第113話 エイミー初ログイン
「え? ……じゃあ、みんなこれで」
エイミー・ロイド少尉は、保管域にある5台並んだアール製シミュレーター改のボックスを前に、諦めたように呟いた。
そのボックスの一つが使用中になっている。
「今使っているのは、ネフィラさんなの?」
「いや、実はもう一人いるんだ、2回前からのネクロノイド殲滅戦に協力してくれてる人物…… というか」
オレが答えると、すぐにアールが続けた。
“人間ではないがな…… ちなみに、この人物はバトラーの搭乗者ではない”
“……その、アール、あなたの製作したラウンドバトラー、設計から構造解析、組み立てまで、あなた単体でやったのよね?”
“そうだ、君たち連邦の神経接続技術だけ、この一洸のバトラーより参考にさせてもらったが、それ以外はネクスターナルの技術で出来ている”
“……”
エイミーは言葉を詰まらせてしまったが、おそらく可能な限りの聞き取り任務があるのだろう、そのまま続けた。
“そうよね、ネクスターナルの技術なら…… あれ以上のものを作るのは不可能じゃないわよね”
文句を言われるのかと思っていたが、そういった方向性で確認したいわけではないようだ。
連邦の兵装を用いずに、魔法の増幅装置を使ってネクロノイドを殲滅、そのネクロニウムを連邦に提供している現状、彼らが文句を言う立場にはないだろう。
“一洸のバトラーは武器の装備がないわ……
映像で見た、彼女たちの搭乗機からは、明らかに強力な武装による攻撃が認められたの。
あれも、アールが装備したのよね?”
“ここで技術的な説明は省かせてもらうが……
ミーコたちの搭乗機には、きみたち連邦が用いている粒子ビームや、炉核弾のような兵装は付いていない。
ネクロノイド殲滅に用いた武器は、純粋に彼女たちの魔法力に由来するものだ。
増幅装置により魔法力を向上させ、武器として用いている”
エイミーの“なるほど”という表情から、連邦側が記録から確認したい部分が見えてきた。
彼らも、手段としての魔法力による攻撃を無視することができないのだろう。
“増幅装置って、魔法力の増幅装置までアールが開発したの?
そんな知識と技術、この短い期間にどうやって蓄えたの?”
オレは一瞬迷ったが、彼らに対して特に隠しておく必要もないと思っていたので、追及された時点で答えるつもりだった。
「そのですね…… この魔法の世界の遺物といいますか、オレが魔元帥になるタイミングで、この世界のオーバーテクノロジーを入手しました。
それは、“魔換炉”と呼ばれているもので、種々のエネルギーを魔法に変換して、力を行使する装置です。
その装置を魔法使い専用バトラーとして、ネフィラさんとアールに開発してもらったんです」
エイミーはまるで、アール製バトラーを探すように見回したが、それはここにはなかった。
“今、調整のために、私のドックに入っている。
今回の戦闘では、基礎的なデータ収集が主な目的であった。
初陣でもあったが、かなり貴重なデータが集まったので、それを反映するための調整作業にあたっている”
エイミーは、視線をシミュレーター改に向けて、しばらく考えているようだった。
「一洸、あのシミュレーター、もちろん使えるのよね?」
「ええ…… その、やりますか?」
エイミーは不敵に笑う。
これを見せたら絶対にそういう話になるだろうと思ったが、その通りだった。
仮想空間内では、すでにリロメラがログイン状態だったので、すぐに反応してきた。
“よぉ一洸、この間はいい勝負だったが、今度は楽勝で勝たせてもらうぜ”
もう一人のログイン名を確認したリロメラが、オレに聞いてきた。
“一洸、オレとお前以外のもう一人、これ誰だ?”
“おれのバトラーを提供してくれた、連邦軍のエイミー・ロイド少尉だ。
エイミーさん、こちらはネクロノイド殲滅に協力してくれてるリロメラです”
一呼吸おいて、エイミーは反応した。
“……第七航行群第23ラウンドバトラー隊所属、エイミー・ロイド少尉です”
“あんたもバトラー乗りかい? そりゃおもしれぇ! お手並み拝見とするか!”
品性のかけらもない挨拶ぶりに、エイミーが固まっている顔が手にとるようにわかったが、このリロメラの行状にはそのまま慣れてもらうしかない。
エイミーの機体の光点が静止したままだ。
おそらく、このシミュレーター改の感触を検めているのだろう。
オレは、360度スクリーンのモードディレクトリーを、近接戦-強にして、深呼吸をした。
“ね、アール…… あのミーコちゃんたちの機体だけど、魔素の流出具合を想定以上に絞った方がいいわ。
この間出してもらった数値の6割位が妥当だと思う。
彼女たちの身体に負担がかかるわけじゃないのよ、むしろ逆。
元気になりすぎてしまうから…… 色々問題が起こる可能性があるの”
ネフィラは、アールに初陣による聞き取り問診の結果を知らせている。
ミーコ、アンナ、レイラは、ネフィラの魔法によって、今現在は落ち着いた状態に戻っていた。
“ねぇアール、おにいちゃん、シミュレーターに入ってるの?”
ミーコが使用中の3台を見て言った。
“使っている。
連邦の少尉とリロメラも一緒だ”
ミーコは、シミュレーターを見つめている。
彼女のその様子を、ネフィラは少し心配そうに眺めていた。
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