試みるべく、愛機に乗り込んだ。


 平常空間で誰にも見られることのない場所……


 完全とは言い切れないが、あのフーガの森のダンジョン付近なら、大丈夫そうだ。


 魔物はいるだろうけど。


 オレはバトラーを駆り、あの入り口に転移した。




 さて。


 オレの闇属性の魔法だが、これを放ってみて、まずどういった体調の変化が生じるか、確かめねばならない。


“アール、やってみるけど準備はいいか?”


“万全だ、ネフィラと一緒にモニターしているので、存分にやってくれ”


 あの岩山にしよう。

 少し先にある岩山のてっぺんに向けて、オレはまず闇属性のウィンドカッター、薄い鏃型のナイフの射出を、腕をクロスさせて放った。


 岩山の頂上は、一瞬にして粉々に砕け散る。


 体調の変化は全くないが、むしろ体の内側から熱が湧きあがってくるような感じだ。


 オレは上空へ翔び上がると、前回ぶっ倒れる原因となった“閾影鏡”を展開、魔法発動を全開にした。


 全身に行き渡る熱い力、そして……



 これは、性エネルギーの高揚なのか。



 もの凄い発奮力というか、起爆力を与えられた感がある。


 しかも、その限界がない……

 無限に湧きあがってくる高揚感と、決して枯渇しないであろう、おかしな保証のような感覚までついている。


 エネルギーの源が量子リアクターだからだろうか。


 理性値の低い人格が、この量子リアクターからの力をマナジェネレーターを通して受けたとしたら、ただの性獣と化してもおかしくはないだろう。



 これだったのか、あの子たちの動揺は。



 ミーコの状態も、アンナの拳も、レイラの涙も、これで理解できた。


 諸刃の剣だな。


 使い方を間違えると、本当にとんでもないことになる。

 ただ体調は、今まで感じたことがないほど絶好調すぎるほどだ。


 もし体調不良の状態や、あるいは病魔に侵された状態の魔力使いが、ここに入って魔素を受けた場合、その回復効果は絶大であろう。


“アール、モニターしていてどうだ、数値が凄いことになってるはずだけど”


“その通りだ、異常ともいえる体力その他の上昇がみられる”


“今率直に思えることは……

このマナジェネレーターを使用した場合の効果は絶大だけど、その代償として搭乗者は、魔素力で溜められた余剰エネルギーを発散する必要があるんだ、自分でこうなってよくわかるよ”


 よく我慢していたな、あの子たち。


 この状態でもしミーコが隣にいたら、オレは自分を抑えることが出来るだろうか……


 彼女たちの理性というか、自制心は賞賛に値するな。


 今後の運用は、慎重に行わなければ。




 保管域に戻ったオレは、ネフィラに相談した。


「あの子たちの状態、その原因がよくわかりました。

これは大変なものですね。

ミーコもアンナもレイラも、よく我慢してたと思います」


「わかってくれたようね、うれしいわ。

言葉にし辛い理由も含めてね。

ただ、あの子たちが立派な原因はね、あなたがいるからなのよ一洸さん」


「オレが、ですか?」


「そう、あなたという存在が、あの子たちの強い自制心を支えているの。

だからわかってあげてね」



 難しい。



 あの子たちの性エネルギーを発散させる方法、それは一つしかないだろう。


 ただ、まかり間違って妊娠でもさせようものなら、今度はオレ自身の自尊心を保つことが難しくなる。


 オレという存在が、彼女たちの自制心の支えになっているのだとしたら、それにも応えねばならない。



 あの子たちの希望を聞くことにしようか。

 それでなら、その範囲内でなら、オレに出来ることなら、応えていこう。

 理性も自制心もある彼女たちの、要望にだ。




 オレは保管域から、馬酔木館に転移して部屋に入った。


 一人の部屋にいても、まだ身体の内に熱のある状態からは醒めない。




 オレがベッドでうとうとし始めた時、ドアが開いてミーコが入ってきた。


 もはや、当たり前になってしまったな。


 ミーコはそのままベッドで横になるオレに乗っかってきた。


「……ミーコ、大変だったんだな。

気づいてやれなくてごめん……」


 オレはミーコの頭を自分から抱き寄せて、しっかり抱擁した。


 ミーコは“意外、どうしたの?”的な反応をしたが、そのまま身を任せてくる。


「ねぇおにいちゃん…… あのバトラーで、あたしたちみんな元気になりすぎちゃったら、おにいちゃんの身体が持たないよね」


 そうか、そこまで言ってくれるならオレも助かるよ、さすがミーコさん。

 オレは、ミーコの頭を撫でる力を少し強めて言った。


「みんなの要望を聞くよ、オレの身体が持たなくなる前に、上手く発散させる方法とかさ、あればいいけど……」




 オレは3人娘を前に、彼女たちの要望を聞いた。



「……狩りに行こうよ!」


「いつも一洸さんの保管域に入ってやる狩りじゃなくて、本当の魔物狩りです」


「……あの、それで、発散できるかわからないけど…… 今は、その、危ない感じが必要なんです」




 決まりだ、オレは彼女たちに従った。

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