第116話 光力測定
オレたちはシミュレーター改から出て、互いを見た。
大きく伸びをした状態のままミーコに抱き着かれ、また倒れそうになる。
「おにいちゃん、一緒に殺されたね! 次は買い物行こうよ!」
隣のリロメラが翼を伸ばして背伸びをしているのを、ハッチを開けたエイミーが見て、また驚いている。
「……ああ、あの時の天使はあなただったのね」
リロメラは人間離れした美しさをエイミーに直接披露したが、さすがの彼女もたじろぐほどだったようだ、その次の言葉がでてこない。
「一洸はとれなかったようだな、バトラー乗りさんよぉ……
人間も亜人もえげつねぇや。
ま、それが面白ぇんだけどな」
みんなと買い物か、たまには街に出るのもいいな。
「ね、ミーコちゃん、身体の具合はどう?
さっきの術式の効果は続いてるかしら」
ネフィラがミーコに聞いてきた。
「全然大丈夫だよネフィラ先生! あたし、元気がないときはアレに乗ると、すぐに絶好調になる気がする!」
「……そうよね、そうなんだけど、加減というものがあるから。
みんなの機体は、調整したらまたテストしてみるわ。
普段の時でも、身体と心の両方に変化がでたら、すぐに知らせて頂戴ね」
「うん、わかった!」
ミーコがそう言い終わるのを、でてきたレイラも聞いていた。
「レイラちゃん、あなたもよ……
少しでもおかしな兆しがあったら、すぐに知らせてね。
アンナちゃんは、まだ休んでるわ」
アンナの具合が悪いのか?
「ネフィラさん、アンナは大丈夫なんですか?」
オレは、心配な表情を隠さずに聞いた。
「大丈夫よ、落ち着かせるために、休ませてるだけだから。
身体は至って健康なの。
でも、この試みはまだ全てが未知のものなのよ、何が起こるかわからないわ」
アンナ……
買い物に連れて行って大丈夫なんだろうか。
そうだ、忘れるところだった。
「レイラ…… 勝者はきみだ、ゲームのご褒美はなににするんだい?」
オレは片腕をミーコに占領されながら、レイラに聞いた。
この子は言葉を汲み取る以上に、その表情から察してあげないといけないので、しっかり観察する必要がある。
「……あ、あの」
レイラは予想した通り、何か言いにくそうな要望を持っているようだ。
そのまま顔を真っ赤にして、俯いてしまった。
「レイラちゃん、何を言ってもいいんだよ!
おにいちゃんと二人っきりでお風呂に入るのも許すよ!
あたし、その後に入るけど!」
「ミーコっ!」
オレは言いにくそうにしているレイラへ、リロメラ並の無神経さで言い放つネコ娘に、少し本気で言ってみた。
「……あの、その時がきたら言います。
希望はありますが、今はまだいいです」
レイラの表情が読み切れなかった。
俯きながら言っているのもあるが、何か隠しているな。
ひょっとしてアンナと同じく、この子も休息が必要なのかもしれない。
買い物は二人の状態が回復してからでも遅くはないと思い、ミーコをたしなめた。
「これも検証なんだけど……
絶好調になってしまったメンタルと身体を通常に戻すには、この保管域から出てみた方がいいかもしれないわ。
この空間は、いい状態ですら強制的に温存しているのかもしれないし」
確かにそうだな。
オレはネフィラの意見を尊重し、3人娘を一旦馬酔木館に戻して、通常の時間に浸らせて元に戻す試みをしようと思った。
「わかりました。
一旦みんなで外に出てみますね」
オレはエイミーを旗艦に戻し、再び保管域に戻った途端アールに言われた。
“一洸、マナジェネレーター装備が完了したぞ
早速だが、試してみるか”
なんという早い仕事だろうか。
連邦の設計したものでもネクスターナルにかかれば、料理することなど容易いということだろう。
“仕事が早いなアール…… 試してみるよ”
エイミーにリアルタイムで情報を渡さないところなど、流石元人間だな。
“それとリロメラ、光力実測テストをしたいのだ。
じつは機体はもう出来ているのだが、光子リアクターによる増幅がどのレベルまでリロメラに対応できるのか、確かめる必要がある”
リロメラはアールの方を向いて、今まで見た中で一番輝いた表情を見せた。
“おぅ、俺の機体かよ! いいぜ、なんでも言ってくれ!”
既に、ドローンによって用意されていた光力実験の設備。
それは、鹵獲戦艦の反対側に設置され、いつもの居住スペースからは全く見えない場所にあった。
直径5メートル程の円形の装置で、周囲には歩行ドローンがスタンバイしている。
“その円の中に、リロメラが攻撃する時に使う光を放ってみてくれ。
最初は小さく、そして徐々に強く。
決して全開にはしないでくれ、これはまだあくまでテストなのだ”
リロメラはアールに向かって大きく頷くと、手を円の装置に向けて光を放った。
振動と呼べるほどのものではないかもしれない、それはまるで緩やかな波長が空気を伝って感じられるような印象だった。
リロメラが放った光は、円の装置をくぐった先で、暴発するように光を爆散させた。
“もっと強くしてみてくれ”
“おぅ”
その光はもはや、エイミーが初撃で放った炉核弾並みの眩しさで、とても正視できるものではない。
ミーコは目を瞑ったまま、オレにしがみついている。
“もういいよリロメラ、おつかれさま”
アールは、確かに満足そうにそう言った。
最初の話では自信がなさそうだったが、上手くいったのだろう。
リロメラは泣いているのだろうか、その横顔からは月並みな予想をするしかない。
人間でないこの存在の深い心の部分は、オレにはまだわからなかった。
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